真実の世界
!)アニメ完結後、捏造。 紫苑、紫苑。
人波をかき分け、火藍は走る。 この先にきっと…いや、絶対、紫苑がいると信じて。
真実の世界
「紫苑!」
声が、聞こえた。叫び声に近い、今にも泣きそうな声。 紫苑は足を止める。傍らを歩いていた犬も、一緒に立ち止まった。
「…母さん」
正面から、エプロン姿の火藍が駆けてきていた。 息を切らしながらも、火藍は速度をゆるめることなく走ってきて、ひしと紫苑を抱き締める。
「紫苑…、紫苑なのね…!会いたかったわ…」 「か、母さん…ちょっと」
紫苑の腕の中で赤ん坊が、ぱぶぁっ、と声を立てて手足をばたつかせた。
「あら、その子は…?」
初めて気付いた、というふうに、火藍は赤ん坊をしげしげと見る。 頬をそっとつつく。赤ん坊は嬉しそうにきゃっきゃと笑った。
「人狩りの時に、はぐれた赤ん坊を拾ったんだ。今までは、イヌカシが預かっててくれて」 「人狩り?イヌカシ?」 「あ、えぇと…」
火藍が首を傾げる。無理もない、彼女には馴染みのない単語だ。 紫苑が説明しようとすると、火藍はきゃあと声をあげた。
「紫苑!どうしたの、これ、血じゃない!怪我したの?」 「あ…うん」 「早く…早く、治療しないと…」 「大丈夫だよ、母さん」
あわてふためく母を安心させるように、紫苑はにっこりと微笑む。
「いろいろあったけど、もう大丈夫。たくさん話すこと、話さなきゃならないことがあるんだ。後でゆっくり、ちゃんと説明するよ。…けど、母さん。あの人たちは…どこへ行くんだろう」
紫苑は、母がやって来た方へ目を向ける。 たくさんの市民が皆、何かに導かれ操られるように、同じ方向へ歩いていく。
「分から…ないわ」 「母さんは…どうしてぼくがここにいるって、分かったの」 「それは…どうしてかしら。壁がなくなって…ああ、紫苑に会いに行けるって、壁の向こうに紫苑がいるって…何故か、分かったのよ」
どうしてかしら、ともう一度火藍は呟く。 その時、紫苑は何かを聞いた気がした。 はっと、耳をすます。
「…エリウリアスだ。母さん、分かったよ。エリウリアスが呼んでるんだ。ぼくたちも、行こう」 「え?紫苑?」
紫苑の腕で赤ん坊は上機嫌で、えうーと言った。
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タイトルは、巣さまよりお借りしました。
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