「(…疲れたな。少し横になるか)」 今まで読んでいた本にしおりを挟み閉じると、ごろりとベッドに横になる。 次第に、うつらうつらと眠気がやってきて、それに身を任せるようにゆるゆると目を閉じた。 それから間もなく、部屋の中にドアをノックする音が響く。 「ネスティー?ヒヨリだけど、入っていい?」 本日はお日柄もよく、 「…あれ?ネス?ネスティー!」 反応の返ってこない部屋の主に向かって声をかけてみる。 しかし、中からは返事の一つも返ってこない。確か、部屋にいると聞いたのに。 「…ネスティ?入っちゃうよー?」 恐る恐るドアを開けると、ベッドで寝ているネスティの姿が目に写る。 ちょっとした物音でも目を覚ましてしまうような彼が、身動ぎ一つしないとは…どうやら、ぐっすりと熟睡しているらしい。 「うっわ、珍しい…ネスティが寝てるところなんて初めて見るかも…」 もの珍しさにじぃっ、と色白く綺麗に整った顔を見る。 なんて羨ましい肌なのかしら、と頬をつんとつついてみる。 それでもまったく起きる気配のない彼の隣に、ゆっくりと腰を下ろした。 「ま、起きるまで待ってても別に怒られないよねー」 起こさないように、静かに静かに腰を沈めると、ぎしり、とベッドが軋む。 それでも目を覚まさない彼を見てくすりと笑いながら、手に持っていた文庫本を読み始めた。 --- 「…ん…んん?」 まだぼぅっとしている頭を起こし、ゆるゆると目を開ける。 目覚めたばかりでしょぼしょぼしている目を擦ろうと手を振り上げると、何か柔らかいものが当たる。 「…何だ?」 傍らに置いたメガネをかけて、はっきりした視界の先に驚いた。 「な、何でここに、ヒヨリが!(しかも寝てる!?)」 今まで寝ていた、そのすぐ隣にいたのはすやすやと眠るヒヨリ。 これでもか!と美脚が顕になっているヒヨリに、顔を紅く染めながら薄手の毛布をかけてやる。 「(…ここまで無防備だとどうすればいいやら)」 ネスティは溜め息を一つつくと、ヒヨリを起こさないようゆっくりとベッドを降りた。 「…ん、ぅ…」 ヒヨリから漏れた声に、ネスティはびくり、と体を強ばらせる。 ちらりと横目でベッドを見ると、幸せそうな顔をして眠りこけるヒヨリがいてホッと胸を撫で下ろす。 「(起こしてはいないようだ…)ん?」 部屋を出ようと歩きだすとくいっと後ろに引かれる。 振り返ると、服…と言うかマントの裾をヒヨリの手がぎゅっと握っているのが目に入った。 ネスティは、苦笑しながらヒヨリの邪魔にならないようにベッドに腰掛けると、さっきまで読んでいた本からしおりを抜いて、ページをめくる。 「やれやれ…早くヒヨリが起きることを期待するしかない、か」 ヒヨリの顔にかかる前髪をそっと梳くと、ごそごそと身動いだが起きる気配はない。 それを見たネスティは柔らかな笑みを浮かべ、また視線を本に落とすのだった。 10 7/31 (ネスに起こすと言う選択肢は存在しないのである。←) |