落涙の理由

夕食にスパーダの姿がなかった

「あれ?スパーダは?」
「そういえば見かけないね」
「いつもなら真っ先に来てるのに、おかしいわね」
イリアの言う通り、スパーダは毎回食事の時間には誰よりも先に食卓について催促しているのに 何かあったのだろうか
「私ちょっと心配だから探しに行ってくる 皆は先に食べてて」
「わかったわ」
宿をでて歩き出す
スパーダのことだからまた女の子に絡んでるのだろう
街には明かりが灯り、夕暮れの空と同化して橙色に輝き始めている
「ここだと思ったんだけど···違ったのかな」
あちこち探し回ったが見付からず、とうとう港の先まで出てきてしまった
港は街とは打って変わり閑散として街の灯りのかわりに星がゆったりと波をうつ海を照らしていた
「あ、いた」
寄港している船の近くに見慣れた帽子を見付けた
スパーダ、と呼ぼうとしたが驚いて一瞬言葉がでなかった
海を見つめる彼の頬を涙が伝っていた
スパーダが泣くなんて珍しい 悲しいことでもあったのだろうか
「夕食に来ないから心配したよ」
彼の隣に座って海に足を投げ出す 波音が耳に心地良い
「···スパーダ?」
返事がないので隣を伺ってみると突然抱きしめられた
「どうしたの!?もしかしてナンパ失敗した?」
動揺して声が裏返る
彼が私を抱きしめたまま涙声で言った
「お前今日の昼オレと一緒に昼寝しただろ?」
「うん」 
確かに昼に宿の近くに日当たりの良い場所を見つけて、そこでスパーダと話し込んでいるうちに寝てしまっていた
「それがどうかしたの?」
「夢を見た···俺がお前を殺されちまう夢、ただの夢だと思った でも、怖かったんだよ···」
さらにきつく抱きしめられる
「絶対、お前を死なせたくねぇ」
スパーダの声が震えている 私は息をついて頭を撫でてあげる
「大丈夫、私は死んだりしないよ 丈夫だもん 知ってるでしょう?」
彼が頷いて腕を離した 掌で乱雑に涙を拭っていつものようににかっと笑った
「心配かけちまって、わりぃな」
「いつものことだよ」
からかうように言う
「じゃあ、戻ろうか 皆もう夕食食べてるよ」
「あぁ」
立ち上がろうとしたとき、腕を引かれキスをされた
スパーダはにやりとして言った
「お前の寝顔、なかなか良かったぜ?」
前言撤回 置いて帰ろう
帰り道で繋いだ手は温かだった








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