「ご注文はお決まりですか」

いつものファミレスに入って、メニューを決めた。
テーブルに置かれた呼び鈴を鳴らす。
やって来た麗しい姿のその人は、類いまれな美しい声でそう言った。





ぼくは我を忘れて目の前の彼を見上げた。
考えていたメニューなんて、すっかり頭から飛んでいた。
それどころか、今自分がどこで何をしているのかさえ、忘れていた。

「あの…お客様。ご注文は…」

形の良い唇を動かし、少し困惑した声音で彼が言った時、やっとぼくの硬直が解けた。
立ち上がり、彼の手を両手で掴む。

「うちに来てください」
「…は?」
「貴方の髪をカットさせてください」
「お客様、」
「お願いします!カットモデルになってください!」

無意識のうちに、叫んでいたようだ。
他のテーブルから、客たちのくすくす笑いが聞こえてきて、はっと我に返る。
しかも自分が、まるで口説くようにそのウェイターに迫っていたことにも気づき、かあっと赤面する。

ぼくが手を放し席に座り直すと、彼は動揺した様子もなく淡々と言った。

「すみませんがお客様。私は勤務中ですので、そのお話はお断りさせていただきます。ところで、ご注文の方をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あ…ご、ごめんなさい…。じゃあ…日替りランチ定食で…」

前回と同じメニューを、しどろもどろに言う。
あまりの恥ずかしさに俯けていた顔を上げると、かれの名札が目に入った。
イヴ、とある。

「かしこまりました。日替りランチ定食ですね。ライスとパン、どちらになさいますか」
「えぇと…ライスで」
「食後はコーヒーと紅茶、どちらを」
「…コーヒーで」
「かしこまりました。すぐにお持ちいたしますので、少々お待ちくださいませ」

彼は手早く伝票を書き取り、くるりと踵を返して立ち去ろうとする。
必死で呼び止める。

「ま、待って、イヴさん」
「…はい」
「今日の仕事は何時まで?」
「4時、ですが」
「分かった、ありがとう。勤務中じゃなければ、大丈夫なんだよね」

彼は無表情のままぼくの言葉を華麗に無視し、今度こそ厨房の奥へ行ってしまった。


***


※ネズミ視点

昼間、変な客に遇った。変、というより、天然、という感じかな。
仕事の終わる時間、今思い返せば、嘘をついてもよかったんだ。
なんでおれは、律儀に答えたんだろう。

店のドアを開け、外に出る。

「…あんた、ほんとに待ってたのかよ」

すぐに、白髪のあいつが目の前に飛び出して来る。
きらきらと、小学生のような無邪気な笑顔を浮かべている。
その表情が気に食わなくて、おれは思いっきり顔をしかめた。

「あ、イヴさん!よかった、すれ違いにならなくて」
「ったく。ネズミでいい」
「え?」
「名前。あんたは?」
「あっ。ぼくは紫苑。よろしく、ネズミ」
「ふん」
「どうしたの?頭でも痛い?昼間と随分、感じが違うけど」
「は?昼のあんたは、お客さん。職務中は客に敬語を使うのは当たり前だろ。で、今のあんたは、ただの他人」
「ただの他人、かあ…」
「なんだよ。文句あるか」
「うん。きみの特別になりたいなって。へへへ」

女に言うような台詞を平然と吐き、そいつは笑う。
普通なら嫌悪感を感じるところだが、そいつの邪気の無い笑顔の前には、もう脱力するしかない。

「あっ、ネズミ。出来ればカットモデルになってくれないかな。ぼく、理髪師の駆け出しなんだ」
「へぇ。実験台になれと。このおれに」
「違うよ!ぼく、駆け出しとはいっても将来有望だから!」
「…それ、自分で言っちゃう?」

はあ、と大げさにため息を吐き出し、芝居がかった仕草で肩をすくめてみせる。
おれのそんな否定的な態度に気付いていないのか、空気が読めないのか、それとも敢えて無視しているのか、紫苑はにこにこと笑いながらおれの手を取る。

「ね、今から美容院に来てくれない?もちろん、カットの注文とかセットの依頼とか、何でも聞くから。お願いだよ、ネズミ」
「…じゃ、とりあえず1回だけ。気に入らなかったら二度と受けない」

誠意のこもった言葉と熱意に負けたのか。
おれはつい、了承していた。

「やった!ありがとうネズミ!恩に着るよ!とびっきりかっこよくカットしてあげる!」
「…やっぱり、なんか不安になってきた」
「ぼく、腕は確かだよ?安心してよネズミ」

嬉しそうに紫苑はまた笑った。
…もしかしたらおれも、この笑顔に一目惚れしていたのかもしれない。



50000、純さまより『中の人パロで、ファミレスでバイトしているネズミに一目惚れしてカットモデルを頼む新米美容師な紫苑のネズ紫or紫ネズ』でした!
素敵なリクをありがとうございました…!!
リクいただいた瞬間からうわああってなってました(それなのにこの出来…)
いや…もう…なんといいますか…妄想を形にするのは難しいですね!

えっとこれ、KYで親しげで普段の会話にさりげなく口説き文句を挟んじゃう天然タラシ紫苑×演技力半端ないのに何故か紫苑に上手を行かれてしまうツンデレ美人ネズミを…書きたかったのですが…。

紫苑はキラキラオーラ振り撒きながら美容院で若い女の子たちの髪をシャンプーしたりカットしたりしてて、それ見てるネズミが嫉妬してふくれてたりとか。

ネズミは紫苑に「…おれ、自分の髪を触らせたの…あんたが初めてなんだからな」ってツンデレなノリで告白したり。演技力抜群なはずなのに、この時ばかりは頬を染めていたりして。
そんなかわいいネズミに紫苑さんはカアアアァッってなってたら良い!

それからネズミは「あんたの髪…すごく綺麗。おれも美容師になりたい。弟子にしてくれる?紫苑」とか上目遣いでおねだりとかね!
もうこの辺で紫苑さんはプッチンしてそうだな!ネズミ意外と確信犯だな!

…などなど、妄想の広がりは限界を知らないのですが、文章にはなってくれません…あああ文才を分けてください純さん…。
こんなどうしようもない中の人パロになってしまいましたすみません、返品書き直し受け付けておりますので!
これからもどうぞよしなにお願い致しますm(__)m
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