ぶきっちょとあまのじゃく 「桜子ちゃん〜」 「なに仙道」 「ひま」 何故か仙道はわたしにだけまとわりついてくる。もともと越野と仲のよかったわたしだが、いつの間にか越野と3人、そしていつの間にか仙道と2人で話すようになってしまった。 このツンツン頭は今や学校中の注目の的で、まさに時の人だ。そんな人気者がなぜこんな平々凡々なわたしにまとわりつくのか。聞いてみたら「だって面白いもん」だそうだ。 「わたしはひまじゃない」 「じゃあいま何してるの?」 「タレ目の変人にからまれてる」 「ひどいなー」 「…」 「え、無視?」 ひどいなーと棒読みの仙道をじいっと見つめると、急に変顔しだしたから不覚にも笑ってしまった。 「ねえさっきも思ったんだけどさ、仙道、足どうかしたの?」 「え、なんでわかったの?」 「ちょっと足引きずってたじゃん」 「あー、桜子ちゃん気づくかなーと思って演技しただけ」 へらへら笑う仙道に、変顔で威嚇してやった。 「でも気を付けてよ、陵南のエースなんだし」 そう言ったら、今度はわたしがじいっと見つめられた。 「…桜子ちゃんさ、なんで見に来てくれないの?」 「試合?」 「試合も練習も」 へらへらの仙道が、急に真面目な顔して聞いてきた。 「俺すげーがんばってるよ」 「えーだって越野が毎日愚痴ってるもん。あいつは遅れるかサボるかのどっちかだって」 「…やってるときはがんばってるよ」 「はいはい」 「だから来てよ」 最近、仙道はやけに来させようとする。でもわたしは絶対行かない。 「たぶんすげーカッコいいよ!」 「自分で言うな」 そんなの知ってる。絶対カッコいい。だから行かないの。 わたしはバスケ抜きで、仙道が好きだから。 こうして話すのも、変顔合戦も、すごく幸せ。自分が教室を出てった後、わたしがにやにやしてるのなんて知らないでしょ。 本当は打ち明けてしまいたい。今すぐにでも。だけど、仙道フィーバーの今そんなこと言ったら、まるでわたしもそれに乗っかったみたいになるから言わない。 そしてきっと、仙道だってそれはよく思ってないはずなんだ。 ちょっと前に、学年で一番可愛いと有名な子が、仙道に告白して撃沈するというプチ事件が起きた。それ以外にも、撃沈する子は後をたたない。 「仙道って意外に誠実なの?」 「ねえ俺の話聞いてる?」 ふたりで笑い合った。全然会話成り立ってねーじゃん、と笑った仙道は、バスケなんかしてなくてもわたしには十分魅力的で。だからわかりやすい魅力を放ってる仙道なんて、見たくなかった。 「はあ…」 「どうして部活に行かないの?」 「ちがうでしょ、質問。どうして溜め息ついてるの、でしょ」 「一部始終を見てたからわかりますよ」 放課後。仙道はいつものように平然とうちの教室でサボっている。サボりのエースでもある仙道は女の子にどこにいるかも把握されていて、ついさっき一人の子が仙道を訪ねてきた。 例のやつだった。お呼ばれされたその時の仙道の切なげな表情は、わたししか知らない。 そして今に至る。ひとり振ってきたわたしの好きな人が、今目の前で罪悪感と戦っている。 「やっぱり仙道って意外に誠実だね」 「そうかな」 「なんで彼女つくらないの?」 うーん、とツンツン頭をかく仙道。 「つくらないんじゃなくて、出来ないの」 わたしはポカンとした。それを見て仙道が笑った。 「いやいやいやいや!それ越野に言ってみ?絶対ボコボコだよ?」 「じゃあ越野が俺だったら、みんな越野に行くんだろーな」 ほらねやっぱり、仙道はちゃんとしてる。そして、傷付いてる。 バスケありの自分しか見てもらえてないのかな、って。 そんなことないよ。 わたしは仙道が好きなんだよ。 でも言えない。誰かを振る度に、どんどん仙道が好きになる。こんなにやさしい人はいないから。 「それもたぶんボコボコだよ」 「じゃあ秘密な」 あーもう。仙道がバスケを嫌いになったらどうしてくれるんだ。 「じゃあなんでわたしは誘うの?」 んー、と天井を見上げた仙道は 「桜子ちゃんを惚れさせちゃおう大作戦」 と、また切なげに笑った。 試されているのだとわかった。一番話しているわたしが、ほかの子みたいに、バスケしてる自分を見て好きになるのかどうかを。 そんな顔して笑わないでよ。 苦しいよ。 「惚れないよ」 「見てないじゃん」 「見なくても大体わかるもん」 だってもう、十分好きだもん。 「仙道はなんでわたしは惚れてないって思うの?」 「だって好きなやつが頑張ってる姿、普通見たいだろ?」 「それは普通でしょ?」 「え?」 「わたし普通じゃないもん」 仙道のタレ目が丸くなっていた。 「だって仙道のこと仙道って呼んでるのだって、こうやってしゃべるのだって、意地でも見に行かないのだって、わたしだけだもん。普通の子は、バスケから仙道を知ってくけど、わたしはバスケしてる仙道知らないもん。 バスケしてる仙道知らないで、仙道のこと好きなんだもん。 だから、無理に行かせようとしなくていいの。もう十分好きなの。仙道は、そのままで十分魅力的なの。試すようなことしなくていいよ。バスケしてる仙道も見てみたいけど、そんな気持ちの仙道、見たくない」 「桜子ちゃん…」 勝手に一杯一杯になって泣き出したわたしを、仙道は抱きしめた。 「ごめん、俺…どうすればいいかわかんなくて。みんなが誉める俺を見たら、桜子ちゃんも、なんて馬鹿なこと考えてた。 好きだったんだ、ずっと」 好きだと言われたのに、わたしはただ「うん」と答えた。 「うんって、それだけ?」 「うんは、立派な返事でしょ」 「返事って、どういう意味の返事?」 照れ隠しに仙道の頬っぺたを伸ばすと、雰囲気台無し、と笑われた。 「ねえ仙道」 「なに」 「早く部活行きなよ」 「いや今日は桜子ちゃんといちゃいちゃする日ってもう決めた」 「だめ」 「なんで」 「見たいの」 「え?」 「大好きな人の、知らないところ」 |