おサボり


なんだかその日は新しいことに挑戦してみたくて、まあ普通だとポジティブなニュアンスにとられるんだろうけど、そういうテンションではなかった。
つまり、ネガティブな挑戦。でも、万引きしてやろうとかそういう悪いことじゃなくて、もっと、はっはーと笑いとばせるようなことをしてみたくて。

まあなにが言いたいかと言うと、授業をサボってみたかった。

漫画とかではサボりなんて当たり前で、その時間にケンカだの愛の逃避行だのをしていたけれど、実際自分が高校生になってみてわかったのは、そんなことは許されないのだということだった。
みんな普通に授業に出てるし、不良さんたちも寝てるだけで割と教室にいたりする。たまにいないけど。ていうか、サボる理由がない。

でもなんだか、どうしようもなく、サボりを経験してみたかった。それをやらねば高校生ではないと思った。

と、友達に提案したら盛大に反対された。マジのドン引き顔で責められた。

でも来年わたしは3年生で、受験で内申点だの色々ナーバスになるだろうし、やるなら今の超スーパーウルトラ暇MAXな高校2年生の時期にやらねばならない。中二がアホなら高二もアホだ。

だから、わたしは今日この日を初サボりの日とする。


「って思ったの」

「長いっす」


至極真当なことを言ったのは洋平くん。580字使ったもん。そりゃ長いに決まってる。

おサボり仲間がいないかと購買を徘徊してるところに偶然にも出会ったのが彼だった。別にリョータでもよかったけどサボりプロの彼はそもそも学校に来ないという神の領域に達していた。

だからわたしは洋平くんを口説いて一緒にサボってもらっていた。こんなわたしに捕まって彼も不憫だと思う。


「サボりの名所ってさ、屋上じゃん?でもうちの高校色んな教室から屋上丸見えだから勇気なかったんだよね」

「だからって体育館裏に来いって、俺桜子先輩にボコボコにされるかと思いましたよ」

「洋平くんってボコボコにされたことあるの?」

「俺?俺はあんまないかなー」


したことならあるけど、とこの子は恐ろしいことを呟いたのでとりあえず聞こえなかったふりをした。


「先輩は?」

「な、ないよ!今だってサボってるだけで心臓バクバクだよ!あー早く終わんないかな!なんでサボったんだろわたし!心臓に悪いわ!」


洋平くんは、はっはっはーと大きく笑った。やだよ止めて聞こえちゃうから!ばれちゃうから!


「真面目なんですね」

「でも洋平くんも意外に真面目でいい人だって、1年の後輩が言ってたよ」

「え?それ女の子っすか?」

「そうそう。モテモテだね洋平くん」

「まじっすか」


自分で女の子かどうか聞いてきたくせに、洋平くんはあんまり嬉しそうじゃなかった。


「でも実際、タメの女の子とかどーでもいいんすよね」

「え…もしかしてホ…!?」

「言うと思った」


被せるように言ってきた、この状況に慣れている洋平くんは、余裕の笑顔を見せた。


「そうじゃなくて、興味ない女の子に興味ないってこと」

「そりゃそうだ」

「…」

「え、怒った?」

「興味ある女の子になら、いくらでも俺の時間あげるのになー」

「それがモテモテたる所以か!なるほど!」

「…」

「え!?怒った!?」


ぶふっと吹き出した洋平くんは、またおっきな声で笑い出した。だからやめてってば!あと5分で終わるんだから!


「下手くその、上級者への道のりは、己が下手さを、知りて一歩目」

「…え?」

「俺も、先輩も」


洋平くんはサボりの上級者だよって言ったらまた、言うと思った、と笑われた。


「じゃあ次はビビらないように頑張る」

「じゃあ俺は遠回しに言って伝わる術を身につけてきます」


ビビりっぱなしだったにも関わらず、わたしは秋の高い高い空に次を約束した。



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