※注意※

・本編はJG、ドラマCD“D課捜査ファイル”の設定に準じています。
・福本×夢主描写あり。
・夢主が優柔不断。(福本と佐久間の間で揺れてます。)
・義務教育レベルの性描写あり(多分、私が書いてる段階で大したことはない。かえって免疫がつかないレベルの描写。)
・今作品は安定の「駄作だ、駄文だ。うっかり読了してしまった場合、読者に待っているのは真っ暗な虚無感だけだ。それでも、読了してしまった場合は”駄文、駄作”を読了してしまったという変えようがない真実を欺いてでも生き残れ」る方のみお進みください。










福本という人間はもの静かな男だ。
それは福本とはどういう人間か聞かれた時に、だいたい出てくる答えだ。
それは彼を良く深く知る……彼の人となりのさわりしか知らない人間に関わらず、彼に対する共通の認識といっていいほどだと思う。

捜査一課から、急な人事異動でD課に係長として着任した佐久間は、ぼんやりと書類に目を通しながら、カードゲームに興じる……およそ就業時間内とは思えない光景を繰り広げている部下たちをチラッと盗みした。

佐久間たちが所属するD課は警察組織の闇と言われ、構成メンバーはおろか、業務内容も警察内部であっても非公開である。
その業務内容も、警察内部に起きた不祥事に関する調査など特殊なことが多いため、自然と他部署とは距離を置かざる得ない。逆に言えば、D課は同じ警察組織に所属しながらも身内から監視されているようなものだから、なるべくお近づきになりたくないというのが、D課以外の全職員の本音だろう。実際、佐久間も後ろ暗いことがないとはいえ、その気になれば、彼の勤務成績は勿論、佐久間が生まれてから今まで何を食べたか、どんな学生生活を送ったか、どんな家庭でどんな家族の間で育ったのかとか、今までの交際相手は勿論、初体験から佐久間の性癖に至るまで洗い出すことなど彼らにとっては造作もないことであろう。それどころか先週、可燃ごみに何を出したかを瞬時に詳細に調べ上げることが出来る能力を有するD課メンバーやD課を気味が悪い、得体のしれないものと思っていたし、実際、辞令が下りた瞬間は色んな意味で目の前が真っ暗になったのも事実だった。

D課所属になれば、おいそれと呑みにも行けなくなるので、多忙な業務と引き継ぎの合間を縫って同期や捜査一課のメンバーと今生の別れを惜しむかのように呑みに行き“ズッ友だよ!”ならぬ“何処にいても、例え連絡が途絶えても心は繋がってる”と友情の固さを確認するような言葉を言われはしたが、いざD課所属になると今まであったメールや電話や同期会や呑みの誘いもパッタリなくなったのだから、D課がどれだけ全職員から警戒、忌避されているのか嫌でも思い知ることになったものだ。

常軌を逸した捜査能力を有するD課メンバーの優秀さと、それに比例するかのような彼らの破天荒さについていけずに、何度辞表を出そうかとは思ったが、そんなエキセントリックな集団の中でも、比較的、普通に近いメンバーも数名いたため何とかやっていけているのが、佐久間の今置かれた現状でもあった。

福本も、国民的アイドルJG娘に傾倒してはいるものの普段は口数も少なく、仕事熱心で、特技の料理を活かし、たまに差し入れを持ってきてくれたりしてメンバーを和ませてくれていた。また、彼の煎れるコーヒーや茶は絶品で、同じ茶葉やコーヒー豆を使用しているのにどうしてこうも違うのだろうと首を傾げるほどだった。

とにかく、扱いにくい部下たちの中でも福本は比較的従順で接しやすく、佐久間にとっては有り難い存在であった。


(福本、イイ奴だよな。仕事は出来るし、家事も出来るし、背も高いし……ボーッとしてるから目立たないけど……顔も良い方だよなぁ。アイドルに傾倒していることを除けば社会人としても結婚相手としても中々の優良物件だな。)

「佐久間係長。マグカップ下げますね。おかわりはどうされますか?」

と、横から声をかけられ佐久間は顔を上げた。
隣には同じく部下の苗字が笑みを浮かべて立っていた。


「ああ、すまない。もう十分だ……ありがとう。」

と佐久間が苗字に笑顔で答えると、彼女は笑顔で頷き佐久間のデスクの上にあるマグカップを下げた。彼女も福本と同じくD課メンバーではあるが癖がなく、佐久間の指示に従い、時には気遣ってくれる有り難い存在だ。

男性ばかりのD課において、紅一点でもある彼女は女性というだけでも貴重な存在であるのに、加えて若く可愛いらしい容姿であるため、佐久間にとっては密かに目の保養でもあった。決してセクハラと判断されるような目では見ていないが、男性ばかりの空間なので、女性の存在が癒しになるのは仕方がない。特に若く可愛らしいとくれば尚のことだ。


彼女の後ろ姿を見送りながら、不意にゾクッとした寒気を感じた佐久間は、視線がなげかけられた方を見たが、そこにはメンバーにコーヒーを配っている福本の姿しかなく、彼は首を傾げた。


(最近、残業が続いてたし……疲れてるのか?)


と頭を掻きながら佐久間は再び書類に目を落とした。
しかし、佐久間がこういった視線を感じるのは今が初めてではなかった。
先ほどのように、彼女と話をした後や、一緒にいる時に感じることが多かったのだが、その視線のもとを探ろうとしても、常と変わらない光景が広がっているだけだった。
D課メンバーほどではないが、佐久間も職業柄、人の気配や異変には気づきやすい方である。気のせいと片づけるにしては視線の回数も多く、露骨なのだが……。


(今日は定時で帰るか。疲れてるんだ、きっと。)


憎まれるような覚えもないため、佐久間は気のせいだと自分の中で結論付け再び書類に没頭した。


========


福本と彼女−苗字とは大学時代からの付き合いで、周りからは“付き合っているんじゃないか?”と誤解されるほどに仲が良かった。

実際は、大学時代から今に至るまで“気の置けない異性の友達”どまりではあったが、福本は内心、苗字を気に入っており、恋愛感情という意味で“好き”だった。

大学時代と同じく、D課のメンバーも(元々、他人に興味関心、執着がない人間たちの集まりというのもあるが)大学時代の友人たちのように空気を読んで彼女に誰もチョッカイは出さなかったので、福本は安心していた。

彼女からみた福本は“気の置けない異性の友人”でしかないという事は分かっていたので、福本は長期戦で、じっくり、ゆっくり距離と関係を詰めて、彼女から“福本と付き合ってもいいなぁ”と思う方向に仕向け、受け入れる準備が整ったら告白するつもりだった。

実際、最近では、週末はふたりで過ごすのが恒例化してきていたし、この間なんて福本の自宅で宅呑みをして、安心しきっていたのか彼女が酔っ払ってそのまま眠り込んでしまい福本の自宅に泊まることになってしまうという出来事まであった。

流石に、異性ということもあり、いくら仲が良くても泊まるということは今まで無かっただけに福本は、これはもうかなりイイ線までいっているのではないかと、眠りこけた彼女を自分のベッドに運びながら順調に関係が構築されていることに喜びを感じていた。(彼女にベッドを譲ったので、もちろん自分はソファーで眠った。)


どの段階で告白しょうかと考えていた時、いつものように週末に彼女が福本の自宅に遊びに来て、ふたりでお昼用にパスタを作っていた時だった。


先日、捜査一課から人事異動で着任した係長の佐久間の話題になり、パスタソースが入った鍋を木箆でかき回しながら彼女が



「今度きた係長って素敵じゃない?」


と嬉しそうに福本に話を振ったのだ。
福本は思わぬ発言に驚き、咄嗟に言葉が出なかったが、彼女の横顔をみて


(これは……マズイ。)


と内心焦った。それは福本にとっては暗黒時代だった大学2年生の冬、バイト先の他大学の学生と彼女が付き合い始めたことを報告された時の顔に良く似ていたからだ。(この恋は、相手の就活に伴う多忙のため1年で終わりを告げたが)


彼女は、そんな福本に気付くことはなく佐久間を当たり障りのない言葉で誉めていた。


今はまだ彼女の佐久間への気持ちは“ちょっとした憧れ”に過ぎないだろうが、時間をそれほど置かずに、きっと彼女は自分の気持ちが恋愛感情であることに気付くだろうことを福本は前回の経験から嫌でも分かっていた。


おそらく、佐久間も曲者揃いのD課の中で、比較的、普通の部類に属している上に若く可愛らしい彼女に好意を寄せられればよろめかない筈は無い。
ただでさえ多忙を極めた職務で、異性と知り合う機会も時間もないのだ。

そんな中で、いくら部下でも若く可愛らしい女性が自分を好きだと言っているのなら、拒否する理由を探す方が困難というものだった。


彼女のことを考えるなら、佐久間とのことを応援してやるべきだし、もしかしたら上手くいかない場合もあるのだから、そこを上手くフォローしてやれば良いだけの話だ。


けれども、何となく……根拠はないが、ふたりの関係を出来上がらせてはいけない気がした福本は普段からは考えられない暴挙に出たのだった。


ふたりでパスタを作って食べる段階になり、まだ日が高いと遠慮する彼女に上物のワインだからとワインをすすめ、酔わせて判断力がなくなった頃合いを見計らい、彼女をベッドに抱えて運び、そのまま抱いたのだった。


“ダメだよ。わたしたちともだちでしょ?”


と、アルコールで力がでない彼女の、抵抗で伸ばした腕を掴み、そのままシーツに押し付け、思うさま彼女の体を貪った。


福本にとって、彼女の声も意思を無視したのは、長い付き合いで今回が初めてだった。


彼女を抱きながら、福本は彼女に佐久間に心のなかで謝った。
自分が酷いことをしている自覚はあったのだが、福本は今度こそ彼女を取られたく無かったのだ。


行為が終わり、気絶するように眠った彼女が起きたあと、福本は誠心誠意、心をこめて彼女に謝り、付き合ってほしいと告げた。
福本を友達にしか思えない彼女は、福本の告白に戸惑ったが


「付き合っていけば気持ちは変わる。変えるように俺が頑張る。」


「俺とこうなってしまったのに今さら、他の奴とどうかなりたいのか?相手が知ったらどうする?」


「もし拒否するなら、友達としても……もういられない。」


と渋る彼女を追い詰めるように、頷かせるために福本は普段からは想像がつかないくらいに饒舌に彼女を口説き、逃げ場がないところまで追い込んだ。


「福本くんのこと……好きか分からないのに……福本くんはそれでいいの?」

と長い沈黙のあと絞り出すように呟いた彼女に福本は

「友達として今まで上手くやれたんだ。お互い、恋人らしいことをしていけば、そう思える。」


と彼女を抱き締めた。


彼女が完全に納得したわけではないが、こうして福本と彼女の交際が始まった。
福本は、これでもかというほどに彼女に恋人として接し、彼女も戸惑いながら受け入れていった。


彼女が何か言おうとする度に、この関係を揺らがせるような言葉を言わせないように、福本は彼女の口を塞ぎ、彼女を抱いた。


彼女が、以前と違い、徐々に元気がなくなっていっていることに福本は気付いていたが、彼女がこの関係がオカシイ……福本が作り上げただけの歪なものだと彼女の口から言わせないようにする方が重要であると思った福本は、彼女にその言葉を言わせないように、彼女の口を塞ぎ、彼女の言葉の上に自分の言葉を被せた。


それが、いつか崩壊するものだと分かっていながらも……今日も彼は静寂を維持するために、彼女の心を死なない程度に締め付け、佐久間に気付かれないように牽制の意味で視線を送るのだ。


(すみません……佐久間さん。それに苗字……。間違ってるのは分かってるんです。けど、俺も幸せになりたいんです。ただそれだけなんです。)


ふたりに心のなかで謝りながら、今日も福本は自分の幸せのために、彼女から言葉を奪い、佐久間を監視して歪な静寂を作り出すのだ。彼はふたりにイジワルをしたかったわけではなかった。

そう、彼はただ“しあわせ”になりたかっただけなのだ。



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