Never,




 「黙っていればうつくしいのにね」
 至極残念そうに溜息を吐いてわざとらしく肩をすくめる王子に、イドルフリートの機嫌は急転直下で地に落ちた。
 「……なにがいいたい」
 「君は確かにうつくしいのさ。だけどそれを生かしきれていないとでもいうのかな……。もったいないよ。遠目から見れば君ほど完璧な人間はいないのに、少しでも君の言葉を聞いた者はみんな眉を顰めるんだ。そして僕にもったいぶって付き合うのはやめろと忠告するのさ。彼らは君の何を知ったつもりなんだろうね?
 すごく残念だよ。もし君のことをもっと良く知る努力さえすればそんなこと言えなくなるのに。君が何も知らない低能たちに悪しざまに言われているのが凄く悔しいんだ」
 拳を握って熱く演説され、イドルフリートは痛む頭を抱えた。此処までくると感じるのは羞恥でもなんでもなく、彼の盲目さに対する憐憫だ。
 「もういいからやめ給えよ……ド低脳が更に無能に見えるぞ」
 「動かなければ! 喋らなければ! 素敵なんだけどね!」
 「貴様は私をどうしたいんだ? 褒める風に見せかけて貶めているだろう!」



 浮かぶ肢体。波も立たない水の上で静止したそれはひどくうつくしかった。
 上等の絹が水に濡れることも構わず、ざぶざぶと王子は腰までの水に浸かった。
 もともと白かった顔色は更に青褪めてもはや石膏のよう。王子の起こした波が顔を洗っても彼はぴくりとも動かない。睫毛が雫を含んで、まるで泣いている様にも見えて。
 紛うことなき屍体に、王子は嫣然と笑んだ。
 そっと頬に手をそえて、流る髪に花を添える。白い慎ましやかな花が咲いて金を飾った。
 「今度は赤い薔薇を持ってくるよ。迷ったんだ、君はどちらでも似合うだろうから」
 口付けてももう彼は嫌がらない。形のいい唇を開いて罵倒することも、王子を振り払うこともない。
 生きてた頃はそのうつくしさを褒めそやしていた人々も、唯の肉塊となった彼にはなんの興味も示さなかった。お好きにどうぞ、とばかりに新たな対象を見つけるために散っていき、此処には王子と屍体だけが残された。
 正真正銘、彼だけのもの。
 投げ出された四肢も、冷たい心臓も、愛しい唇まで、全て。
 二度と奪われず、二度と拒否されない。いつまで独り占めにしていても、誰も何も文句を言わない。
 「愛してる、ずっと一緒にいよう」
 その完成されたうつくしさに、彼は満足げな笑みを浮かべた。


back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -