愛苦しい、息苦しい 3 部活が終わる頃には辺りは暗くなる。群青色に染まる景色は、見慣れているはずのものを違うものへと変える。寮への帰り道はこんなにも寂しかっただろうか。まだ肌寒い風が頬を撫でた。 (暗い、なあ……) 気持ちも、景色も。 段々と足取りが重くなっていった。早く帰りたいのに、足は遅く動く。自分の意思に従わないそれが、なんだか憎らしくなってきた。速く動いてよ。 「……はぁ」 「珍しいな、溜め息なんて」 すぐ後ろで声がした。目を見開いて振り向けば、そこには駒井がいた。なぜか制服に身を包む駒井に、一瞬反応が遅れた。声がのどに引っかかる。けれどその一瞬は、駒井が首を傾げただけで消えてしまう。 「どうした?」 「な、なにも!」 予想外に大きな声が出てしまった。どこか高揚した声は嬉々として聞こえる。自分のものなのに、自分のじゃないみたいだ。頭の中が少し混乱した。 「声でかいよ、お前」 苦笑い気味に駒井が笑う。それだけで、胸が高鳴った。アタシ一人が駒井の笑みを見れたんだと思うと、痛いくらいに嬉しくなる。体温が上昇した気がした。 「べつに、そんなに出すつもりなかったし」 「はいはい」 「ほんとだって!」 「わかってるって」 あぁ、まただ。 また胸が痛い。 「畑?」 「え、」 「いきなり黙るからどうしたのかと思った」 「なんかあった?」優しく聞かれる。それは教室で見るよりも優しく、わずかに丁寧に感じた。どこかぶっきら棒な駒井が見せた優しさだった。こんなに分かりやすく、駒井は声を投げかけない。 「いや、ただ暗いなって」 「なにが?」 「空が、なんかいつもより暗い気がする」 駒井は上を見た。じっと数秒、空を凝視する。大人びたように感じる横顔は格好よくて、アタシは自分の視線が釘付けになるのをぼんやりと感じた。目が離せない。違う、本当はそうじゃない。本当は、きっと、 「明日雨でも降るんじゃねえの」 駒井の声は、静かな帰路によく響いた。他の何にも混じらないで真っ直ぐアタシの耳に届く。耳にするたび自分が変になっていきそうなのに、それでも零さないようにそれを拾い上げるアタシは、なんて可笑しいのだろう。 back - next 青いボクらは |