ソーダを見るとね 人魚姫を思い出すの しゅわしゅわ メロンソーダ そんな事を従姉妹にぽろりとこぼすと、彼女は「え?」と首をかしげた。 「人魚姫ぇ?なんでソーダで人魚姫」 「そうよ、人魚姫。ソーダの泡がさぁっと浮上していく様子が、」 「あぁ二酸化炭素がね。そう考えれば炭酸飲料って地球温暖化促進飲料じゃ…」 「ちょっと、話の腰を折らないでよ。もう、摩姫になんか話したのが間違いだった。夢の欠片もないんだから」 「悪ぃ悪ぃ、話の続きをどうぞ?」 「馬鹿にしてるでしょ」 「そんなことないけど?」 「ああもういいってば」 「紗季、意地っ張りは損だよ」 意地っ張りとかじゃない。 この幼なじみの従姉妹の思考は、根本的に私とは違うのだ。 摩姫は現実的で、私は夢想家。 それなのに意外と相性は良くて、幼い頃から仲はいい。 だから別に、摩姫にメルヘンな事を分かってもらおうと思ったわけでもなかった。 ただ、思ってしまっただけ。 泡となって消えていった人魚姫のことを。 泡になって、そのまま空気になった、とか、清らかな心を認められて楽園へ導かれた、とか、恋の精霊になった、とか…泡になった後の話は何パターンかあるけど、やっぱり人魚姫の最期は、泡。 だから私、炭酸飲料はあまり飲みたくないの。 そんな事を言うとまた、摩姫に笑い飛ばされそうだけど。 翌日。 突然、摩姫から電話がかかってきた。 「もしもし」 「紗季、ちょっと、なんで来ないんだよ」 開口一番、摩姫は不満そうに言った。 「え?今日、何か約束してたっけ?」 「そらっとぼけんなよ。メルヘン一筋なあんたが忘れてんの?今日は何月何日?」 「えぇと…10月31日。…あ」 「思い出した?」 「ハロウィン!…え、でも、ハロウィンはメルヘンと関係ないよ?」 「細かい事いちいち言わない。まったく、世間でさえハロウィン色に染まってんのにさ」 はぁ、と受話器の向こうからため息が届いてきた。 「で、どうしたの、摩姫。仮装してご近所練り歩く?」 「馬鹿、あたしがそんなのするか。とにかく、家に来なよ」 それだけ言うと、ぷつっと電話は切れた。 まぁ今日は予定もないし、従姉妹の家は目と鼻の先、摩姫が来いって言うなら行こうかな。 部屋着とたいして変わらない服装で摩姫の家に行く。 「こんにちはー」 玄関で靴を揃えながら伯母さんのいる台所あたりに声を投げる。 すると伯母さんの返事が聞こえる前に、摩姫が走り出てきて私に言った。 「違う違うっ、今日の挨拶はトリックオアトリートだってば!」 「あ、そか。じゃ、改めまして、トリックオアトリート」 すると、くすくす笑いながらちょっとふっくらした伯母さんが出てきて、いらっしゃいと言った。 「紗季ちゃん、摩可が2階で準備してるわ」 「あ、はい、お邪魔しまーす」 伯母さんは優しそうな目元を和ませて、後でジュース持って行くわね、と言った。 「ほら紗季、早く。妹たちが痺れ切らしてるって」 「え?」 「今日はハロウィンパーティーなんだよ、我が家主催の!」 「…あんた、ハロウィンにかこつけて、ただパーティー騒ぎしたいだけでしょ」 「もちろんだけど、何か問題でも?」 そう言って摩姫はにっかり笑った。 摩姫の3人の妹たちとお菓子を食べながらきゃいきゃい騒いでいると、伯母さんがジュースを持ってきた。 あ。メロンソーダだ。 コップの底から泡が昇って消えてく。 「ほら」 摩姫が私にジュースのコップを差し出す。 「せっかく美味しい炭酸飲料なのに、飲まないなんて損だよ。紗季はただでさえ食わず嫌い多いんだし」 「え、でも」 私はちょっと戸惑う。 だって、泡、なんだか。 「人魚姫のこと考えてんでしょ?大丈夫、人魚姫は幸せだったんだよ」 摩姫は慣れないことを言った。 「なんであんたが炭酸飲まないのかと思ってたら、原因がお伽噺だったなんて。その様子だと、まだ飲んだことないんでしょ。一回飲んでみなよ」 ちょっとびっくりした。 私の考えてたこと、摩姫はお見通しだったんだ。 やっぱりこの飲み物には迷うけど。 摩姫の厚意を無駄にするのも…と思って一口飲んでみる。 「どう?飲める?」 「…舌が痺れる」 「でも美味いでしょ」 「うん。やっぱりこの泡は人魚姫なんだね」 「は?まだ言うか」 「うん。だってさ」 メロンソーダは、ちょっと切ない味がしたんだ。 ***あとがき*** あんまりハロウィンと関係ない感じに…orz こじつけ感満載ですね(爆) あ、二人の登場人物の年齢ですが、だいたい小学校4年生くらいだと思ってやってください。 自分が昔、炭酸飲料のしゅわしゅわの正体は二酸化炭素だって事を理科の授業で知って、カルチャーショックを受けたのが…確かこのくらいの年齢だったはずだから… オリジナルで短編なんて…初の試みでした! 慣れない事したので玉砕しました(←いつものこと) それでは、ありがとうございました/(^o^)\ |