呼び声 3 「おれ、好きでっ」 「…うん」 「すきに、なって欲しくて、」 「…うん」 「なのにがんば、れなっ」 途切れ途切れになる声を、クレシキは零すことなく拾う。小さな相槌はどこか拙く、曖昧で、そう言えばクレシキは恋愛に対して酷く冷たいのだ。対極の位置に身を置きながら、こうして俺の話を真面目に聞いてくれる。それはなんて優しいのだろう。 「苦しいっ…」 その優しさに負けて、俺は弱くなっていくのだ。 こうして、俺の涙は落ちて頬を伝い、クレシキの指先を濡らして、畑を想いながら泣くのだ。縋り付いて、脆く崩れ落ちた姿を他の誰でもない、クレシキだけに曝して。 「うん」 空気に溶け込んだ声が鼓膜を撫でる。遠い昔に聞いたその音に堪らなくなって、薄い肩に頭を押し付けた。クレシキの制服が、自身の涙で濡れていく。 「頑張った、ね」 「…っ、」 「頑張ったよ、アマネはちゃんと」 「ぅっ…」 クレシキは泣くなと言わない。絶対に。 ただ曖昧な優しさと、不確かな力強さで、背中を押す。いつだって。 だから、 「お疲れさまー」 一瞬で、クレシキは小宮に変わるのだ。 「…ずる、い」 「…」 「小宮は、狡いっ」 掠れた声で責め立てる。小宮の狡さを、瞬間的な優しさを。俺を助けてくれる全ては気紛れのような刹那の間だから。それを望んだのは、俺達二人なのに。 「クレシキっ…」 名前を呼んだ瞬間、あの時感じた違和感を理解する。人の名前を呼ぶのに、意味が無いなんて、そんなわけがない。どんなに小さくとも、くだらなくとも、そこに意味は存在するのだ。俺が今、クレシキの名前を呼んだように。 「……気が済むまで、いるよ」 応える声に反応して流れた涙はほぼ反射だった。遠くの方で鳴った予鈴は自分の泣き声に掻き消された。 >>next→ back - next 青いボクらは |