「君には失望したよ…ギン」

「彼女には手、出さんとって下さい藍染隊長」


向かい合う二つの影。

かつては同じ隊の隊長と副隊長という間柄だった二人であり、現在は霊王を倒す前段階として空座町と尸魂界滅亡の計画を遂行中のはず…だった。


そうーー

藍染が苗字 名前という一人の女に手をかけようとしなければ。


「いくら藍染隊長といえど、名前にだけは指一本触れさせません」


自分がこんなにも一人の女を庇う為に…

長い年月をかけて聞き出した“藍染の秘密”という武器を棒に振り、飛び出してしまったのかと思うと笑えてきた。

…だが、それもギンにとっては当たり前の事で。


「いつからだい?」

「…?」

「いつから“彼女”を見ていた?」


藍染の言う言葉の意味が分からず、ギンは首を横に傾げた。

いつから、だなんて。だってそんなの、


「“初めから”…ですから」


それは幼い頃のギンや乱菊、そして“彼女”がーー名前が死神になるよりももっとずっと前。

出会った頃から、既に。

その瞬間から、自分は。


「いつかボクが犠牲になったとしても彼女は…名前だけは護ると決めてはったんです」


ならば今ここで自分がかつての上官に刀を向けるのも仕方無いこと。


ーーだからその間に逃げるんや名前。

藍染隊長の手が届かないずっとずっと遠くへ。

ほんまはボクも一緒に逃げてやりたかったんやけど…


「本当に残念だよ、ギン。
君はもっと冷酷で、頭の良い男かと思ってたんだがね…」


薄く笑った藍染の手が斬魄刀へとかかり、その刀の背をスッと撫でた。


「冷酷で頭の良い男、ですか」


自分かてそう思てたんやけどなぁ…と独り言のように続け、ギンもまた己の斬魄刀へと右手をかけた。

あぁ、もう。どうしてくれるんや名前…

こんな時だってのにボクの頭の中から君は消えてくれなくて、

むしろより一層ーー


「離れがたく思てしまうんやろ…」


会いたい、会いたい、と。


君が泣く姿を見たくないからと見送り閉じた瞳にーー

けれども、今。

その目を開いて君を…

映したくて映したくてたまらへんよ名前…


「“彼女”に言い残した事があるなら伝えよう。もっとも、“彼女”に伝えるのはその死に際の前になりそうだがね」

「殺させへんって、言うてますやろ」


誰かを頼るなんて滅多にした事のない自分が。

だが、それでも。名前を護る為ならとーー

黒崎一護という旅禍の一人は殺さず、ヘマをしたように見せかけて生かした。

自分に何かあったとしても彼が…黒崎一護が藍染を倒してくれれば名前は生きる事が出来るから、と。

でもきっと彼女はボクを失ったら泣いてしまう…

だから乱菊にも託した。

藍染に乱菊を殺したと偽り、乱菊に“白伏”をかけてその気配を殺させた。


だから大丈夫や名前…

例えボクがいなくなったとしても、君はこの先を生きていける。


「終わりにしようか。ギンーー」



君のためなら喜んで.





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