※注意※

・当方の刀剣乱舞知識はアニメのみ。
・キャラ崩壊&かっこいい刀剣男士はいない。
・女性審神者で、性格はコミュ障でダメ審神者(基本、刀剣男士召喚&具現化以外のことは出来ない&基本バカです)。
・合言葉は“バファリンの半分は優しさで出来ている。夢あるあるの話の9割は捏造で出来ている。”
・安定の駄文・駄作クオリティ。

以上を読んでもバッチコイの猛者の方のみお進み下さい。









「平和だねえ……。」

「本当だねえ……。」

と湯飲みを片手に本丸の縁側で、粟田口達の鍛錬を眺めながら加州清光とにっかり青江は大空を見上げて呟いた。遠征も討伐もない平和な日がここ最近続いており、本丸でも刀剣男士たちは粟田口達のように鍛錬をしているか、加州たちのように余暇を楽しんでいるか、内番に精を出しているか、どれかの時間を選び各々がそれぞれの時間を過ごしていた。


「平和なのはいいことだけどさ……何か体なまりそう……。」

と湯飲みを傍らに置き、両腕を伸ばした加州は欠伸をした。

「その退屈もなくなると思うよ。」

と言うにっかり青江に加州は不思議そうに見返すと、向こう側から“主の御世話係”を自称する、へし切長谷部が必死の形相で駆けてくるのが見えた。
長谷部の手にはシーツやら氷枕やら様々な看病グッツが抱えられており、彼とすれ違う刀剣男士達は何事かとすれ違い様に振り返り、声もかけるが、長谷部にはその向けられる視線の怪訝さに気づく余裕もないようで、かけられる声も聞こえてはいないようだった。


「おーい、どうしたの?」

と加州が声をかけるも案の定の長谷部は答えず

「僕に任せて。」

と、にっかり青江は笑みを浮かべたまま自分の横を通り過ぎようとする長谷部のジャージのズボンの裾を掴んだ。すると長谷部の体がガクンと揺れ、次の瞬間、派手な音を立てて長谷部は廊下に向かって顔面から転んだのだった。

「ブッ……だ、だいじょうぶ?」

と吹き出さないように口元を押さえながら加州が震えながら、廊下に大の字に転んだ長谷部に声をかけた。中庭で鍛錬をしていた粟田口達は顔面蒼白で固まり事の次第を眺め、当のにっかり青江は

「ね、止まったでしょ?」

と、加州に向かい褒めろとばかりに良い笑顔を向けた。

「止まったっーか……これは転ばされたっーんじゃねえか?大丈夫か?生きてるか長谷部?」


と縁側に取り込んだ洗濯物を置きながら御手杵が長谷部に声をかけた。
すると長谷部は赤くなった鼻の頭を押さえながら、にっかり青江の方を振り向いた。

「に〜っ〜か〜り〜」


と長谷部はにっかり青江の胸倉をつかみあげる。

「やだなあ、こんな日が高いうちから……長谷部くんってば大胆なんだか「違う!聞いた者が誤解するような気色悪い言い回しはよせ!貴様と俺の間には貴様の言う様な行為に及ぶ絆も関係も一切ないし、この先も未来永劫ない!この色情狂刀剣が!あ、粟田口達、本気にするんじゃないぞ!あと、どんなに落ちぶれてもこんな刀剣にだけはなるな!で、何の真似だ!事と次第によってはへし切る!」

と立て板に水状態で怒鳴る長谷部を加州が


「そういえば、急いで何処行こうとしてたの?」


と長谷部に声をかけた。
御手杵も散らばった看病グッツを集めながら

「アイスノンにシーツに風邪薬……水筒?誰か病気なのか?」

と尋ねてくる。その言葉にグッとつまりながら長谷部は

「実はな……。」

と観念したように話始めた。


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「主、風邪ひいたの?」

と、主であり、この本丸の審神者である名前の枕元で彼女の顔を覗きこみながら加州達は驚きの声をあげた。
長谷部の話では、名前は2〜3日前から調子が悪かったのだが、昨日の夕方、長谷部が夕餉を持ってきた時、真っ赤な顔をして部屋の真ん中で倒れており、意識はなく熱は39℃あったとのことだった。今朝、政府派遣の医療団の診察がありインフルエンザではなく、過労が原因の上気道炎(風邪の医学用語)だろうと診断を受けたらしい。名前は元来の性格もあり引き籠り気味で、自室から滅多に出てくることがないため、彼女の姿が見なくても、加州達はあまり気にすることがないのだが、まさか、こんな事になっていようとは思わず驚きを隠せないでいた。


「今は平和だが、その前は寝る間もないほど討伐と遠征が入っていたからな……ここ最近の静けさで気が緩まれたのだろう……おいたわしや主……。」

と涙ぐむ長谷部に加州は


「いや……マジ驚いたわ……主でも風邪ひくんだな。」

「そりゃ……人間だから風邪位ひくだろう。」

と御手杵は返すが、加州はキョトンとした表情で


「俺らの主バカじゃん。バカって風邪ひかないんだよね?え、じゃあ主はバカじゃなかったってこと?」

と困惑した表情で返した。
加州がこう言うのも無理がない話で、彼らの主は控えめに言っても頭が良いとは言えない人間で、加州の相方である大和守安定が本丸に来た時も

『おお……わ……まもる?あ、あんてい?』

と名前の読み間違えは通常運転で、討伐編成も下手したら刀剣男士がトラウマを受けた時代と場所に送り込む編成を組み、何か考えがあるんだろうと思っていたら、単に歴史的事変を知らないからやっていたことが判明したり、長谷部曰くコミュ障ゆえに言って良いこと悪いことの区別がつかず、本丸に来る刀剣男士のメンタルを悪気なく必ず抉るような発言をする(抉られなかったのは三日月宗近と一期一振だけ)大変ザンネンな審神者であるのだ。
実家が創建は奈良時代に遡る遷座もある規模の神社であり、審神者になる前は“クールビューティーな巫女”と密かにネットで人気があるほどの端麗な容姿であり、刀剣男士を顕現させる時に舞う神楽の美しさは神がかっており、刀剣男士も見惚れるほどなのだが、オツムは非常に残念なのだ。知能指数の大半を容姿に持っていかれたのだと信じてしまうくらいに頭が不自由なのだった。


「いや、バカは体調管理が出来ないから逆に風邪ひきやすいんじゃないか?」

「あはは、バカは風邪ひかないって言うもんね。よかったね。主、バカじゃなかったみたいだよ。あははは。」

と言う御手杵と受けるにっかり青江たちの間に、ガッと彼らの鼻先ギリギリのところで長谷部が刀を壁に刺した。


「看病する気がないなら即刻去れ!でなければ……。」

と長谷部は……彼の前の主が、彼の名前の由来となった出来事……箪笥の裏側に逃げ込んだ茶坊主をそれごと斬った時にしていたであろう目や表情で彼らを見下ろした。
加州はダラダラと冷や汗を流しながら

「じゃあ、何か手伝えることあったら言ってよ。主の看病頼むね。」

と御手杵とにっかり青江の首根っこを掴むと引きずり出すように名前の部屋から出た。その様子を溜息を吐きながら長谷部は見送ると、名前の傍にいき額に貼ってあったアイスノンを換えようとした。

彼女は目を覚ます気配はないが、昨日よりは幾分か呼吸は楽そうで、頬の赤みも引いているようだった。
それにホッとした長谷部は、彼女の頬に自分の掌を置いた。
自分達にはない、体温という“熱”が仮初の自分の肉体である掌に伝わり長谷部は泣きたい気持ちになった。

織田が滅び、黒田家に下賜された時、その時の主である黒田長政はよく自分を帯刀して何処に行くのでも、自分を連れて行ってくれた。
衣服越しや柄越しに感じる彼の体温に安心し、随分居心地が良かったのを覚えている。
時代も戦国から安定の時代である江戸時代に移っており、長谷部は刀本来の役割を果たすことはなく、ただ彼の傍にいるだけで良くて、長谷部はその体温に微睡、赤子が母に抱かれている時のような安心した心持で過ごしていた。この微睡の中でずっと過ごしていくのだと思っていた。
が、別れの日はある日、突然おとずれた。
燃える夏の日、長谷部は床の間に飾られたまま二度と長政に帯刀されることはなく、黒田家の家宝として福岡城の宝物庫の奥深くに仕舞われてしまった。微睡過ぎて忘れていたが

(ああ、人は死ぬのだったな……。)

と長谷部は再び瞼を閉じた。今度は微睡むためではなく意識を遮断するために……。
それから、数百年の時を経て美術館に寄贈された長谷部は時折、人間の目にガラス越しに触れることはあったが、ほとんどを美術館の管理庫で保管され過ごした。

どれだけ時がたっただろうか、美術館の改装に伴い、ある神社に長谷部は預けられることになった。厳重に何重にも特殊な布で巻かれ桐の箱に納められた長谷部は、長い時間をかけて車でその神社に運ばれた。それが名前の実家である神社だった。
長谷部が到着した数日後、1週間前に産まれたばかりの赤子の名前が帰って来た。

『ほら、名前……。この刀さんが新しい家族よ。貴女より少し早く来たからお兄さんね。へし切り長谷部……さんって言えばいいのかしらね?この子のことも守ってあげてね。』


と、長谷部の前で神楽を舞終わった名前の母親は、胸に赤子の名前を抱き、長谷部の柄に軽く名前の手を置いた。ジンワリと熱が伝わり、長谷部は閉じた目を少し開いた。そこには、巫女装束に身を包んだ若い女性と赤子がいた。


『あ、ダメよ!くちの中に入れちゃ……あら、大丈夫かしら?ごめんなさいね長谷部さん。気を悪くしないでね。赤ちゃんは何でも口に入れちゃうから……仲良くしてあげてね。』


とおそらく目の前にきた長谷部の柄を名前が口に含んだようで、名前の母親は慌てて袖で柄についた涎を拭った。
不思議と長政に帯刀されていたことを思い出し長谷部は

―主命とあらば……。

と自然と口からついて出ていた。


それから、彼女とはずっといる。
初めて這った時も、立った時も
初めて言葉を話した時も
幼稚園に行き、小学生になり
巫女の見習いを始め、中学に上がる頃に母親を亡くし塞ぎこむようになり
そして、高校生になり……時間遡行軍に襲われた時、彼女の叫び声で目覚め肉体を得たのだ。


体温は生きている……主がこの世にいる唯一の確認手段だった。
熱は下がったようだが、彼女は未だに少し苦しそうで、長谷部は胸が痛んだが、同時に彼は安心もしていた。何かを求めるように宙を舞う彼女の手を掴むと長谷部は、まだ少し熱を持つ彼女の額に自分の額を当てて歪んでいく視界を遮るように静かに瞳を閉じた。

―その温度が僕を泣かせる


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