ねぼけたふり



俺の部屋で、桜子が泣いていた。
俺の目の前で泣いてるのになにも言葉をかけられないのは、俺が泣かせてるからだと思ったから。


「ごめんね寿。もう終わりにしよう」


さよなら、と言って、桜子は部屋を出ていった。





「…ん」


気づいたらそこはもちろん俺の部屋で。さっきまでそこに座っていたはずの俺と桜子は、同じベッドで寝ていた。


「夢か…」


やな夢だな。どうせならもっといい夢見てーわ。

目の前で無防備な顔して寝ている桜子は、さよなら、なんてシリアスな台詞は到底似合わねーな、なんて自惚れた。

俺に寝顔を監察されてるなんて夢にも思ってない桜子の長い睫毛は、ぴくりとも動かない。疲れてんのかな。昨日のことを思い出して自然と顔がにやけた。

すーすーと規則正しい寝息を立てている無防備なその寝顔にちょっかい出したくなって、そっと鼻をつまんでみた。


「…む…」


あ、やべぇ起きる。
急いで寝ているふりをすると、んーと伸びをする声がした。


「…寿、起きてる?」

「んー、寝てる」

「起きてんじゃん」


起き上がろうとした桜子を捕まえて、寝ぼけたふりして思いっきり抱きしめた。


「ちょっと…寿」

「んー」

「寝ぼけてるの?」

「んー」

「しょうがないな、もー」


柔らかい体温を独り占めにして、俺はもう一度眠りについた。

次はいい夢を、見れるように。





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