04


それから僕らは仲良くなった。
一緒に授業をサボったし、一緒に怒られたりもした。
二人の秘密基地もつくったし、街を隅々まで走りまわって探検した。

でも、どれだけ親しくなっても、彼は決して僕を名前で呼ばなかった。

「枢木」

「あ、ルラン」

彼は、自分が名前で呼ばれるのも嫌った。
その事をつい忘れて僕が名前で呼ぶと、きまって眉をしかめ口を歪めた。

「その名前を呼ぶなと言っているだろう」
「じゃあ、何て呼べばいいのさ」
「ランペルージ」
「えー、長いじゃん」
「枢木とそんなに変わらない」
「変わるよ。『ランペルージ』は6文字。枢木は4文字。…普通に、雨楽って呼んでくれれば3文字なんだけど」
「ふん。馬鹿馬鹿しい」

彼はそうやってばっさり切り捨てた。
そのまま僕の前の席に座り(そこは彼の席じゃないんだけど)頬杖をつく。
さっき話しかけてきたのは彼の方で、何か話があったはずなんだけど、僕の言葉を切り捨ててしまった出前その話を切り出せなくなったようだった。
彼を見ていると時々、自尊心が高いのは大変だなあ、と思ってしまう。

くすっと笑うと、彼は振り向いて、何だ、と不機嫌そうに言った。

「何でもないけど。なんだか可笑しくって」

彼はまた眉をしかめる。

「ねえ」

ちょっと気が付いた。

「その名前で呼ぶな、ってさ、なにか他に名前でもあるの?」

彼は少し眉を上げ、驚いた表情を見せる。

「え?」
「まぁ別に意味はないけど。なんでそこまで名前呼びを嫌うのかなぁ、って」
「だって、何だか…」

珍しく彼が言いよどんだ。

「何だか…違和感、感じないか?」
「違和感…?」

記憶をたどってみる。

「…違和感…、特に感じた事はないけど。…あ」

心に引っ掛かりを覚える。
何だろう?
名前…名前…

「あ」
分かった!

「どうした?」
彼が怪訝な顔をする。

「あるよ、違和感感じたこと」
「ほんとか!?」
「うん、僕、同い年の従兄弟がいるんだけど、その子の名前が、枢木朱雀っていうんだ」
彼が目を見開く。
「なんだか、それが自分の名前のような気がするんだ」

「枢木…スザ…ク…」

彼が呟く。
僕の背中に電撃が走った。

この声に、この名前で、呼ばれたことが、ある。


不思議な既視感。
くらりと目眩がした。




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