※注意※


・当方の刀剣乱舞知識はアニメ寄り、ゲームはビギナー。
・キャラ崩壊&かっこいい刀剣男士はいない。
・女性審神者で、性格はコミュ障でダメ審神者(基本、刀剣男士召喚&具現化以外のことは出来ない&基本バカです)。
・合言葉は“バファリンの半分は優しさで出来ている。夢あるあるの話の9割は捏造で出来ている。” 
・かなりのオリジナル設定&オリキャラ乱舞。
・この物語は、夢主のおバカ女審神者と長谷部は生まれた頃からの付き合いで、長谷部は夢主に過保護で大体それで事件が起きて、それに本丸の男士達が強制的に巻き込まれながらも生暖かい目で見守っている感じでお送りしております。
・安定の駄文・駄作クオリティは通常運転。
・全国の江頭さん……ごめんなさい。



以上を読んでもバッチコイの猛者の方のみお進み下さい。











―降り出した雪が、大地を白く覆い隠すように
―時間の流れが記憶を上書きしていく
―それは辛かったことも
―幸せだったことも
―すべてを覆いかくして新しくしていくのだと
―目覚める度に思い知る今日この頃だ。
―それは……きっと良いこと……なんだろうが。





西暦2205年、時の政府は歴史改変を企てる“時間遡行軍”に対抗するために、物質を具現化する能力を有する“審神者”なる者達を登用。
審神者達は、悠久の歴史の流れの中で生み出された至宝である刀剣に宿りし魂を現世に呼び覚まし、彼らに人の形を与え、時間遡行軍との戦いへ彼らを投じる―刀剣から人の形代を得、現世に顕現した彼らを人は―“刀剣男士”と呼ぶのだった。


(……き、気まずい……。)


リニアの窓側の席に座った審神者―苗字名前は、速度重視のリニアの構造の弊害で楽しむ景色など映らないのだから、車窓自体作った意味がないのではないかと乗客の9割に突っ込まれているリニアの車窓に顔を向けたまま、政府主催の審神者定例会議へ参加するために、審神者の管轄省庁がある首都圏に向かっていた。

常ならば、彼女の隣には彼女の“セコム兼保護者”の刀剣男士の“へし切長谷部”がいる筈なのだが、今日、彼女の隣にいるのは最近、彼女の本丸に顕現した刀剣男士である“一期一振”であった。

この本丸の審神者である彼女は重度のコミュ障・人見知りであるため、諸事情で彼女が生まれた頃から共にいる長谷部にしか心を開いておらず、常に長谷部が彼女の近侍として付き従っており、本丸においても滅多に自室から出て来ない彼女と長谷部を除く他の刀剣男士との意思疎通は長谷部を通して行われ、政府への報告や会議など外部への外出のお供も長谷部の役目であった。

常ならば、彼女の隣にいるのは長谷部である筈なのだが……何故、長谷部の代わりに一期一振が隣にいることになったのか……。
その理由は、話を数時間前に遡ることになる。

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―数時間前の名前の本丸。
―名前の自室(審神者執務室)。

「あ、主……申し訳ありません……。」

「ううん……長谷部さん、だいじょうぶ?つらそう……。」

珍しく昼日中から布団の中にいる長谷部の枕元に座りながら名前が、長谷部の額に心配そうに触れる。
本丸の誰よりも早く起き、1番遅くに就寝する長谷部が寝ているのにはわけがあった。
此処数年、流行しているわけではないが刀剣男士間で発症報告がなされている“刀剣インフルエンザ”なる奇病に罹ったからである。
症状は人間のインフルエンザと同じで高熱、咳などではあるが、発見されたのが此処数年、しかも国内でも数10例しか報告されていないため特効薬も予防薬もなく、対処としては安静にしているしかないのではあるが、人間には感染せず、刀剣男士間でのみ感染力が極めて高いことから、長谷部は数日前より、他の刀剣男子の安全を確保するという理由から名前の部屋に隔離されていた。

「それより、少し何か食べれそう?飲み物にする?」

と問う彼女に長谷部は

「主……そんな勿体ない……本来なら俺が主の御世話をする立場ですのに……。」

「気にしないで。私、うれしいのよ?いつも長谷部さんにしてもらってばっかりだから。」

と微笑む彼女に長谷部は涙ぐみながら

「あるじ……御立派になられて……長谷部は幸せ者です。」

「もう……おおげさなんだから……。」

と言うふたりに水を差すかのようにノックもなくスパーンと襖が開く。

「はーい、はーい!政府時間監査及び管理省・審神者管理部のエリート官僚・ダンディ江頭(30)が通りますよっと。リア充爆発しやがれ!っーかお前らマジでデキてたら殺すからな!何故なら俺の首が飛ぶアーンドー完璧かつ傷のない俺の経歴が重傷負うどころか、刀剣破壊並に跡形もなく木っ端みじんに粉砕されるからだ!ほらお粥と飲み物。有り難く受け取って食って速やかに治しやがれ!存在自体が非常識な付喪神!」

とズカズカと入って来たかと思うとガチャンと長谷部の枕元にお粥と飲み物がのった御膳を置いた。

「……2時50分殿……せめてノックくらい「だっかっらっ!江頭だってんだろうが!こちとら学生時代からカウントして23年間……聞き飽きてんだよ!その台詞な!今病人だから聞き流すけど次言ったら体にくまなく塩か海水ぶっかけるからな!」

と長谷部の胸倉を掴み怒鳴る江頭は、ふと部屋の隅を見ると江頭の登場に驚いた名前
が部屋の隅で震えている姿を目で捉え

「ねえ……いい加減……馴れてくんない?流石に俺も傷付くんだけど……毎回、毎回、その……DVされた夫にある日、偶然、街で遭遇した時みたいな反応……。」

と溜息をついた。彼は政府職員であり、この本丸の担当官でもある。半年前に寿退官した後輩の山崎に代わり担当官に就任したばかりであった。
担当官は普段は首都圏の省庁におり、前任の山崎も現担当の彼も担当の本丸は1つであるが、人によっては2、3と同時に複数の本丸を兼任する者もいるため、余程の非常事態が本丸に起きない限りは本丸に来ることはなく、こんすけ若しくは電子メールでのやり取りが殆どであった。(江頭は「俺はリアリストなんでな。」という理由から“こんすけ”は利用していない。そのため名前の本丸では“こんすけ”はペット化している。)

今回は長谷部が“刀剣インフルエンザ”に罹ったこともあり、特別に出張しているのだった。
ふと腕時計を見た江頭は

「そういや……今日の定例会議、彼女ひとりで行かせんの?」

江頭が問うと長谷部が

「いえ……前に主がおひとりで審神者福岡大会に向かわれた時……何故か宗谷岬(北海道、日本の最北端と言われる場所。ちなみに名前が買って来たお土産は、本丸人数分の“まりもっこりのキーホルダー”でした。)まで行かれたので……。それは……それに熱も下がりましたし……いつも通り俺が行こうかと……「いや、それ止めて。今の君……歩く病原体だからね。出歩くだけで、息してるだけで迷惑だからね。っーか乗り場、間違えても行かねえだろう宗谷岬。そこまでいくと、ある意味で才能だな方向音痴も。」

眉間を押さえながら呻く江頭に長谷部は

「しかし……主を匂いで判別できる刀剣男子士は、この本丸には俺しか……。」

「いや、付き添いにその条件必須なの?っーか……そんな特殊能力……君だけだからな。この変態刀剣男士。なんでメンタルチェック引っかからなかった君。」

今度は盛大に溜息をつく江頭だった。

「俺が付いていくわけにも行かないからな……彼女いない間に君の世話は俺がしないとだし……。「だから俺が……「ウルセー。黙ってこの12畳から1歩も出ず大人しく寝てろ。この変態病原体。」

どうしたもんかと思いながら、食べ終わった食器を持って江頭が厨に降りると

「あ、2時……じゃない江頭くん。ありがとう。」

燭台切が笑顔で御膳を受け取る。

「おい、今2時50分って言いかけただろう?ま、いいや。とりあえず、あの変態の主萌はまだ外に出せないから、今日の定例会議の付き添いは無理そうだわ。俺的には病気関係なく永遠に本丸から出さないほうが良いと思うけどね。あのド変態。」

燭台切から湯飲みを受け取りながら言う江頭に、燭台切は

「うーん……困ったねえ。長谷部くん以外とお出かけしたことないんだよね……主。けど1人では行かせられないし……。」

「光忠が行けばいいんじゃないか?」

食器洗いをしながら大倶利伽羅が呟く。

「うーん僕でも良いんだけど。伽羅ちゃんと歌仙くんが、この後、遠征でしょ?今回の定例会議は泊りがけだから……僕までいなくなると……食事作れる子が居なくなるんだよね。かと言って……主が気を遣わずにリラックスしてくれて、きちんとヨソ見せずに目的地までエスコート出来る子って限られちゃうし……。」

顎に手を当てながら考え込む燭台切だが、はたと思い付いたように

「あ、あの子ならいいんじゃないかな?平野藤四郎……平野くん。あの子、わりと主と喋ってるし。」

と江頭に話かける。江頭はお茶を飲み干した後

「……その平野って……彼女の匂い判別できるの?」

「何それ……。」


======

「じゃ平野くん。頼むね。」

「はい、お供ならお任せください!どこまででも御一緒しますから!」

と平野藤四郎が笑顔で返事をする。そんな彼に燭台切は

「うん。良いお返事だね。会場までの道程とリニアの乗り場と時刻表は渡したスマホに入ってるから。分からない事があったら、いつでも連絡して。」

「では私は、主殿と弟の見送りに行って参ります。今回は荷物もありますからな……ところで主殿は……。」

とスーツケースを持つ一期一振が、自分達の主の姿を探し辺りを見回した。

「ああ……うーん。」

と苦笑しながら言い淀む燭台切の声に答えるように、彼の後ろからポロポロと涙を流している名前を肩に担ぎあげた江頭が肩で息をしながら登場する。

「……ま、待たせたな。ちょっと忠犬ハセ公と御主人様を引き離すのに手間取ったわ。」

と言うと彼女を下し平野達に渡した江頭は玄関先に座り込んだ。

「いや……この方たち、別に一生の別れでもないのに、“行ってくるね”、“お気をつけて……。”、“やっぱり、もう1回だけ長谷部さんにお別れ言ってくる。”、“あ、主。どうなさったんですか?”、“……少し心配になって……後、さみしくて……。”、“主……俺も主のいない世界になど生きていたくはありません……。”、“長谷部さん……。”を延々30分エンドレスリピートするもんだから、ぶった切って引っぺがしてきたわ。明日の夕方には帰ってくるだろうが……ああっ!もう!!」

アガーッと頭を掻きむしる江頭に、一瞬、無言になる燭台切達だったが

「あはは……リニアの時間もあるし、そろそろ出発しなよ。」

「そ、そうですね。では行って参ります。さ、主……涙を拭いてください。僕では頼りないかもしれませんが……精一杯、お供をさせて頂きます。」

涙ぐむ彼女に平野がハンカチを差し出し微笑んだ。

「……うん。い、行ってきます。」

と平野から受け取ったハンカチで顔を拭きながら名前は立ち上がり、平野達とともに駅へと向かった。


======

―名前達が出発して30分後。

「いやあ……一時はどうなることかと思ったけど、まあ出発できて良かったよね。はい、2……江頭くんもお疲れ。」

燭台切が居間で屍のように伏せている江頭に御茶を差し出した。

「……おう、燃え尽きたわ。」

ズルズルと体を起こしながら差し出された湯飲みを江頭は取った。

「……リニアに乗れば乗り換えなしの1本で行けるし、念のために駅に職員向わせたから迷うことはないだろう。っーか……何なんだ、あの2人……絆強いってレベルじゃないだろ?本当にデキてないよな。たださえ“数珠丸事件”で上はピリピリしてんのに……。」

1くちお茶を飲んだ後に江頭が呻くように呟いた。“数珠丸事件”とは数ヶ月前に関西地方で起こった女性審神者と刀剣男士・数珠丸恒次の心中事件の通称である。この事件より前から審神者と刀剣男士の恋愛は“数珠丸事件”のようなレベルまでいかなくても、必ずと言って良い程に不幸な結末を迎えるため、時の政府は審神者と刀剣男士の恋愛を法令で禁止しており、彼らがそのような関係になる前の予防策として、審神者と刀剣男士のメンタルチェックを定期的に行い、チェックに引っかかる審神者・刀剣男士を隔離し矯正と治療を行うなどしてきた。当然、そんなことが起これば本丸担当の政府職員にも処罰が課され、出世が出来たとしても名前ばかりの出世である閑職巡りか、出世コースは絶望的と言われるため、江頭が神経質になるのも無理のない話であった。燭台切は複雑そうな笑みを浮かべると

「……まあ、長谷部くんは主が生まれた時から一緒にいるし。付き合いは長いからね……それに本丸の中で唯一……主の真名を知ってるのも長谷部くんだけだし。」

1くちお茶を飲む燭台切に、項垂れていた江頭がガバッと起き上がり

「……ちょっと待て。それ聞いてないぞ。審神者が刀剣男士に真名……本名明かすのは政府の条項でも禁止している最大禁忌だ。」

「お、落ち着いてよ。あの2人は主が生まれた時から一緒にいるから、それで自然と知ってるだけで……。それにこの事は政府も知ってるからさ。」

と迫る江頭に、少し彼の勢いに押されながら燭台切は答える。
真名……本名を明かすことは普通の人間同士には問題がなくても、付喪神である刀剣男士のような超霊的存在に明かすことは、服従および従属……彼らの物になることを意味する。
本来は付喪神である刀剣男士の方が審神者より立場は上なのではあるが、現世では刀剣男士を管理する立場にある審神者の方が上の立場にいなければならず、そのため立場が逆転しかねない真名は、どんな事があっても明かすことは最大禁忌として法的にも禁止されていた。それが、例え審神者としての任期を終えた後でもだ。
それは江頭がこの部署に異動してきた折に行われた初任者研修で真っ先に習ったことであり、その法令が作られることになった―極秘事項扱いとなっている“グラビティ0事件”の詳細を知っていれば当然の反応だった。

「しかし良く政府が許したな。審神者の真名を知る刀剣男士を同じ本丸に置くなんざ……いつ爆発するか分からない爆弾を抱えて過ごすようなもんだぜ。」

半分呆れ顔で呟く江頭に燭台切は

「……そうだよね。けど長谷部くんは、その代り……。」

燭台切が言葉を続けようとした瞬間、彼の声を遮るように居間にある電話が鳴った。
燭台切は立ち上がると電話を取った。

「はい、あ、いっちゃん?どうしたの?うん……え?」

どうやら電話の相手は名前と平野を見送りに行った一期一振からのようだった。
江頭も立ち上がり、燭台切にスピーカーフォンにしろと彼の横に立ちジェスチャーする。
燭台切は無言でうなずき、スピーカーフォンのボタンを押すと一期の声が聞こえた。

『実は……平野が主殿の随行を出来ぬほどの重傷を負いまして……。代わりにどなたか、こちらに来て頂けないでしょうか?』

駅にいくだけで重傷を負うという何とも要領を得ない話に、燭台切も江頭もお互い顔を見合わせ首を傾げた。すると受話器の向こう側の一期も何となく燭台切達の様子を察したようで、言いにくそうな声で説明を始めた。


―遡ること30分前
―本丸最寄りの駅

『では、平野……主殿を頼んだぞ。着いたら連絡をするように。』

平野にスーツケースを渡しながら一期が言うと、平野は

『はい。お任せ下さい!では、行って参ります。』

笑顔で答える。それに一期は微笑んで彼の頭を撫で

『この通り身は幼く見えますが……平野はしっかりしておりますゆえ……何なりとお申し付けください。この子は兄弟の中でも何事も卒なくこなしますから。』

そう名前に告げた時

『チケットの手続きが済みました。今から乗車して頂けます。』

駅の女性職員がチケットを片手に名前達に近づいてきた。それを見た平野は素早く女性職員と名前の前に立つと

『こちらです。お手続き有難うございました。』

と丁寧に頭を下げた。それに女性職員はクスッと笑うと、平野にチケットを手渡し

『偉いのね。お姉さんのお手伝いかな?しっかりしてるのね。』

と平野に目線を合わせるように屈みこみ、ポケットから飴玉を取り出すと

『そんな良い子には御褒美をあげなくちゃね。はい。』

と平野に握らせると、彼の頭を撫で立ち上がり名前に向かって

『かわいい弟さんですね。』

と言い軽やかに去っていったのだった。


―戻って現在。

『……自分よりもはるかに年下の20数年しか生きていないうら若い女人に子供扱いされたことで“そんな自分が主殿をお守りできるのか?”という自問自答を繰り返した結果……精神的な重傷を自ら負ってしまったようで……。あと、リニアの乗車料金が平野の分が子供料金になっていたことがトドメになったというか……まさに検非違使並の真っ青な一刀両断攻撃でした……まことに申し訳ない。』


「ふーん……へえー……そっかあ……それじゃあ仕方ないよね……うん、うん、平野くんらしいよ。うん……。」

燭台切は額を押さえながら返答する。粟田口は一期を除けば、ほとんどが子供のような外見ではあるが、年だけは3桁は優に超えている所謂とっあん坊やの集団なのだ。
外見に相応なメンタルをお持ちの短刀もいれば、平野のように外見にそぐわない経た年の数に相応しいメンタルを持つ短刀もおり、今回はそれが悪い方に作用したようであった。


(しまった……厚くんか博多くんか乱ちゃんにしとけば良かった……あ、乱れちゃんダメだ。本丸に来た早々、主と一緒にお風呂入ろうとして長谷部くんにマジ切れされて接見禁止命令くらったんだった……僕が長谷部くんに殺される。)

さてどうしたものかと思案している燭台切は時計を見た。
幸い余裕を持って出たせいか、後2本送らせても十分間に合うとなと思った彼が、後ろを振り返った時に、顔面蒼白になったかと思うと急に受話器を投げ出し居間から出ていってしまった。

投げ出された受話器を江頭がキャッチし電話が切れてないことを確認すると

「あっっぶねえなああ……急にどうした………。」

と燭台切が見た方向を彼が見ると、彼も声にならない叫びを上げた。無理もない、そこに井戸から出て来た“例の髪が長すぎて顔が見えてないあの子”よろしく、畳を這っている長谷部がいたのだから。

「お、おまおまおまおま!何で出て来た!他の刀剣男士に感染するだろうがああああ!この刀剣不足の時にやめてくれえええ!」

と長谷部を名前の部屋に引きずり戻そうとすると

「フッ……話は聞かせてもらった……平野まだまだ甘いな。それしきで精神が折れるとは……やはり、ここは俺の出番「ふざっけんな!このド変態!歩くアウトブレイク!彼女に関しては常時メンタル重傷のお前にだけは言われたくないと思うよ!?平野も!取りあえず部屋戻るぞ!皆!今、絶対に出てくんなよ!いいか!本当に出てくんなよ!特に鶴丸!これフリじゃねえからな!そんな驚き今いらないからな!」

片手で受話器を器用に握り、もう片手で長谷部の足を持ち引きずりながら叫ぶ江頭は

「一期!平野の迎えは他を寄越すから。とりあえずお前が行ってくれ!頼む!俺、このバカを早急に隔離しないと……ゴフッ!何をしやが「主は一期一振が苦手だと仰っていた!奴は不適任だ!「いいや、お前以外なら今は誰を付き添わせても問題ないね!くたばれ!駄犬ハセ公!ああ!?元祖・中二病の魔王自称する元の主の所に今すぐ強制送還したろか!この腐れ刀剣!大人しく寝る気がないなら折れろ!「……クッ……どうして……どうして俺じゃないんだ……「それはお前が、早急に隔離・安静が必要な刀・剣イ・ン・フ・ル・エ・ン・ザ・罹・患・刀!!だからだよ!バカッ!何回言わせりゃ気が済むんだ!バカ?もしかしてアンタ、バカ?バカですか!取り合えず、平野は必ず迎えに行くから!今すぐ彼女連れてリニア乗れ!いいな!」

と勢いよく電話を切った江頭が電話をスピーカーフォンにしたまま通話していたことに気付いたのは、長谷部を布団で簀巻きにして1息ついた1時間後だった。(平野は前田に迎えに行ってもらいました。)



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これが、一期が長谷部の代わりに彼女の隣にいる理由であった。

『主は一期一振が苦手だと仰っていた!』

最後に聞こえた長谷部の声を思い出した一期は、見てもそう面白くないリニアの窓を見つめている自分の主を眺めた。

(何となくは……感じていたけど。実際、知ると……少しキツイものですな。)

と心の中で呟いた。顕現した時から、彼女が自分に余所余所しいのは何となく肌で感じてはいた。それが何故なのか、気にはなりはしたが、所詮、彼女とも仮初の……ほんの瞬く間の付き合いだろうと、前の主のように断片的にしか思い出せないようになるのかもしれない……あの炎に巻かれて燃え落ちた記憶のように……そう思えば、別に追及するほどのことではないように思えたのだ。

主は公正で、自分も必ず遠征や討伐に派遣し、手入れにも気遣ってくれた。
弟達にも良くしてくれている。
無論、他の刀剣男子にも。
長谷部との間には特別な何かはあるのを感じるが、それは彼女が生まれた頃から長谷部といるというのなら納得の話だった。おそらく、他の刀剣男士から見れば自分と弟達との関係も、同じように見えるのだろうから。

人見知りで引っ込み思案で、口が上手くはないが、それを差し引いても良い主だと思う。
それなら、それで十分だと。
所詮、彼女は自分達より先に死ぬ、儚い生き物なのだから。
どんなに愛着を持とうと……敬愛しようと……別れは必ず来る。
それが、明日か……数年後か……数10年後かの話であるだけだ。
別れは必ず来る。

(そして……私も……この人を忘れる時が来る。)


―降り出した雪が、大地を白く覆い隠すように 
―時間の流れが記憶を上書きしていく
―それは辛かったことも
―幸せだったことも
―すべてを覆いかくして新しくしていくのだと


そう思っていると、ふいにクイッと袖口を引っ張られ、一期は我に返り彼女を見た。
彼女は不安そうに彼を見上げると

「……あ、あの……えっと………。」

と何か言いたげに言葉を紡ごうとするが、上手く言えずに困っているようだった。
それに一期は柔らかく微笑み

「焦らずとも結構ですぞ。到着まで2時間ありますし、今日は宿泊ですから……時間はたっぷりあります。主殿が私に伝えたいと思った言葉が見つかった時、いつでもお声をおかけください。今日の主殿の近侍は私ですからな。」

と彼女の頭を撫でた。彼女は少し顔を赤くしながら俯き、一期の腕に少しだけギュッと掴まった。そんな彼女を優し気な目で見つめながら一期は目を閉じた。

(私は……きっといつか、この人を忘れるだろう。いやでも、これからも果てが見えない時間の流れの中に押し流されて、上から新しい記憶を塗り替えられて……それは、きっとこの身が朽ちるまで続く……誰が言ったか“死人に愛なし”と……死ねば、そこで終わる。もう記憶は追っていくしかない……けれども、それもやがて薄れて思い出せなくなる日が来る……それが愛の終わりなら……共にいられるこの時間で精一杯、この人のことを考え……想い……生きていくしか術はない。)

もう顔も思い出せなくなった……かつての日本の覇者となった小さな男のように……きっと、いつか、この傍らの小さな温もりを伝えてくれる少女のことも……時間に流され消えていくしかないのなら……別れのその日まで、精一杯、自分なりの形で愛していこうと……忠誠を誓おうと一期は思った。


(それが、例え……)

「綺麗事でしかなくとも……。」

傍らにいる彼女にも聞こえないような小さな声で一期は呟く。
ただ、それならば……何故と一期は思った……。


「戦うためだけに呼び覚まされたのならば……何故、我々には……人のような心があるのか……。」

―かくも運命とは意地が悪いものですな……とフッと嗤う一期達を乗せリニアは首都圏へと向かって行くのだった。


======

―その頃の本丸。

「ほら!駄犬ハセ公!飯だぞ。」

と江頭は長谷部の猿轡を取り、レンゲにのせた粥を彼の鼻先につきつけた。

「いい加減、解いていただけませんか?」

長谷部の体は相変わらず布団に簀巻きにされたままだったが、江頭は

「解いたら、彼女のとこ行くからダーメでーす。自由になりたいなら治せ。これ真理。」

と冷たく言い放つと、ふと思い出したように

「そう言えば、なんで彼女は一期が苦手なの?」

と江頭が彼に問いかけた。すると長谷部は

「……似ているそうですよ。主の母上と奴の顔が……思い出すから辛いんだそうです。」

という長谷部に今度は驚いたように江頭が彼を見つめた。

「似てるそうって……彼女の母親って……確か14年間、君のために朝夕、神楽舞ってくれた人だよね?顔、覚えてないの?」

という江頭に、長谷部は彼が芯から冷えそうな笑みを浮かべこう告げたのだった。

「……何故、俺が通りすぎていった人間のことをいつまでも覚えていなくちゃならないんですか?向こうが去っていったのに。あの魔王も、長政様も、もう顔すら忘れました……俺が何よりも大事なのは主だけ。死人に愛なんぞありませんよ。それなら、俺は主に全身全霊を傾けるまでです。」

―それが、あの方の……名前の母上の望みだから。

それに対し江頭は

「やっぱり、お前ら人の形はしててもバケモンだわ……お前らに入れ込む奴らの気が知れないね。」

と恐れとも呆れともつかない言葉をつぶやいた。それを聞いた長谷部はニヤリと口の端を歪ませると、彼にこう告げた。

「だから?」


―死人に愛なし。






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