さらけ出したら見えたのに


!)
・アニメ沿い
・イヴが倒れて紫苑が地下の家へ連れて帰るまでの、アニメで描かれてない部分を捏造
・タイトルより後は支配人寄りの視点



「オフェーリアは、女のなかでも一番…」

美しい声が、途切れる。
眩しいスポットライトの中で、イヴの体はゆっくり傾ぎ、倒れる。
イヴの卒倒に人々がざわめく。
あっという間に会場は騒然とする。
イヴに駆け寄ろうとする者、劇の中止を悟ってチケットの払い戻しを求める者、事態が飲み込めず呆然とする者。

がたんっ。

紫苑は立ち上がる。
すぐさまステージへ行こうとするその腕を、力河が掴む。

「紫苑待て、無理だ、ここからじゃステージまで遠すぎる、怪我するぞ」
「離してください」

紫苑の身の危険を案じる力河の手を振り払い、紫苑は人波をかき分ける。
イヴが倒れる直前、声が聞こえたから。
聞こえた。確かに、聞こえた。

助けて…紫苑。





支配人はここしばらくの間なかった程、ひどく狼狽していた。
あのイヴが、こともあろうに劇の最中に倒れたのだ。

今まで一度も、こんなことはなかった。
女みたいな面をしていても、体力は人一倍あった奴だった。

これ幸いとイヴをさらってしまおうとする輩どもや、賠償を要求する者たちを、やっとのことで追い払い、支配人はステージに倒れたはずのイヴを探す。

「イヴ!イヴ!どこだ!」

だが、いない。ステージ上にイヴはいなかった。

もう意識を取り戻して、帰ったのか?

一瞬頭に浮かんだ考えを、支配人はすぐさま打ち消す。

いや、そんなはずはない。
もしそうなら、あやつは私に出演料を要求しに来るはずだ。ついでに、保険料とでも称して倒れた分までの金も取られかねない。そんな奴だ。

ならば、どこへ行った。
まさか、どこかの大男に連れ去られたんじゃ、あるまいな。

額に汗を浮かべながら、支配人は舞台裏に戻る。

「イヴ!どこにいる!返事しろ!おい、イヴ!」

ばさっ、と襤褸のような黒カーテンを引いたとき、すみませんと声が聞こえた。

「すみません、支配人さんですか」

支配人はいらいらしながら、振り返りもせず早口にまくし立てる。

「ああそうだが、今は見ての通り忙しいんだ、チケット代ならいっさい払い戻しはなしだからな、さっさと帰れ」
「あ、いや、違います。ぼく、イヴの服はどこか聞きたくて…」
「はあ?」

また頭のイカれたイヴのファンか?服をくれと言われて、こっちが素直にやるとでも思っているのか。

怒りにまかせて一発殴ってやろうと振り返り、はたと支配人は動きを止めた。

「イ、イヴ…」

白髪の少年に抱き抱えられて、そこにイヴがいた。まだ意識は戻っていない。

「イヴ、イヴ、死んじゃいないよな、おいイヴ、目を覚ませ」

足を踏み出し、少年の手からイヴを奪い取ろうとする。

「やめてください、支配人さん。脈拍も呼吸も正常です、でも意識はまだ戻りません。脳貧血かもしれない。下手に動かさないで」

思いの外強い力で、伸ばした腕を少年に遮られる。
支配人は初めてまともに白髪の少年を見る。

「…おまえさん、誰だね。ここいらじゃ見ない顔だな。新しいイヴのファンか?」
「あ、いえ、一緒に住んでます」
「は?」

ぽかりと、口が情けなく開くのが分かった。
少年が冗談を言っているようには見えなかった。

そういえば、と支配人は思い出す。
イヴが、若い男を飼い出したという噂があった。
その若い男というのが、白髪で天然でへんてこりんな奴だというのだ。

支配人はじろじろと目の前の少年を眺めまわす。
…なるほど、噂とぴったり合う。

「おまえさん、名前は」
「え?あ、紫苑といいます」
「うちの団員のイヴとはどんな関係で…」

折しもその時、イヴは少年の手を掴み、しおん…と呟いた。
眉をきつく寄せ、イヴは苦しげに呻く。
とたんに少年は顔色を変え、腕に抱えたイヴを覗き込む。

「ネズミ、苦しいのか?」

イヴはまだ目を覚まさない。
紫苑という少年は必死の形相で、支配人に詰め寄る。

「すみません、早く家に連れて帰ってベッドに寝かせないと。ネズミはここで、イヴの衣装に着替えたんでしょう、だから服を返してください、早く」
「でもね、おまえさん、こちらとしてもその言葉をほいほいと聞くわけには」

目の前のこの少年が、嘘をついてないとは言い切れない。
髪など、いつでも染められるのだ。名前だって偽れる。
支配人がのらりくらりと言い逃れていると、背後から声がした。

「おい紫苑、見つけたぞ」
「あ、力河さん」

ぱっと少年が顔を上げ、顔に安堵の表情を浮かべる。
そこに、エロ雑誌の編集を生業にしているアル中の男がいた。

「あんたは…いつぞやの」

支配人は露骨に顔を歪める。
いつのまに、うちのイヴに近付いたんだ。

その男は、手にイヴの着替えを持っていた。
ほらよ、と少年に渡している。

「ありがとうございました、では」

支配人が混乱して動けずにいる間に、少年はイヴを抱えて歩き出していた。
ちょっと待て、という言葉も出ない。
間抜け面で、イヴを見送る。

「おい紫苑、大丈夫か、イヴの方が背が高いのに」
「大丈夫です、こう見えてネズミは案外軽いので」
「おまえだって軽いだろうが。途中まで付いていってやろうか?」
「ご心配なく。犬もいますから」

そんな会話だけが、風に乗って耳に届いて来る。

ああ、イヴにもあんな仲間ができたのか。
いつも、一人で立っているような奴だった。
誰も必要とせず、誰も寄せ付けない。
そのイヴが。

しおん…。

あの少年の手を握って、すがるように他者の名を呼ぶなど。

そんなことも、あるんだな。
あの少年は、イヴの、何なのだろう。

支配人は、長く息を吐き出す。
そのままポケットに手を突っ込み帽子を被り直して、家へと足を向ける。
まだ混沌としている会場へ戻る気には、とてもなれなかった。


46000hit、月芽さまより紫イヴ小説というキリリクでした!
紫イヴという素敵なリクを全然活かせてなくて…うあああごめんなさい!!(汗)
イヴが一言しか喋ってないし…紫苑は支配人と力河としか喋ってないし…ごめんなさいごめんなさいm(__)m
むしろ支配人の独白多くて(笑)私の支配人贔屓が顕に…むしろ支配人×イヴっぽくてすみませry
アニメでの支配人の絵柄がちょっと残念で、けっこう落ち込みました、私。
あの、またイヴたくさん登場させます!イヴと紫苑でパロ何かしたいなとか…思っております^^
イヴに喋らせたい…。
もうほんとに、こんなんですみません!!m(__)m
これからもよろしくお願いしますー!!_(..*)_

タイトルは、さまよりお借りしました。





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