「おいでー」

「にゃあー」


わたしは一匹の黒い子猫と格闘していた。いや、虐待じゃなくて、むしろ救助してあげようとしていた。だってここは学校の屋上だから。


「…君、どうして屋上に来ちゃったの?」


普通こんな子猫が屋上にいるわけない!ということで、かわいそうに思って下ろしてあげようとしていたのだ。しかし鳴くばかりで近寄ってこない。


「怖いよね、でもお母さんのとこに返してあげたいだけだから、安心して!」

「猫に説得しても無駄だろ」


いつの間にか後ろにいたのは流川くん。


「たぶん、親猫は死んだ」

「えっ…」

「朝、車に轢かれてた猫のそばで、そいつが鳴いてて、そいつも轢かれそうだったから連れてきた」

「にゃあー」


流川くんは牛乳をあげながらそう言った。


「どうするの?この子」

「飼うぞ」

「親とか許してくれるの?」

「ここでだ」

「え!?」

「オメーもだ」

「ええっ!?」

「にゃあー」

「…まあ、いっか!可愛いし!」


人差し指を猫じゃらしに見立てて素早く動かすと、子猫は期待通りに反応してくれた。


「名前決めた?」

「桜子」

「へ…?」

「明日もちゃんとこいよ」


それは、猫の名前を言ったのか、それともわたしを下の名前で呼んだのか。

子猫と同じように頭をぐしゃぐしゃされたから、よりわからなかったけれど

ふたりで顔を赤くしてやさしく笑いあえるこの時間が約束されたことが、たまらなく、嬉しかった。






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