※注意※

・当方の刀剣乱舞知識はアニメのみ。
・キャラ崩壊&かっこいい刀剣男士はいない。
・女性審神者で、性格はコミュ障でダメ審神者(基本、刀剣男士召喚&具現化以外のことは出来ない&基本バカです)。
・合言葉は“バファリンの半分は優しさで出来ている。夢あるあるの話の9割は捏造で出来ている。” 
・かなりのオリジナル設定があり。
・お手数をおかけして大変申し訳ないのですが、第4回「病」の“その温度が僕を泣かせる”、第6回「Villain」“欲深くて罪深くて一番悪い私”を読まれてから、今作品を読まれることをオススメします。(読むのがメンドイと思われた方は“夢主はバカ女審神者で長谷部とは生まれた頃からの付き合いで、長谷部は夢主に過保護で大体それで事件が起きて、それに本丸の男士達が強制的に巻き込まれながらも生暖かい目で見守っている。”とだけ頭の隅に置いて頂ければ読まなくても無問題です。)
・安定の駄文・駄作クオリティは通常運転。
・全国の加納蓉子さま・数珠丸恒次ファンの皆さま、ごめんなさい。
・今回は微妙にダークとうらぶ風味でお送りいたします。(死ネタ、流血あり)



以上を読んでもバッチコイの猛者の方のみお進み下さい。












「っっ……疲れた〜!」

と、薬研藤四郎が討伐から帰るなり本丸の玄関先に仰向けに倒れ込んだ。
閉じた目を開けると、天井と共に兄の一期一振の顔が飛び込んできたので、“常にきちんとし振舞うように”という兄の言葉が蘇り、薬研はしまったという顔をしたが、当の一期はそんな弟に気にするなと言うように小さく笑った。

すると、一期達の帰還を聞きつけたのか奥から燭台切光忠達が、お茶をのせたお盆を持ち歩いてきた。

「おかえり。はい、お茶。」

「これは有り難い。薬研、先に飲みなさい。飲む前に御礼を忘れずにね。」

と、燭台切から渡された御茶を薬研に渡しながら一期が言った。

「あ、サンキュ……いち兄、光忠……ハア……生き返った。」

「しっかし、ここ最近ちょっと討伐も遠征も多過ぎやしないか?」

と薬研の横で、同じく茶を飲み干した同じく討伐チームだった御手杵が肩で息をしながら呟く。その言葉に燭台切は、今回の討伐チームの面々の顔を改めて眺めた。今回は薬研を除けば、御手杵、山伏国広、陸奥守吉行、一期一振など比較的スタミナも持久力もあるメンバーであり、討伐内容もそこまで負担がかかるものでもなかったのだが、疲労も感情も顔に出ない一期でさえ顔から疲労の色が容易に伺え、滅多に弱音を吐かない御手杵でさえ、この有様であるから、最近、政府からの討伐・遠征依頼が異常に多くなってきたのではないのかというのは気のせいではないのかもしれないと燭台切は思った。

言われてみれば、ここ最近、当本丸では過密スケジュールとも呼べる討伐編成を組まれることが多々あり、以前に比べて出動することが増えてきた。
討伐と遠征は政府からの依頼があり、本丸の主であり司令塔である審神者が討伐・遠征チームを組むのだが、当本丸の主である審神者の名前は、平たく言えば自他とも認める“バカ”であるため、編成チームの選別は名前の公認ストーカー兼セコム(加州清光が命名)であり刀剣男士のへし切長谷部が行っていた。(それだけではなく、審神者が行うべき業務は殆どと言うか全て彼が行っていた。)

流石に政府の定例報告会と会議は彼女自ら出向くが、必ず長谷部も同行していた。何故なら、バカの上にコミュ障だからであるため、色んな意味で1人にしておけないからである。

「皆、疲れておるようだから……拙僧が主殿に報告して来よう。」

と立ち上がると、湯飲みを回収していた歌仙兼定が

「ああ、それには及ばないよ。主は臨時の審神者会議とやらで今は御留守だからね。」

と告げる。

「相分かった……では長谷部殿もおらんと言うことだな。」

「では、誰に報告をすれば……。」

と山伏と一期が言うと歌仙が

「僕が代わりに受けるようにと言われているから、落ち着いたらでいいから僕の所に頼むよ。しかし、主の正装……相変わらず雅でしたよ。本日は白梅が見事に咲いていたから髪に挿してあげたよ。白梅は香が香しいのに匂いが重くないからね。紅はね……今年穫れた紅花と薔薇を磨り潰して作った紅をさしてね……そりゃあ主の白い肌に映えてねえ……。」

と、当本丸の美容担当の歌仙が、自分が名前の顔に施した化粧を思い浮かべてうっとりとする。しつこいようだが当本丸の審神者はバカでコミュ障ではあるが、美と雅に一家言がある歌仙が手放しで褒める程に容姿だけには恵まれているのだ……容姿だけには。もう知能をすべて容姿に持っていかれたんじゃないかと思いたくなる位に容姿だけは素晴らしく良かった。

「あ、大将……政府の呼び出しある時に巫女の恰好してくもんな。え〜見たかったなあ。」

と薬研も残念そうに呟く。
歌仙だけでなく薬研もそうであるように、言葉に出さないだけで本丸の刀剣男士は彼女の正装である巫女姿が好きであり、密かにその姿を見ることを楽しみにしているのだ。(まともな服がそれしかないというのもあるのだが……後は長谷部の趣味が反映されている。)


「しかし、臨時とは……何かありましたかな。」

と一期の言葉に燭台切は

「今回の討伐・遠征が増えた件なんじゃないかな?お風呂行ってきなよ。さっき掃除済んだばっかりだからね。」


「それは有り難い。ではお言葉に甘えて……。」

と一期が笑みを浮かべた。


=======

―同時刻 首都圏 政府本部、第3会議室。

政府主催の審神者定例・報告会議は、月に1回の頻度で主に月末に開催される。
会場である政府本部は首都圏にあるため、首都圏から離れた場所で本丸を持つ審神者は前日入りし宿泊することが多いのだが、比較的首都圏に近い位置に本丸を持つ名前のような審神者は日帰りで済むことが殆どである。

いつ討伐依頼が入るか分からないため、基本的に定例会議以外で審神者が召集さえることはなく、臨時で召集がかかったということは“緊急事態”を意味し、そのためか、いつも以上に会場は緊張感に包まれていた。

開始まで後5分と迫ってきた時、名前はキョロキョロと会場を見渡した。
それに気付いた後ろに控えていた長谷部が、少し前屈みになり

「どうかされましたか?」

と彼女の耳元で囁き尋ねる。

「うん……今日って全員召集だよね?」

「ええ……基本は……ですが。」

と長谷部は何故そんな事を聞くのだろうと彼女の横顔を見つめた。名前は長谷部の方を見ないまま、何かを探すように会場を再び見渡した。


「……あの人……来てないなあと思って……加納さん。」

と呟く。加納とは……加納蓉子のことであり名前と同じく審神者であり、関西地方の本丸を担当する女性のことだ。名前より年上だが会議で度々隣席となることがあり、また蓉子自身が社交的で面倒見の良い性格なためか名前のことを何かと気にかけ話かけてくれていたので、コミュ障の名前には珍しく話せる相手でもあった。

いつもなら、開始30分前には着席し名前に笑顔で声をかけ手をふってくれるのだが本日は姿を見なかった。

「そう言えば……加納殿にいつも随伴している数珠丸恒次の姿も見ませんね。いらしてないのでしょうか?」

と長谷部も会場を見渡し始めた。
蓉子も名前と同じく刀剣男士の数珠丸恒次を同行させており、それが会話のキッカケにもなったのだ。時間に几帳面で、どんなに多忙でも会議には必ず顔を出していた彼女らしくないと思い気にはなったが、会議が始まったため名前も長谷部も会議に集中した。


臨時会議の内容は長谷部の予想通り、遠征・討伐が急激に増えたことについてだった。
ただ、その理由は長谷部の予想外のことであり、長谷部は内心は驚きながらも努めて表面は平静を装いながら、目の前に座る自分の主の動揺ぶりを心配していた。

遠征・討伐が急に増えた理由―それは、審神者が刀剣男士を愛するあまり、永久に自分だけのものにしようとし刀剣男士を酷使し破壊した後に修理をせずに放置するケースが増え本丸が機能しなくなった事が増えたためであった。
逆のケースで、こちらは稀な話だが審神者を愛した刀剣男士が審神者と心中を図ったり、殺害に及ぶケースもあるとのことだった。
以前からない話ではなかったが、最近は異常に前述のようなケースが増えてきているため、政府が定期的に審神者・刀剣男士のメンタルチェックを行い、本丸に監査に入るなどして異常を早期発見し、チェックや監査に引っかかった審神者と刀剣男士を隔離・治療し、大事に至らないように配慮はしていたのだが、そのチェックや監査に引っかかる審神者と刀剣男士が予想以上に多かったのだ。
それでも討伐・遠征の数が減る訳でもなく、現在機能している本丸に自動的に仕事が割り振られるため本丸1つ当たりの担当数が自然と多くなったとのことだった。

暫く、この状況が続くため現在機能している本丸には負担をかけるが最大限支援は惜しまないから遠慮なく相談するようにと政府担当者が結び会議は終了した。
事が事だけに、審神者たちはざわつきながら会場を後にしたが名前は席を立つことが出来なかった。その姿を暫く見守った長谷部だが、片付けに入った政府職員の姿を目の端にとらえ、名前の肩に手を置き

「主、そろそろお暇いたしましょう。」

と耳元で囁き起立を促した。彼女は項垂れたように頷き静かに立ち上がった。長谷部は彼女を支えるように両肩に手を置き会場をあとにした。
無理もない同じ審神者であり、しかも親しい者が

―加納蓉子と数珠丸恒次が心中した。

など聞かされれば、彼女でなくとも落ち込んだだろう。
普段であれば、このままリニアに乗り本丸帰るところだが、主のこのような姿を見せれば他の刀剣男士の動揺を誘うことになる。伝えなければならない会議の内容も内容であるしと、少し思案した後に長谷部は政府会議場の待合室に名前を座らせ、“ここで待っていてください”と告げ、政府職員に声をかけた。



=====


『貴女が新しい審神者さん?綺麗な子ね。素敵な巫女服!私、加納蓉子。後ろのが数珠丸恒次よ。よろしくね。』

と初めて参加した審神者定例会議で声をかけてきてくれた女性の審神者が加納さんだった。
私と正反対で凄く明るくて優しくて、頭が良くて、良く気がつく人だった。
刀剣男士を同行させているのは加納さんと私だけだったから、それで話かけてくれたんだと思う。

あんまり上手に喋れない私に呆れずに色々な御話をしてくれて、口には出せなかったけど、すごく嬉しくて、いつもありがとうと思っていた。


変なとこなんてなかったと思う。最後に会ったのは先月末の定例会議。
いつも通り、加納さんが笑顔で手をふって話かけてくれて、会議のあとで御茶をして街を歩いて、晩御飯を食べて、笑顔でリニア乗り場のところで別れた。

変なとこなんてなかったと思う。
ふたりともいつも通りだった。
いつも通り優しくて、笑顔で、あんまり上手に話せなかったけど……楽しくて温かくて……。

それとも、私がバカだから気付かなかっただけなのかな?
バカだから、ふたりがそんな大変なことになってることに気付けなかったのかな?
私が……バカだから。


ドンドンとノックをする音がして私は後ろを振り返った。

「主、主……長谷部です。大丈夫ですか?すみません。入りますよ。」

会議のあと、少し疲れただろうからと長谷部さんがホテルを取ってくれて、私達はそこにいた。夕食まで時間があるからと長谷部さんに勧められてシャワーを浴びてたんだっけと目の前の湯気と全身に降りかかる温水が私を現実に引き戻した。

ガチャッと扉が開き、扉の向こうから長谷部さんが現われ、私の姿を見て驚いたような表情をしていた。

「ある……じ。そんな恰好で!」

と長谷部さんは、備え付けのバスタオルを取るとシャワーを止め、自分の服が濡れるのも構わず私を立たせ、私にバスタオルを被せた。
長谷部さんが驚くのも無理はなかった。
私は服も脱がずにシャワーを浴びていたのだから……。

「主、このままでは風邪をひきますから。服を脱ぎましょう。着替えを取りに行ってきますから。出来ますね?」


と長谷部さんが私の顔を覗きこんだ。
私は、長谷部さんに何処にも行って欲しくなくて、ずぶ濡れのまま長谷部さんに抱き付いた。

「……も……いつ……いつもどおり……だっ……たの……加納さんも数珠丸さんも……へんなとこなんてなかっ……なのに……なんでふたりともいないの?先月に“また会おうね”って言って……言ってたのに!」

と長谷部さんの服が濡れるのも構わずに私はしがみ付いた。

「バカだからかな……私がバカだから気付かなかっただけ……なのかな?」

長谷部さんの服を掴む手に自然と力が篭って震えた。

「私がバカだから……わたしがバカだから……。」

『刀剣男士はあくまでも“付喪神”であり“人間”ではないことを、再度、審神者の方々には心得、認識し、今後も彼らとは適切な距離と関係を保ち、討伐・遠征にご協力のほどをお願いします。刀剣男士はあくまでも我々人類の“武器”であり“盾”、それ以上でもなければ、それ以下でもありません。もしボーダーラインを越えることが審神者・刀剣男士の双方、どちらかにあれば……その時は政府として厳しい処断に出ることも辞さないことをお忘れなきように。我々も同胞を処罰など……そのようなことは望んでおりませんので。』


今日の会議の政府担当者の声が蘇る。私は、本丸の皆を“武器”なんて“盾”なんて思えない。そう思えない事が、皆との関係を狂わせるのなら……私よりも何でも出来て、きちんとした加納さんでさえ……そうなったのなら、私なんて余計にそうなる、そうなるに決まってる。皆が好きなのに壊してしまう……殺してしまうかもしれない……それなら……。

「わたしバカ……だから……長谷部さんも……本丸のみんなも……すきだから……だいすきだから……道具なんて思えないから……ばかだから……いつか……いつか私も……加納さんみたい……きっと!きっとみんなを殺してしまうかもしれない……そんなのこわいよ……怖いよ……はせべさん……もしそうなったら「そうなる前に俺が殺します……俺が貴女を殺して差し上げます。主ひとりだけを死なせはしません……その時は長谷部もお供します。だから……ご安心下さい。それに主は馬鹿ではありませんよ。馬鹿じゃない……例え世界中が主を馬鹿と言っても、長谷部が何度でも言います。貴女は馬鹿ではない。」

「……う、ウソ……。」

「嘘ではありません。長谷部が主に嘘を言ったことがありますか?」

「………………ない……です。」


と言うと、ギュッと長谷部さんが私を抱く力を強めた。温かいと思っていると、長谷部さんはすぐに体を離して私の顔を両手で包み上に向けた。

「人を思いやることが出来ない“馬鹿”であれば涙など流しません。違いますか?」

と長谷部さんが笑顔でそう言い、私の頬に流れる涙を拭った。

「主は長谷部のことが好きですか?」

「……え……う…………す、すき……。」

「では、長谷部の言うことをもっと信じて下さい。貴女のことを少ししか知らないような人間に貴女のことなど分かる訳がないんですから。長谷部は言えますよ。主の良いところも少し直さないといけないところも……。貴女が生まれた頃から共にいるんです。これからもずっと一緒ですよ。何も変わらずに。例え、貴女が貴女で無くなっても。俺を忘れてしまっても……長谷部が1つ残らず覚えていますから……だから、ずっと一緒です。」

と笑顔で頭を撫でてくれる長谷部さんの掌が温かすぎて、私は彼にしがみついて大声で泣いた。ただ泣き続けた。



======


ひとしきり泣いて落ち着いた名前は、長谷部に促され着替え終えると、長谷部が頼んだルームサービスのスープを飲みベッドに入った。

「眠れそうですか?」

とベッドに入った名前の前髪を掌で撫でながら長谷部が話かけた。

「うん……。」

それは良かったと長谷部は小さく笑うと、何処に隠し持っていたのか分からないが首都圏の特集をした旅行誌を彼女の前に出し

「実は2泊する手配を取って頂きましたからね。明日は夢の国に行きましょう。で明後日は空の塔にも登って、神宮と三日月の古巣にも行きましょう。長谷部が沢山観光プランを練ってありますから、途中バテないようにしっかり睡眠を取って下さいね。では、長谷部は主の服をクリーニングに出してきますから。」


と嬉しそうに告げる。観光プランを練っているというだけあって旅行誌からは付箋がビッシリと顔を覗かせていた。名前はクスッと笑い

「ありがとう……あの、服……ずぶ濡れにして……ごめんなさい……。」

と小さく謝る。長谷部は笑顔で

「良いんですよ、服くらい……頭のてっぺんから爪先まで長谷部は貴女のものですから……おやすみなさい。」

と、彼女の部屋の扉を閉めた。


========



『で、2泊3日で首都圏見物してくると……。』

とパソコンの液晶に映る満面の笑みを浮かべた燭台切に、長谷部は気まずそうに彼から目を反らしながら

「ああ……悪いとは思っている。」


と返事をした。あれから長谷部は名前の服をクリーニングに出した後、ホテルのフロントからパソコンを借り、本丸と連絡を取っていた。
当初の予定では日帰りだったため、2泊して帰ることを本丸に伝えなければと思い出したためだった。

『まあ、そういう事情なら仕方ないけどね。主が笑顔で帰って来るなら誰も文句言わないと思うよ。ま、でも本当のこと話したら心配するのとヤキモチ焼いちゃう子達がいるから……適当に言っとくんで、間違っても夢の国でしか買えないようなお土産とか観光して来たのが丸分かりなお土産とかは買ってこないでね。』

と、燭台切が笑う。


「ああ分かった。恩に着る。」


『でもイイなあ……主と夢の国でデートかぁ……いいなぁパレードとか見たりするんだ2人で。主とアトラクション乗ったりするんだぁ2人で……いいなぁ長谷部くん、いいなぁ、ずるいなぁ……2人で。リボンネズ耳付けた主と手繋いだりするん「分かった。貴様がこの間から欲しがっていたビストロオーブンレンジ……買ってやる。それで良いだろう。」


『わーい、長谷部くんどうしちゃったの?太っ腹!ついでに遠赤外線炊飯ジャーも買って良い?』

とニコニコする燭台切に長谷部はドッと疲労感を覚えながら、もう勝手にしろとばかりに片手を振った。


「なあ……光忠。」

と口元に手を当てて長谷部は何か言いかけたが、すぐに

「何でもない。では本丸のことを頼む。」

と言い長谷部はパソコンの電源を切った。
電源を切り真っ黒になった液晶画面に映る自分の顔を暫くの間、長谷部は見つめた。

「もし……俺が主を加納殿の数珠丸のように……殺したら……光忠……貴様らはどうするんだろうな。」

と両目の上に片手を置き長谷部は天井を仰いだ。
付喪神とはいえ自分達にも感情はある。感情があるから今回の会議で言われたような事態が起きたのだから。それに過去の記憶に囚われている男士達も本丸にはいる……自分も含めて……。

いくら自制、自戒していたとしても、望まなくても望んでも……狂気も狂乱も、ある日突然目の前に現れる穴ではないのだ。ただ見ようとしていないだけで、いつだって奴らはポッカリと口を開けて自分達が落ちてくるのを待っているのだ。

(俺達のすぐ隣で……口を開けて待っている。)

スッと掌を少しずらし、長谷部の目に夜間照明に切り替わった天井の柔らかなオレンジ色の光が飛び込んできた。

ホテルの予約を依頼するついでに、長谷部は今回の加納と数珠丸の事件の資料を職員に見せてもらった。2人の死に様を写した写真を思い出す。血まみれであるのに2人とも、その凄惨な事件に反して、とても穏やかで幸せそうな顔をしていた。

『発見するのに時間がかかったのもあるんですが。両手……握り合ってるでしょ?外そうと思っても中々……外せなくて。監察医が随分と手を焼いたようです。』

と写真に写る、2人が握りあっている手を職員が指して説明してくれた言葉を思い出した。
その光景はどう見ても悲惨でしかないのに長谷部は、その時、2人のその姿がたまらなく羨ましく感じてしまったのだ。

狂気はすぐ隣で口を開けて待っている。
そう感じたのなら、自分もそうならないとは言い切れないだろう……けれども

(そうなる前に……そうなる位なら……俺は……俺自身だけを破壊する。)

もし、名前が加納のように共に死ぬことを望んだのなら。

「その時は……与えられたことを貴女が全てを終えた時に……貴女と共に俺が死ぬのを許してくださいますか?名前……。」

と長谷部は再び瞼を閉じた。



=======


「本当に自分勝手なんだから長谷部くんは。」


と、燭台切はブツブツ言いながらも、以前から要求していた台所家電購入の確約を得たことでかなり上機嫌だった。

「ご機嫌ですな。光忠殿。」

と湯飲みを2つ持った一期が現われる。

「お茶煎れてくれたんだ。ありがとう。うん、前から要求していたことが通ったからね。後これはオフレコだけど……主と長谷部くん首都圏ラブラブデートで2泊3日してくるって。表向きは仕事ってことになってるからよろしくね。」

と差し出された湯飲みを受け取る。

「ほう、それはそれは主も長谷部殿も隅に置けませんな。承知……弟達がヤキモチを焼きますからなぁ……。で、今回の臨時会議は遠征・討伐の急増の件についてだとは思いますが……そのことは?」

と問う一期に、燭台切は、長谷部から説明があったことをひと通り一期に話した。

「そのようなことが……。まあ狂気なんぞ隣でいつでも手招きしておるものですからね。」

と一期が困ったように笑う。

「主と長谷部くんが妙なこと考えてないと良いんだけど……あの2人付き合い長いだけに性格は正反対なのに、変なとこ似てるんだよね……思い込みが激しいというか、何と言うか。」

と、燭台切が頬に手を当て溜息を吐く。

「はっはっはっ、親子は似ますからな。」

と一期は笑う。それに対して燭台切は

「親子じゃないけどね……けどさ、真面目な話……主と長谷部くんが合意、不合意に関わらずさ……もし一緒に死のうとか、どっちかを殺すとなったら……いっちゃんはどうする?」

と問うと、一期は少し考えたあと

「それは、もう“お覚悟!”するしかないでしょうな。」

と笑顔で燭台切を見た。

「え?やっぱり長谷部くんをヤっちゃう方向になる?主……おバカだから、そこまでの結論になる前に知恵熱おこして寝込みそうだもんね………おバカはこういう時良いよね。おバカ故に大掛かりな事や悪い事出来ないもんね。おバカだから。」

やはりそうなるかと考え込むこと燭台切に一期は

「そうではありませんよ。そうなったら主と長谷部殿を我らが峰打ちでも平手打ちでもなんでもして正気に戻って頂くまでの話。勿論、おふたりの繋いだ手を引き離すことなく。そのために我らは共にいるのですから。誰ひとり欠けることなく戦い抜きましょうぞ。勿論、光忠殿がそうなっても、我らが連れ戻すので“心配御無用!”ですぞ。」

とにっこり笑う。

「いっちゃんの“お覚悟!”って痛そうだよね。そうならないように頑張るよ。」

と苦笑する燭台切に一期は

「無論、愛が篭っておりますゆえ。」

と笑顔で返すのだった。
自分達、ひとり、ひとりは弱くて、ひとりやふたりでは、どうしょうもないことが、これから沢山あるだろう。けれども……と一期は思った。
ひとり、ひとりは……ふたりでは弱くてもどうしょうもなくても、皆でいれば何とかなる筈だと……それはきっと……

―ささやかな救い。




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