01


深緑。淡い木漏れ日。葉の狭間から覗く透き通るような青空。

男はこの空間が好きだった。
しかし、まもなくここは失われる。
ここは戦場になるのだから。



胸がさけそうでも
裸足を包む波が
温かくて



ふと顔を上げる。
何か聞こえた...


ただ 触れたくて
ただ 触れたくて


やっぱりだ。
澄んだ声。風のように鼓膜を震わせ、消えていく歌声。



あの波の音が
あなたの声に聞こえます
優しすぎて
振り向いて
しゃがんでしまうのです



ああ、この声…聴いた事がある。
一瞬感じたデジャヴ。不思議な既視感。
彼は、こんな唄が大好きだった。
足元に積もる落葉をゆっくり踏みしめながら、歌声の聞こえてくる方へ進む。


微か 記憶 やわらかくて
どうして消えてしまうの
名前を呼んでいる人
誰か分からないの
愛しているのに


波が教えくれる
他国の歌
さらりさらりと
砂はさらわれて
あなたは帰ってこないのです



静かに去来する寂寥感。寂寥?いや、違う…これは、切ない寂しさ。
知っている。この感覚。誰もが持っているもの。
彼はそっと目を閉じる。立ったまま耳をすます。
歌声にだんだん近づいてきたらしい。


寄せて 消えて 帰ろうよ
どうしていっちゃうの
名前を呼んでいる人
誰か分からないの
愛しているのに



またそっと瞼を開き、歩を進める。
…あっ。
見えた。歌を歌っている。
あれは…少年か?いや、この声は…少女。


もう一度会えると
そう思って手を放したのです
けれどあなたはもう



美しい少女。短い銀髪が整った横顔にかかっている。その銀髪は木漏れ日が映って時々金髪にも見える。
彼はしばしその姿に見とれた。


ただ 触れたくて
ただ 触れたくて




さざ波のような余韻をうっすら残して唄は終わる。
少女は顔を上げると、木立の陰にいた男をまっすぐに見据える。
その目は涙に縁取られていた。

(泣いていたのか…)
微かな驚きとともに彼は気付く。
(しかし、曇ってはいない)
瞳が生きている。輝いている。

この子だ。

直感する。



それが、綺羅との出会いだった。



*使用させていただいた詞は、灰さまの「ただ触れたくて」です。




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