その瞳がぼくを焼き付けて透明にするんだ


!)ホストパロ、ネズ紫
「地上に舞い降りた悪魔」「夜更かしパーティ」の続きで紫苑さんのターン



世にも美しい人を見た。この世ならざる美しさだった。なかでも蠱惑的な瞳は印象的だった。耀くその一対の瞳に見詰められると、目が離せなかった。
美しいという単語が陳腐に聞こえてしまうほど、あの人は美しかった。あの人への賛辞はどれだけ言葉を尽くしても足らない。まさに、筆舌に尽くしがたい容姿の人だった。


するんだ


仕事を上がった紫苑が頬を紅潮させてそう言うと、店でボーイをしているイヌカシは、皿を片付ける手も止めずに一笑に付した。

「みてくれだけ立派なやつは、この界隈には掃いて捨てるほどいらぁ。なんせここは、いわゆる花街だからなぁ」

容姿だけじゃない。そよ風のような囁き声、耳を心地よく撫ぜる艶やかな笑い声、ビロードのように滑らかな話し声。
あの人は、声も素晴らしく美しい。

そう捲し立てると、イヌカシはけけけと声をあげて笑った。

「そりゃおまえさん、そいつに惚れちまったんだろうよ。惚れた欲目、そいつの事ぁ何でも良く見えてくるのさ。おまえさんみたく、見映えも性格も良い奴なんてざらにいねぇかんな」

ありがとうイヌカシ。でも、そんなにぼくを過大評価しないでくれ。ぼくなんて、あの人の前では虫けらも同然の存在、ただあの人の美貌の前にひれ伏す奴隷に過ぎないんだから。

「そりゃあ、えらく骨抜きにされちまったもんだな、紫苑。さ、まぁそれは…忘れちまえとは言わねぇが、とりあえず横に置いとけ。ほら、もう帰れよ」

しっしと片手で追い払われながら、さらにあの人の美点を話そうとすれば、今度は失笑を買っただけだった。

「おまえさん忙しいんだろ、話ならまた明日聞いてやんよ」

実際、大学との二重生活を送る紫苑は忙しかった。
不服そうに唇をひき結び、それ以上何も言わずに紫苑は厨房を出ていく。

手は休むことなく働かせながら、イヌカシはその後ろ姿を見送り、困ったようにため息をついた。

そのイヌカシも、高校生でありながら年齢を誤魔化してクラブの裏方で働く身。
早く帰って睡眠を取らなければ、本業の勉学の方に支障をきたしてしまう。

しめっぽいため息を振り払うように頭を振り、早く仕事を終わらせるためにイヌカシは動かす手を速めた。


next...?

タイトルは、macleさまよりお借りしました。




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