ES.儚げに泣いた君



「なーにしてるのー?」

間延びした声は、存外、この場一帯に響いた。何かを取り囲むようにしていた男の子達は肩を揺らし、勢い良く振り向く。目があった一人に、にこり。笑いかけてみた。

「げ!小宮だっ」
「かえるぞっ」

慌ただしくこの場から逃げていった複数の背中を見送って、それから視線をずらす。何かを抱きかかえた少年が、眼に涙を溜めていた。痛ましいな、声にはしなかった。少年の腕の中で、小さな声がした。

「にゃー…」
「わ、ネコだー」
「…。」
「どーしたのこの子ー。アマネがひろったのー?」
「…う、ん」
「へぇー。名前はー?」

返ってきた弱々しい声を無視して、威嚇する猫に手を伸ばした。さっきの出来事の後だ、そう簡単には懐いてくれない。ゆっくりと、慎重にして触れていく。腫れ物に触るような手つきだった。若干、震えていたかもしれない。どちらが?どちらとも。

不意に、自分でも小さな生物でもない、猫を抱く腕が震えていることに気が付いた。しかし、彼は堪えて、その透明な雫を零さないよう懸命になっている。

「アマネ」
「…うん」
「おつかれさま」
「…う、んっ」

泣いていいよとは、言えない。

アマネにはアマネなりのプライドと、意地がある。だから彼は今、こうして耐えているのだ。直接言ってしまえば、アマネは泣くだろう。けれど、だからこそ。自分は何も声に、形にしてはいけないのだ。言えないんだ。

「あ、りがと…っ、クレシキっ」

(え…、)
一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「おれ、じゃなにもできなか、った…っ」
「…そ、う」
「だ、からっ…ありがとうっ」

ボロリと大粒の涙を頬に伝わせ泣く彼は、腕の中に閉じ込めるように守ってみせた、その小さな命よりも頼りなく、危うげで。いとも容易く果ててしまいそうな彼らは、本当に、もう既に泣かなくなった自分には、眩かった。

時折、こうして夢の中に現れるほどには。

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