愛苦しい、息苦しい 4



「小桜ちゃん」

部屋についてすぐアタシを出迎えたのは、どこか貼り付けたような笑顔のミヤだった。その笑顔はどこか怖くて、少しだけ肩が揺れた。それを見てミヤは肩を竦めた。

「なんだ、やっぱり鈍くないじゃない」
「……は?」

ミヤの言葉に目を見開いた。驚いたのだ。ミヤがアタシに向けて言った台詞に。間延びしていない、どこか突き放したような雰囲気の話し方に。少しだけ冷たい声に。アタシはミヤに怯えたのだ。

「怯えてどうしたの?」
「だって、ミヤ……くちょう、」
「くちょう……?あぁ」

なんだそんなこと。ミヤはまた笑った。今度はいつも見ている、軽薄で薄っぺらい笑みだった。その笑みに、一瞬で強張っていた体から力が抜ける。その様を、ミヤは可笑しそうに見ていた。

「……なによ」
「なにが?」
「何が可笑しいのさ」

訝しむように言えば、ミヤはきょとんとした。幼い表情に目を見開く。それと同時に衝撃に襲われた。ミヤはこんなにあどけない顔をするのか。しかし次の瞬間、ミヤは嗤った。

「やだなー小桜ちゃんってば」
「は、」
「そんなに敏感なら、あんなに酷い事しないでよー」
「酷い事……?」
「そう、」

ミヤの瞳に、アタシは初めて温度を感じた。軽薄な色を潜め、奥底で燻る小さな感情。体が竦む。そこにあるのは嫌悪だった。とても小さい、一つの感情だった。

「いつまでも知らないフリなんて通用しないから」

声が、冷たい。

「なに、それ……」
「さぁ?」
「、ミヤ!」

はぐらかされている。そう直感した。誤魔化されないように声を上げれば、ミヤは溜め息を吐いた。その様子は、いつもと何一つ変わらなくて、どうしようもなく怖くなった。

「別に小桜ちゃんが嫌いとかじゃないんだけどさ、あれはないと思うの。無自覚、無意識?違うでしょ?」
「だから、なにがっ」
「なんで逃げるの」

淡々とした声だった。気づけば、ミヤの瞳から小さな嫌悪は消えていた。軽薄な瞳がアタシを見ている。背筋に冷や汗が伝った。

「……まあ、いいけどね」

ミヤはくるりとアタシに背中を向ける。その背中にアタシは何も言うことが出来なかった。ただ、その場に立ち尽くして、ミヤの言葉に自分を掻き乱されていた。



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