りみっと
2013/07/27 23:08
ガソリン、そして古い油が染み付いたような匂い。
これが俺の実家。
車をいじる時と、バスケをしている時は不思議と落ち着けた。
機材の手入れをしていたら、玄関先からおふくろの1トーン高い嬉しげな声が聞こえてきた。どうやら彼女が、来たようだ。
そして、いつの間にか背後には近所の中坊。母校の女子の制服を久しぶりに見た気がする。中坊か、…若いな。
「よしたけさーん、お疲れさまでーす!」
「おー…なんだ制服で来るとは珍しいな。どーした」
「お母さんの実家からスイカ送られてきたんですけど、食べきれなくて差し入れに来ましたー。よしたけさん元気で私も夏バテ治りそうです」
小学生の頃はタメ口だったくせに今はいっちょまえに敬語だからそれがなんだか不思議な気分だ。
「おまえ夏バテしてんの?」
「えっと…まあ…水着着れる体型になったし…別に…」
「ダイエットなんかしなくても十分だろ。おまえ、水着着るのか色気付いたな」
「よしたけさん暇ならまた昔みたいに一緒にプール行きましょうよー!今年は私ビキニ買ったんですよ」
「昔って俺たちが小学生の頃じゃねーか。あいにく家の手伝いでそれどころじゃねーよ」
「ウソツキ」
「あ?」
「彼女いることくらい分かってるんですからねっ!」
ここで絶妙なタイミングで噂の彼女が登場した。今まで、おふくろと話していた彼女が俺を呼びに来た。
「間久見先輩、先輩のお母さんがお呼びですよ。…あ、お話中でしたか、ごめんなさい」
「いや、たいしたこと話してねーよ。おふくろが何だって?」
「あなた、よしたけさんの彼女さんですね?」
「は…はい」
「ふーん。なんか色気なーい。なんか意外かもー」
「…そうですか」
「元カノのほーがかわいい人だったーごめんくださーい!おばさーん!スイカでぇーす!」
ヤツは俺たちに爆弾を投下して去っていった。
「あのクソガキ…」
「かわいい顔してクソガキですね」
「気にしてんのか」
「やっぱり。気にしますよ。わかってたけどやっぱり実感すると精神的にキますね」
「憎たらしいくらいの可愛げは、おまえのほーがあるから気にすんな」
「…先輩、暑さで頭やられたんですか」
「……おまえもクソガキだな」
「これはこれはお褒めの言葉うれしいです。では先輩が倒れてしまう前に、休憩しましょうか、麦茶飲みましょう」
彼女の笑顔に俺は暑さも忘れるくらい見入ったのはきっと暑さのせいじゃない。
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