平行線、延長線 3 体の動きが硬直して、表情の、特に頬の部位の筋肉も硬直しているような気がする。 心臓が痛い。胸が痛い。 締め付けられて、息が苦しい。 だって畑、気が付いてないんじゃないの。 「鈍感って、困りもんだよねー」 「………小宮」 「自覚がないのは表面上の意識だけだよ」 ふっと小宮が嗤う。不意に見せる、酷く冷たい目と口元で。それは小宮の恋愛に対する考えがそうさせているものだと俺は知っている。欲という欲が、生存欲以外殆どない小宮には、恋愛は対極地に存在しているのだ。だからこんなに冷たく見える。 「…知ってるよ、分かってる」 「ふぅん?」 モカオレンジを細める小宮に、先程の冷たさは無かった。常に浮かぶ、実像の無い虚像の表情が張り付いていて、溜息を吐きたくなった。 ちらりと畑をもう一度視界に入れる。そこには照れた様な、嬉しそうに顔を綻ばせる畑が居て、その隣には駒井が少し機嫌が悪そうに座って話を聞いている。日に日に変わる席の配置が、どうやら俺の隣は小宮だったらしい。 「はぁ…」 今度は溜息を殺さずに外に吐き出した。気付いた駒井が目でどうしたと尋ね、隣に座る小宮はへらへら笑っている。畑は残念な事に気付いていない。 何でもないと、駒井に笑い掛けてフォークを手に取る。小宮はどうせ溜息の理由なんて気付いてるんだから気にするだけ意味が無い。嬉しいのか悲しいのか、小宮は洞察力が無駄に鋭い。しかも中々これが外れないから嫌になる。 「仕方ないよ、集中力は一点にのみなんだから」 「何でだろう…小宮に励まされると不安になるんだけど」 「失礼だねー」 でも、反論は無いんだねー。なんて、後に続いた台詞にぐっと詰まる。しかし、反論する余地は何処にも無い。実際、畑は駒井や小宮みたいに色々な箇所にまで集中力を上手く振り分けられない。集中するとしたら、一つの事にのみ、だ。 だから、畑が俺の溜息に気が付かないのは当然で仕方ない。しかも、今の畑の集中力は、部活に対する思いと同等の価値があるほどなのだから余計に。 またも苦しくなる心臓。馬鹿だなあとは笑い飛ばせない。目の前に居る畑が、楽しそうに食事をする姿は別に良い。むしろもっと見ていたいくらいだけれど、その『楽しい食事姿』を作り出している要因が、俺でない事が頂けないのだ。 「ねえ小宮」 「んー?」 「俺これから毎日畑の事口説くから」 「何々事前予告ー?」 「そう」 もう決めた。俺は毎日畑を口説く。別に小宮は突然目の前で友達が口説かれてたって、どうせ動揺なんてしないだろうけど取り敢えず。後で駒井にも言わなくては。 目の前で幸せそうに頬を緩ませる畑に、声に出さず心の内で告げる。俺は毎日畑を口説く。他の誰かに、特に駒井に気を取られたりしないように。自分に一番意識を向けてくれるように。餓鬼の醜い嫉妬だと笑われても、俺は止めたりはしないから。 でも、「好き」だとは言わない。 毎日言葉にして、大切な気持ちを告げる言葉を陳腐な言葉にしたくはないから。 >>next→ back - next 青いボクらは |