終わりの無い夢回路


!)現代パラレル
・サラリーマン紫苑→→放浪人ネズミ
・でも紫苑しか出てこない
・具体性もヤマもオチもない
・ちょっと暗めな気がする




今道を歩いているぼくは、現実なのだろうか、それとも夢なのだろうか。夢、かもしれない。

紫苑は、ふっと異世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。

果たしてこれは、現実なのだろうか。





早朝の出勤、住宅街はしんと静まりかえり、住民たちの気配はどこにもない。車やバイクなどの音も聞こえず、小鳥や羽虫さえも見当たらない。

この世界には、自分しかいないのではないか。

不安に襲われて立ち止まり、穏やかな光りを投げかける太陽を振り仰ぎ、目を細める。
指から力が抜け、手のひらから鞄がすり抜ける。

どさり。

ぎっしり書類の詰まった鞄は、重々しい衝撃音をたて、アスファストの地面に落ちた。
だが、それっきり、他の音は何もしない。風もが凪ぎ、道端に生えた雑草は、まるで陶器で出来ているかのように微動だにしない。

「…ぁ……、」

喉から微かな声が漏れ、その僅かな空気の粗密派が波として伝わり、紫苑の鼓膜を震わせる。頭を抱えてくしゃりと髪をかき回す。

誰モ、イナイ。
ボクノ周リカラ、世界ハ消エテシマッタ。

ありえない思考が、頭の中をぐるぐる、ぐるぐる廻る。

置イテ行カナイデ。

紫苑がパニックに陥りそうになった時、塀の陰からふいっと猫が現れた。
首輪も付けていない、野良であろうその黒猫は、塀伝いに音もなく優雅に歩いている。

ああ、猫だ。猫がいる。
ここに生きているのは、ぼくだけじゃない。

何故だか無性にほっとして、猫を目で追いかける。その視線を感じたのか、猫はゆっくり振り返り、灰色の目でじいっと紫苑を見上げる。

闇夜でも発光するその瞳に見つめられ、はっと紫苑は胸を突かれたような痛みを覚えた。

ああ、何故ぼくはこんなにも孤独なのだろう。
いま、答えがやっと分かった。いや、とっくに分かっていたことなんだ。ただ、気付かないふりをしていただけにすぎない。

彼のせいなんだ。

彼に出会い、ぼくの世界は鮮やかに色付いた。
だけど、その彼がいなくなれば、とたんに世界は色を無くした。
彼がいなければ、無意味なんだ。
ねぇ、きみに会いたい、会いたいよ。
きみは今、どこにいる?

捜すあてのない想い人に思いを馳せ、紫苑は静かに涙を流した。
ひとしきり泣き、気がつくば黒猫はいつのまにか道路から姿を消していた。




タイトルは、macleさまよりお借りしました。




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