愛苦しい、息苦しい 5 分からない。ミヤの言った言葉が分からない。 休日の部活は好きだ。限りある時間が、まるで無限にあるように感じられる。好きなだけ走って、思う存分走り続けて、気が済むまで走る、走る。何も考えなくていいその時間が心地よかった。 (なのに、) 「うーん……最近、タイム伸びないねー」 「っ、はぁ……はっ、う、ん」 「もう一度計る?」 マネージャーが心配そうに言う。手渡されたストップウォッチには、以前より少し遅いタイムが表示されていた。デジタルの数字が憎たらしい。一度大きく息を吐き出した。 「いや、いいよ。……多分、上がらないから」 「そう?あんまり無茶しちゃ駄目だからね」 「わかってますよー」 逃げるようにその場から離れて、水分を取りに日蔭に向かう。頭の中は上がらないタイムと、この前のミヤの言葉、そして駒井のことでいっぱいだった。しかも問題なのは、頭の中を占める割合が駒井が一番多いことだ。 どうして駒井といると心臓が落ち着かないのか。 どうしてちょっとしたことで嬉しくなるのか。 どうして一秒一秒を、自分の中に刻みつけようと、 (どうして) ――いつまでも知らないふりなんて通用しないから 唐突に思い出すミヤの言葉。冷たい声と、暗い瞳が脳裏を過ぎる。まるで責めるようなそれらは、実際アタシを責めていたんだろう。なのに次の時には何事もなかったような顔で、ミヤは話しかけてきた。 (酷い事って、なによ……) アタシが何をしたというのか。今まで通り、普通に過ごしてきたのに。一体何がミヤの癇に障ったのかアタシには分からない。 「はぁ」 「うわぁ、おっきい溜め息」 「え、」 「どうしたの?」 苦笑いをしながら尋ねてきた同じ部活の子に、何故だかとても安心した。 ここは部活の場所で、駒井やミヤがいる空間じゃない。アタシだけが所有している、アタシだけの空間。この場所は酷く心地良い。これは逃避だろうか。 「いや、ちょっと悩み事、みたいな」 「へえ、珍しいね」 「失礼なんですけど」 「だってさー」 あはは。笑いながらその子は続ける。 「小桜って走ること以外はあんまり興味なさそうだから」 ちょっとした衝撃だった。驚いて固まるアタシを気にせずに、言葉はどんどん続いていく。同時進行で行う彼女の水筒を掴む動きはが印象的で。声が、言葉が、この瞬間が脳裏に焼き付く。 「勉強ダメでも気にしないし、友好関係も気にしないし。……まあ、気にする個所なんてないんだろうけど」 「……ぁ、」 「なのに突然スランプ入っちゃって、みんな吃驚」 「そ……か、な」 「って、いうか、なんかさ」 再び水筒が戻される。こと、と音がした。周りの喧騒がどうしてか少し遠くに感じた。錯覚だとアタシは理解している。ただ、全神経が尖っているように反応していた。 「小桜、恋してる?」 back - next 青いボクらは |