「名前ちゃん、大丈夫?」

見慣れた近所の公園でしゃがみ泣いている小さな女の子の側へ駆け寄ったのは、これまた小さな男の子。
女の子と同じようにしゃがみ、背中をさすってあげるけれど中々泣き止む様子はない。
どうしよう、と悩んだ男の子。そうだ、あれを持っていた。
急いで自身のポケットに手を入れ何かを取り出した男の子は、よし、と気合を入れて女の子の名前を呼んだ。

「僕の手、みて?」

男の子の声を認識した女の子は目元を擦っていた手を顔から離し、男の子の手を嗚咽を漏らしながら見る。
それから男の子はゆっくり、ゆっくり握られた手を開いた。

「なに?これ・・・」
「飴だよ。美味しいんだ。名前ちゃんにあげる」
「いいの?」
「うん。もらってほしいな」

安心させるように、とできるだけ優しく微笑めば、ありがとうと鈴を転がすような声でお礼を言われる。
女の子は恐る恐るそれを受け取り、口にした。
どうだろう、嫌いな味じゃないかな。喉に詰まらせやしないだろうか。
色々と考えてしまい女の子の顔を見ることが出来ず、今度は男の子が下を向いてしまう。

「おいしい!」

そんな時響いた明るい声。びっくりした男の子が女の子を見ると、先程の涙が嘘のように笑っていて。

「すごいね、まほうみたい!」
「もう元気?」
「うん!ありがとう京治くん!」

それから、女の子に何かあるたびに男の子は笑顔にする方法を探し、実践していった。

「京治くん、いつもありがとう」
「どういたしまして」
「京治くんは、わたしのーーーーー」




随分と懐かしい夢を見たものだ。
あれは幼い頃の俺と、名前。
なんで、なんて考える前に目に入ったカレンダーの日付で全てを察する
ああ、そうか今日は。
続いて時計を見れば、少し急がなければいけない時間だということに気付く。
着ていたものを脱ぎ払い、冷たいシャツに袖を通した。




「京治」

昔と変わらないけれども随分と落ち着いた声に振り返ると、そこには名前の姿。

「…よく似合ってるよ」

彼女が纏うは汚れのない白。露出した肩の華奢さに、守ってあげたい、むしろ守らなきゃという使命感がむくむくと湧き上がる。
俺が隣に立っていたならば、だけど。

「赤葦!」

今日の主役は名前と、木兎さん。
いつからだろう、君の隣を尊敬する先輩に掻っ攫われたのは。気が付けばこんな日が来ているし。

「ご結婚おめでとうございます」

・・・言ってしまった。未だに理解が追いついていないのに、言葉にしたら何もかも受け止めなければならないじゃないか。

「ありがとう!」

満面の笑みを浮かべ同時に告げられる。
ありがとう、なんていりませんよ。
彼女のドレスと正反対の色が心を侵食する。

あの頃の俺は、この先ずっと彼女の隣に立てると信じて止まなかったのにな。


「京治くんは、わたしのヒーローだね!」


無邪気に笑うあの頃の彼女を返して。
俺が必要だって、叫んでよ。



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