ふと夢想する。
もし、主を隠してしまえたら。
自分のものにしてしまえたら。

だが歴史を守る為に戦うあいつを仲間から取り上げ、隠してしまうのは悪党のすることだ。
…実行することはないが。
それでも考えたことはある。
何度も。

だがそれはあいつが悪い。
だいたい初めの日から「なんて呼べばいい?山姥切?国広?山っち?ひろぽん?」なんて言う馴れ馴れしさ。
山姥を切ったのは本科だし国広は他にもある。山っちだのひろぽんだのは最早意味がわからないと言えば「あ、メンドイ。じゃあ国広ね。その山姥切った本科さんに銘入れさせたサイコー傑作でしょ?じゃあ国広代表でアンタが国広ね!しゃんとしろよ国広!」これだ。拒否権もなしと言われた。

色々おかしい。
主君らしさがない。
初日は普通もっと緊張するものだろう。
少なくともそういうものだから初期刀として支えてやれと聞いてたぞ。
それが馴れ馴れしいし敬うのも難しい軽さ。

だいたい距離感がおかし過ぎる。
勝てば、刀が増えれば、政府に恩賞を貰えば、課された訓練をこなせば、一つの区切りを制覇すれば。
犬か何かの様に喜び駆け回り抱きついてくる。
こんな君主があるか。

それにすぐ泣く。
戦に負ければ、演練で負ければ、重傷が出れば、政府に叱りを受ければ、区切りが進まなければ、課された訓練の期間が間に合わなければ、他の刀と喧嘩をしたと言うのもあった。
何かあれば俺を探してすがり付いては満足するまで泣き続ける。
酷い場合はそのまま寝る。
他の連中の前ではそんな姿は見せない癖に。

そんな女をただ主と思えと言う方が無理だ。
俺が悪いわけではない。
そもそも顕現して心を与えたあいつが悪い。
…理不尽だという自覚はある。

だがあいつだって悪いだろう。
与えた心に情を植え付けるようなことをしたんだ。
想うくらいは自由だろう。
審神者を隠すような利敵行為に走る悪党にならないだけ感謝してほしいくらいだ。

他の刀と笑いあっている時、話をしている時、すれ違いざまに挨拶をしている時。
燻るように沸き立つ衝動的な願望を殺し続け初期刀として支えているんだ。
想うくらいなら、いいだろう。

言葉にせず、顔に出さず、態度にも出さないなら。
想うくらいは。




なんて耐える決意を改めた翌日初鍛刀の今剣に「山姥切はあるじさまがすきなんですよね。にょにんとして。」と言われた。
どうかえせばいいのかわからない。



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