悪にもなれやしない « X'masキャンペーン!!!12月24日,25日はトリートメントメニューが50%OFFに!! » 駅前で配っているビラのキラキラした文字が目に飛び込んできた。トレンドの最先端のお洒落な(しかし男ウケはイマイチであろう)女性スタッフが配っている、美容院のクーポンだ。 「ありがとうございますー!ぜひご来店下さいっ」 まつげエクステに縁取られた大きな目を最大限に見開いたまま、顔の下半分にだけ貼り付けたような笑顔を作って、女性スタッフはネズミにビラを手渡した。 悪にもなれやしない 「えっ、ネズミ、24日に美容院行くの?」 「ああ」 「なんで?ぼくたちのクリスマスは22日って言ったじゃないか」 「そうだな、なにか問題でも?」 「その予定だと、美容院できれいになったきみを、ぼくは見れない」 じゃあ、24日に会えばいい。24日に聖夜を祝えばいい。簡単なことじゃないか? 「なんで24日に予約したのさ?ネズミ」 でも、そんなことは言わない。言えない。 かわりに、余裕の笑みではぐらかす。 「その日は美容院のトリートメントが半額だったから」 「なんだよそれ。クリスマスはみんな美容院行かないのかな」 そんなことないだろ。デートの前に美容院予約する女の子で繁盛すると思うけど。 「ねぇ、ネズミ。その美容院の予約変えてよ。22日より前に行って?そしたらぼくは、きれいなネズミを見て、きみを愛でながらクリスマスを祝えるじゃない。ね?」 「でも、せっかく半額なんだし、」 「じゃあぼくが差額出すよ!」 「は?」 「いや、やっぱり全額出すよ!トリートメント代!そしたらそっちの方が得でしょ?」 そうじゃない。そういう問題じゃないよ、紫苑。 クリスマスにこだわるなんて、馬鹿げている。そんなことは分かっている。けど、クリスマスは日本においては、特別な日に特別な人と過ごす、1年に1度だけのイベント。誕生日と違って等しく同時に訪れる日。一緒に過ごす人は1人しか選べない。 なんでこんな風に文化が捻れてしまったのだろう。外国のように、家族がそろって団欒するのが本来のクリスマスなのに。そうだったら、どんなによかったことか。 「ね?ネズミ、いいでしょ?」 そして、そんなことは口が裂けても言えないのだ。 いつも、真っ白なこいつの笑顔にほだされてしまう。 「ふふ、言ったな、紫苑。トリートメント、6000円だからな」 「うん!プレゼントも奮発するね!楽しみにしてて」 欲しいのは、そんなものじゃないのに。 わがままな浮気者で遊び人の紫苑さんと、わがままを言ってるようで何も言えないネズミさん。 あましさんのトリートメントのツイートからちょっと違う方向に妄想が転んでしまった^^; back |