鈍感の先 2



寮のベットで一人蹲り、先程の服部の発言を考える。

どういう事?
好き?誰が誰を?

服部が、

―…アタシ、を…?

「ウソだー!」
「嘘じゃないよー」
「っ、ミヤっ!」

叫び声に返ってきた、ミヤの声。寮のドアに寄り掛かり、いつものように飄々とした雰囲気を纏う同室者が何故だか突然憎たらしくなってきた。

睨み付けるような視線を華麗にスルーして、ミヤが靴を脱いで部屋に上がる。それから悩むアタシもこれまた同じように華麗にスルーをかました。おい、ちょっと待とうよお姉さん。声に出そうとした瞬間、見計らったようにミヤが振り向く。

「もう知らないフリは出来ないよ、小桜ちゃん」
「え…」

自分でも分かる。今の自分の表情と、声が孕んだ意味。真っ直ぐに見つめられて、でも何を考えているのかなんて微塵も見せない透明なミヤの瞳に、背筋が自然と伸びた。

「―…服部君の意思は決まった。もう今までと同じじゃなくなる」
「それって、どういう…」

困惑の滲む眼と声を、ミヤは一体どんな気持ちで見ているんだろう。見遣る透明な瞳は何も教えてはくれずに、語りもしない。

不意にミヤの目元が柔らかくなる。隠れて消えた透明な瞳は刹那に落とされた瞼の向こう。長い睫毛が縁取るモカオレンジの瞳はいつもの不可解なものに変わっていた。笑顔みたいな表情、を見せるミヤが楽しげに口を歪める。

「ナイショ」

人差し指を桜色の口唇に緩く乗せるように押し付けたミヤから、何ともいえない雰囲気を感じた。そして同時にミヤの表情に怒りが込み上げてくる。

この女…っ!

「アタシの不幸を楽しむなボケーッ!!」

ベットの上で立ち上がり、声を張り上げて叫べばミヤの楽しげな笑みがより一層深くなる。他人の不幸は蜜の味ってヤツですか、そうですか。全く持って納得のいかない答えに辿り着き今度こそミヤを睨んだ。

「ふふ、頑張ってー」

手をひらひらと振り、奥にある自室の方へとミヤが歩いていく。べつにこの寮の各部屋にドアなんてないけれど、それでも部屋に戻ってしまったミヤを追うことは出来ない。一番最初に決めた、二人のルール。自室にはドアなんか無くとも、許可なく侵入しないこと。まさか今ここで障害になろうとは。

肩を落としてベットに崩れ落ちる。ぼすんっと音がして、背中にマットが当たった。勢いは大きかったらしく、ほんの僅かに体がバネの力を受けて跳ね上がる。

昔から、頭を使うのは苦手だった。
直感を頼りにしても、成功する事は希で、でも今まで生きてきた。

あの焦げるような熱い眼と、声を思い出して頭を振った。まるで頭の中から記憶から、必死になって追い出すように。あの、初めて見た情熱の裏側を、空気を振動させた声を。

「勘弁して…」

本当に、頭を使うのは苦手なんだってば。





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