今夜も一人、あの場所へ



「いらっしゃいませーぇ」






俺は毎日のように、このスーパーへやってくる。

理由は
兄貴に頼まれて買い物とか
(俺をコキ使いたいだけ)
兄貴から離れたくて夜な夜な散歩とか

まぁ皆もそうだろうが、
このスーパーは24時間営業してるから
気軽に来れる。


「いらしゃいませーぇ」

(また あの人だ)

毎日のようにこのスーパーを利用するから
覚えてしまったことがある。

あの雑誌コーナーには少しバーコードがかった頭の紫のスウェットのおじさん
生菓子コーナーには疲れた顔の赤いヒールのOL


それと、「いらっしゃいませ」のあとにかならず小さい「ぇ」が入る、

たぶん俺と同い年くらいの
若い女の子。


「3点で 635円になります」

今日は兄貴に頼まれたコチュジャンとと鷹の爪を購入。

「ありがとうございましたーぁ」

ほら、また語尾に 小さい母音。

買い物にくるたび、少し笑ってしまう。

(この人は 俺のこと 顔ぐらい覚えてたりしないのかな)


「裕太…、おかえり」
「ただいま。
ったく…夜中に鷹の爪なんか買いに行かせんなよなぁ」
「それでも買いに行ってくれる裕太が愛しいよ!」

兄貴、キモ。
毎日うんざりしながら兄貴のおつかいに行ってるけど
最近はもう慣れてきてたりする。

「兄貴…ケーキにコチュジャンなんて入れて、うまいのか?」
「さあどうだろう…物は試しだからね」
「(うわ、すげえ色…)」
「はいどうぞ裕太!」

満面の笑みを浮かべてくる兄貴を取り払って、自室に向かった。
(明日は シュークリームでも買いに行こう)

別に、あの人に会いに行くためじゃない!

変にふわふわしながら、寝た。





「いらっしゃいませーぇ」

いらっしゃいました。
またここに。

今日は兄貴に頼まれたわけでもないのに、やっぱり来てしまった。


彼女はでかい掃除機と店内で格闘してた。


(あ、このシュークリーム美味そう)

店員イチオシ…とでかい売り出しをしてあるシュークリーム。
店員が、彼女だったりして
とか思ってみたりする。

業務的な笑みを今日も浮かべる彼女

なんか今日はレジ打ちが心なしか軽やかな気がした。

「あの…」
なんと、彼女が俺に話しかけてきた?!
やばいな、どうする!

「はぃ…?」
俺は挙動不審になりながらも応えた。


「実はこのシュークリーム、私のイチオシなんです」

(…!)

「そ、そうなんだ」
これ、そうだったのか…

にこにこしながら商品をカゴからカゴへ運ぶ彼女が、とてもかわいい。

(これ、買って良かったなあ)



「ありがとうございましたーぁ!」

少ない商品をレジに通すのは早い。
(もう少しだけ、買えば良かった)

シュークリームと午後の紅茶の入ったやせたレジ袋を覗いて、
ほっこりしながら家路をスキップして帰った。


「裕太、またあのスーパーへ行ったの?」
レジ袋をみて、おふくろが驚いた声で言った。
「ああ。行ったけど?」
「う〜ん…裕太、あんまりあのスーパーには行かない方が良いわよ」

(…は?…)

「最近、あそこの近くで事件があったじゃない」
「…」
なんだ、そんなことか。


自室で1人、
シュークリームをむさぼった。

そんな事件とか、なんとか、
どうでもいいぜ…。

うまかった。シュークリーム。


彼女のセンスは俺と似てるのかもな、

とかなんとか甘い考えと微睡んで
今日も眠りについた。




「いらっしゃいませ」


…あれ、なんかおかしい
「ぇ」 が足りない


自動ドアを抜けて
いつもの彼女をさがした。

掃除機と格闘?
ポップの作成中?

(きっと、休みなんだな)


ふと、シュークリーム売り場で足が止まる


「いらっしゃいませーぇ」

にこり、


( いた )


シュークリーム、買おうとしてるし。

ふいに 彼女のことを何も知らないことに気付く。

名札には 月島 。


「あ、のっ!月島さん!!」

「は…はい…なんでしょうか?」



「…シュークリーム、美味かったです」
(ヤバイ、恥ずかしい)

彼女は目を丸くして

「ありがとうございます!!」

業務用ではない、素敵な笑顔を俺に向けた。
《ドキ》


甘いな、甘い

こんな風に笑うのか…この人…


「それで、あの…」
「はい?」

勇気を振り絞って声をだした。

「下の名前、教えてもらえますかっ!!?」






スーー彼女


(俺もバイトしようかな)(生クリームよりバニラアイス)


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