傘は一本でいいでしょ?


!)学パロ、高校生


しとしと、しとしと。
ここ最近、毎日のように雨が降っている。春の長雨。梅雨。
弱く長く降り続けるこの雨を陰鬱だと言って嫌う人もいるが、紫苑にとっては天候など、さして気になることでもなかった。
むしろ、耳をすませばたくさんの音が聞こえてきて愉快なくらいだ。

しとしと、しとしと、しとしと。
空から、密やかな音をたてて、細かい雫が絶え間なく落ちてくる。
ぱたり、ぱたりと校舎の雨樋を伝って雨水が地面で弾けてリズムを刻む。排水溝を流れる水がからころ、しゃらさらと、軽やかな音を奏でる。

それらのアンサンブルを聴きながら、紫苑は傘立てから自分のこうもり傘をとる。その横から、すいっとネズミの手が伸びてきて、優雅な動作で安物のビニール傘を取り上げた。
いつもは黒い大きな傘を使っているネズミが、彼の瀟洒な佇まいにそぐわない使い捨て傘を差すのを見て、紫苑は怪訝そうに首を傾げた。
その仕草に気付き、ネズミは片眉を上げる。

「なに?どうかした?」
「あ、えと…いつもの傘、なくしたのかなと思って」

ネズミは手元の傘に視線を落とし、ああ、と合点したようにひとつ頷き、ははっと声を上げて笑った。

「違う違う、なくすもんか。あんたみたいなドジは踏まない。今朝は家出る時に雨降ってなかったからさ、うっかり忘れて来ただけ。これはとりあえず、コンビニで買った」
「ふぅん、ネズミの忘れ物だって立派なドジだと思うけど。だめじゃん、この時期はずっと雨みたいなもんなんだから、毎日折り畳み傘くらい携帯しなきゃ」
「でも、折り畳み入れてると、鞄が重くなるし」
「それもそうかな」

他愛ない会話をしながら校舎のエントランスから出ようとした時、後ろから出てきた女子学生たちが雨天を嘆く声をあげた。

「あちゃー、降ってるね」
「どうしよう、わたし傘持ってないよ」

それを耳にしたネズミは紫苑を振り返り、どこか得意気な顔をする。
ほら、傘を忘れたのはおれだけじゃない、とでも言わんばかりだ。

「ネズミ、それ貸して」
「は?」

出し抜けに紫苑は言って、ネズミの手からビニール傘を掠め取る。

「おい、紫苑、」

ネズミの抗議の声を聞き流し、紫苑はにこやかに女子学生たちに傘を差し出した。

「よかったら、これ使って?」

恐縮してお礼を言う彼女たちに手を振り、紫苑は自分の大きなコウモリ傘をばさりと広げ、不服そうなネズミの手首を掴まえて、その中に引き込む。

「…あんた、勝手に、なにを」
「ふふ、だってネズミ、」
「なんだよ」
「ほら、」


傘は一本でいいでしょ?



相合い傘っていいよね
相合い傘の二人を書きたかったのに、肝心のそれが書けなかった…なんかずれたorz
次でリベンジ(笑)



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