※注意※

・本編はJG、ドラマCD“D課捜査ファイル”の設定に準じています。
・福本×夢主描写あり。
・夢主が優柔不断。(福本と佐久間の間で揺れてます。)
・お手数をおかけして申し訳ありませんが、今作品は第3回 静寂「しあわせになりたかっただけです。」を閲覧後に読まれることをお勧めします。(読むのメンドイと感じた場合、夢主が福本と佐久間の間で揺れつつも、福本と付き合っているとだけ頭の隅っこに置いて頂ければ読まなくても無問題です。)
・今作品は安定の「駄作だ、駄文だ。うっかり読了してしまった場合、読者に待っているのは真っ暗な虚無感だけだ。それでも、読了してしまった場合は”駄文、駄作”を読了してしまったという変えようがない真実を欺いてでも生き残れ」る方のみお進みください。









―付き合うとか、恋とかもっとキラキラして幸せなことだと思っていた。


(……なんて、そこまで思えるほど、私はもう綺麗じゃないけど。)

と思いながら名前は久しぶりのオフを都内に新しく出来たカフェで、向かい側に座る大学時代の友人とのランチを楽しんでいた。
彼女が所属する警視庁特殊捜査課―通称D課は激務であるためカレンダー通りに勤務がすすむわけではなく、休日返上の緊急出勤なんて日常茶飯事だ。彼女はまだ事務方であるため捜査に直接あたるメンバーに比べれば、ほぼカレンダー通りの勤務ではあったが、庁内の事務方の中では多忙な方で、本日は彼女の仕事の都合でキャンセル続きだった友人とのカフェランチがようやく実現したというわけだ。

福本と付き合い始めてから早くも半年が経とうとしていた。
関係は特にトラブルもないから上手くいっているのだろうと思う。職場でも一緒で、週末や時間が許す限りは平日も彼のマンションで過ごしており、彼の自室に自分の持ち物が増えていっているのは恐らく気のせいではない筈だ。久しぶりに帰った自宅のマンションのエントランスの暗証番号を時々すぐには思い出せない位なのだから、相当な時間を福本のマンションで過ごしているのだろうと嫌でも自覚してしまう。

『家賃……勿体ないんじゃないか?』

と最近、福本から事あるごとに遠回しに同棲の御誘いを頂いているのが、目下の悩みの種だったりする。福本は優しい、一緒にいて居心地がいい上に付き合いが長いから変な気を使う必要もなければ、お互いのことも良く分かっている。正直とても楽しいのだ彼と過ごすのは……。

付き合うことを大学時代の友達に公表したら皆が祝福してくれた。
それに、福本は……きっと永遠に自分だけを愛してくれる。
結婚相手としては最高の相手だとも彼女は思っていた。
彼といれば幸せになれる。それは間違いない。


(けど……。)


心のどこかで“彼じゃないよ”と告げる声がするのだ。
楽しい筈なのに時々息苦しくなる。それは多分気のせいではない。それを何人かの大学時代の友人に相談したのだが、答えは決まって


「贅沢すぎるのよ。福本くんの何が不満なわけ?」


と、向かい側の友人が信じられないと言わんばかりに眉を顰めて口にするように、誰に相談して名前の言うことが、まるで理解不能だと言いたげに異口同音に返されるだけだった。

「えっ……と。福本くんが悪いわけじゃないのよ……ただ……。」

ちゃんとした言葉で説明できないけれど“アナタは違う”なんて、自分が言われる立場なら納得はいかないだろう。


けれども福本ではないのだ。


「当然だよ。福本くん位デキた男なんて早々いないんだからね。大学時代だって狙ってた子……一杯いたのにアンタに一途だったから、皆、諦めて見守ってたんだから。だから、あんたらが付き合い始めて良かったねーって皆で言ってたんだよ。それに別れてみな?ウチら福本くんの味方だし、後悔するの絶対アンタだからね。あんなイイ男……本当にいないから。名前!もう福本くんにしとけ!お任せしちゃいな?」


と言われてしまえば、当然続けることなど出来る筈もなく名前は曖昧に微笑みながら


「うん……そう……だよね。」

とコーヒーをひと口飲んだ。
別に風邪をひいた訳ではないのに、ズキッと喉にコーヒーが引っかかるような感じがした。


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(まさか……あれが風邪の兆候だとは……。私もしかしなくてもバカ?)

と庁内の女子トイレの洗面台の前で両手をつき、鏡に映る少し紅潮した自分の顔を見た。
友人とのカフェランチから5日後、コーヒーを飲んだ時に感じた喉の違和感は気分的なものではなく、見事に風邪の兆候だったらしく彼女は現在進行形で発熱と喉の痛みに悩まされていた。

(福本くんが出張中で本当に良かった。)

と彼女は、ハンカチを口元に当てる。福本は現在、関西地方で起きた警察の横領事件の内偵調査で東京から離れていた。もし彼が傍にいたなら無理にでも彼女を休ませるところだろう。しかし期日が迫った書類もいくつかあるため休むわけにはいかないのだ。
熱は2日前に“39.0℃”を体温計が示した時点で測るのを止めてしまった。

(薬は飲んでいるし……ウイダー飲んでるし……大丈夫、大丈夫。早く終わらせて……帰らなきゃ。)


と、名前は両頬を叩くとトイレから出た。


D課は出張に出た福本・神永を含めて、調査依頼が立て続けに入ったためか殆どが出払っており、課には奥の部屋にいる課長の結城と係長の佐久間と名前だけだった。そのためか、名前は殆ど席を立つ必要がなく、自分の仕事に集中することが出来た。


「急ぎでないなら……残業はするなよ。」

と定時の5時のチャイムが鳴ると同時に奥の部屋から結城が現われ、佐久間と名前に告げると帰宅した。その後ろ姿に佐久間たちは挨拶をし、再び作業に戻った。

「苗字……もし急ぎの仕事がないなら、先に帰っていいんだぞ。」

と佐久間が顔をあげ名前に声をかけた。彼女は

「私も急ぎなんです。今日中にあげちゃおうって……。」

と笑顔で返す。

(それに、佐久間係長とふたりっきりだし……。)

とソッと付け加えた。名前は佐久間に対して淡い憧れの気持ちがあった。もし福本と付き合っていなかったらと彼女は考えた。


(多分、係長のこと好きになって……告白してたかも。)

と思いながら、佐久間の横顔を伺う。福本と付き合うようになってから、まともに佐久間の顔を見ることがなかった名前は、ちらちらとだが彼の横顔をついつい眺めてしまうのだった。すると、その視線に気づいたのか、佐久間が顔を上げ彼女を見た。

「どうしかしたか?」

「あ、いえ……。」

と佐久間の問に彼女が言い淀んでいると、グウゥッと佐久間の腹が鳴った。

「……あ、えっとお腹空きますね。」

と名前がクスリと笑いながら佐久間に告げた。佐久間は気まずそうに頭を掻きながら

「……良い時間だしな。もう、終わりそうか?」

と名前に尋ねる。彼女は書類を確認しながら

「はい、あと少しです。」

と答える。それを聞いた佐久間は

「なら、帰りに何か食べて帰らないか?」

と告げてくる。思わぬ佐久間の申し出に一瞬、名前は驚いたように佐久間を見たが、次の瞬間

「はい。」

と満面の笑顔で返した。正直な話、食欲はないが佐久間とふたりで食事なんて機会は早々にあるものではない。福本に対して罪悪感がない訳ではなかったが、ただ食事をする位なら上司と部下なのだから無い話ではない。


(福本くん……ごめん。でも御飯だけだから。今回だけだから。)

と心の中で福本に謝り、彼女は再びキーボードを叩き始めた。


30分後、佐久間と名前の作業が終わり、ふたりはパソコンの電源を落とし立ち上がった。忘れ物はないかと言いながらコートを着る佐久間に、先にコートを着て鞄を持った名前が頷く。電気を消そうと佐久間が入り口に立った時、ドサッと何かが倒れるような音がした。振り向くと先に部屋を出た名前が廊下で倒れている姿が佐久間の目に入った。



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「……うん。」

薬品のような匂いが鼻につき名前は目を覚ました。名前はベッドに寝かされており、少し身を起こして辺りを見回すと自分のでも福本の部屋でもなく職場でもなかった。耳を澄ますと規則的な機械の音が聞こえる……それに白を基調とする天井と壁が目に入った。それ以上は、彼女の目の前にあるクリーム色のカーテンが視界を遮っているため情報は得られないが、おそらく病院だろうと名前は思った。

(でも……何で?私……佐久間係長と……。)

とベッドから抜け出そうとした時、目の前のカーテンが開く。

「お、気が付いたか?」

と佐久間が笑顔で現れる。

「あの……私「廊下で倒れたんだ。びっくりしたぞ。いきなり倒れて……。」

と彼女が寝ているベッドの横にある椅子に座る。ベッドから起きようとした彼女を制して、再び彼女を寝かせた。

「いいから寝てろ。熱が39℃もあったんだから。さっき点滴が終わったから……目が覚めたら帰って良いって……もう少し休んで帰るか?」

と佐久間が名前の額に手を置く。

「さっきより少し熱引いたみたいだな……けど倒れる程ひどいなら休んで良かったんだぞ?」

「す、すみません……。」

と小さくなる名前に佐久間は

「まあ、気付いてやれなかった俺の管理不足か。ごめんな……こうなる前に気付いてやれなくて。」

「係長のせいじゃ……。」

と彼女が首を振ろうとすると

「最近しんどかったんじゃないか?疲れて見えたし……福本がいるから余計なことだと思ったんだが……こうなる位なら、もっと早く話を聞いて……配慮してやれば良かった。こんなになるまで何もしてやれなくて……本当にすまなかった。」

と佐久間は姿勢を正し彼女に頭を下げた。
この半年、佐久間に言われたように苦しかった。
福本のことは男性として好きにはなれなかったが、友達としては好きだった。

『もし拒否するなら、友達としても……もういられない。』

その言葉に負けて自分の気持ちに嘘をついて、彼を受け入れた。
福本を失いたくなかった、大事な友達だったから。けれど、結局は自分を誤魔化しているだけだった。自分のことしか考えていなかった。

こうして佐久間の言葉に癒され、彼の傍にいることを幸せに思うことも……。
彼のことがやはり好きなのだと思う……今、この瞬間も福本を裏切り、傷つけていることに変わりはないのだと彼女はギュッと唇を噛んだ。

「……喉、渇かないか?何か買ってくる。それを飲んだら帰ろう……送っていく。今日はよく頑張ったな。明日……もう今日か……家に帰ったら仕事は忘れてゆっくり休んで治せよ。」

と佐久間は立ち上がり、彼女の頭を1度だけ撫でるとカーテンの向こうへ消えた。
今この瞬間まで、自分が被害者のような気持ちでいたことに彼女は気付いた。
周りも福本も、誰も彼女の話を聞いていないのだと、聞いてくれずに自分の気持ちだけを押し付けているだけだと。

けれども違った……。

(この状況を作ったのも、続けているのも自分なんだ……。)

自分を守り悪者にならないために、嘘をついた。分かってもらうことを諦めたのだ。全て周りの所為にして……福本を大事な友達と言いながら信用していなかったのだ。視界がぼやけて涙が両目から流れ落ちた。

「ホットレモンでいい……お、おい……どうした?」

と、カーテンが開き現れた佐久間が彼女の姿を見てギョッとした。
すぐに彼女の傍に駆け寄ると具合が悪いのかと優しく彼女を労わり言葉をかけた。
名前は両手で顔を覆い、佐久間の言葉にただ首を振るしかなかった。

(違うんです。違うんです、佐久間係長。)

と佐久間の優しい言葉に、労わりに段々と嗚咽が激しくなっていく彼女は、心の中で佐久間に告げるしかなかった。

(佐久間係長に優しくされる資格なんてないんです。私……ヒドイんです……ヒドイ人間なんです。福本くんの彼女なのに、佐久間さんが好きなんです。大好きなんです。でも言えないんです……こんな私にあんなに良くしてくれる福本くんを重いとか邪魔者みたいに思う嫌な人間なんです。)

ただ泣くだけなんて1番佐久間を困らせる事だということが名前には分かっていたが涙は止まる気配もなく、止めようとする冷静な考えも彼女の中にはなかった。
そんな彼女に佐久間は、困ったように慰めるように、ただ頭を髪を撫でるしかなかった。
普段は嬉しい筈の佐久間の優しさが、今はただただ心苦しかった。
ただでさえ迷惑をかけてしまっているのに、こんな風に思うなんて間違えていると分っていながらも、彼女はこう思ってしまうのだ。佐久間に優しくされればされるほどに、福本に愛されれば愛されるほどに……優しくされるほどに……。


(私は……)

―優しくされると死にたくなるわ



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