夜が明けると、リヴァイはふと目を覚ました。いつの間に眠っていたのだろう。うまく思い出せない。そして不思議に思う。頬に何かの温もりを感じるのはどうしてだ。顔を少し動かし、上を見るとそこにはナマエの顔が見える。角度がおかしい。リヴァイは勢いよく上半身を起こした。

するとその振動で、眠っていたナマエも目を覚ます。


「…ん……ん?リヴァイ、起きた…?」
「──…、」
「あれ…ていうか、わたし、いつの間に…寝てたんだろ……」


寝ぼけた様子でひとつあくびをして、おはよう、と呑気に言うナマエに、リヴァイは眉根を寄せる。ここまで来た記憶が曖昧だ。


「お前、何、してんだ」
「え?なにが?」
「いや……いつの間に、俺は……、」
「……あぁ、そっか。そうだよね。意識なさそうだったもんね」


覚えてないのか、と汲み取ったナマエは昨晩のことを簡潔に話した。リヴァイはそれを全く覚えていないようで、前髪をくしゃりとかき上げると、悪かった、と言った。


「はは、別に平気だよ。疲れてたんでしょ?徹夜してたって聞いたけど、だいじょうぶ?」
「………ああ。」


なら良かった、とナマエは両腕を上げて体を伸ばす。リヴァイだけが気まずさを感じているようだ。
しかし本当に何も気にしてなさそうな彼女を見ていると、次第に肩の力は抜けていく。

完全に、無意識だった。
リヴァイは少し気持ちを引き締める。いくらナマエに気を許しているからといって、無意識なのは良くない。彼女は気にしていないようだが、リヴァイはこれからは気をつけようと思った。


「リヴァイ、喉渇いてない?なにか、紅茶でも淹れようか?」
「……。」


リヴァイは少し冷静になる。
むしろ、ナマエは気にしなさすぎではないだろうか。
確かに最近は互いの部屋で過ごすことが増え時には寝てしまうこともあったが、それにしても今回のことは範疇外ではないのか。
リヴァイは一抹の不安を感じる。

彼女は、自分のことをまるでなんとも思っていないのではないか?


「リヴァイ?」


だとしたらそれは好ましくはない。


「…おーい?」


ナマエは一人考え込んでいるリヴァイに近づき、顔を覗き込むように目の前でゆっくりと手を上下に振る。
そして、大丈夫?と聞いてきた彼女の手首をリヴァイは思わず掴んだ。


「……ナマエ、」
「……ん?」


お前は──と、呟き、握る手にグッと力を入れる。

しかしナマエは何も分かっていないような顔でリヴァイを見つめるだけだ。


「お前、は……、」


俺をどう思ってるんだ?

こうしてこんなに近くにいてもナマエは照れるような素振りすら一切見せない。今までだって、そうだった。リヴァイは自身の中にじわりと焦燥感が生まれたのが分かった。



「……お前は、ゆっくり眠れたのか?」
「あぁ、うん。ぜんぜん大丈夫。気づいたら寝てたよ」


そうか……と言ってリヴァイはするりと手を放す。
ナマエは未だに彼を見つめているが、リヴァイはそっと目を逸らした。

彼は彼女の本心を突き止めることに危惧の念を抱き、それ以上は考えるのをやめたのだった。


「──あ、そうだリヴァイ。この前の、しおり出来たんだけどさ。良かったら使ってよ」


するとナマエは思い出したようにリヴァイから一度離れると机の引き出しの中からそれを取り出し、リヴァイに見せた。
それはこの前ナマエが街で少女に貰った花をしおりにしたものだった。リヴァイは気持ちを切り替えそれを手に取る。


「……随分と可愛らしいな。」
「はは、そうだよね。いらないかな?でも私にとって素敵な出来事だったからリヴァイにも持っててもらいたいなと思って。この花はあの女の子の気持ちだし、それに、頑張れるかなぁ、って」


押し花で作られたそのしおりは男が使うには少々可愛らしすぎるような気もしたが、ナマエはそれをリヴァイに渡したかった。あの時感じた陽だまりのような気持ちをリヴァイにも感じてほしかったのだ。


「…そうか。なら、貰っておく」
「ん、ありがと」


そんなナマエの気持ちを汲んだリヴァイはそれを内ポケットに入れて、すると彼女は頬を緩める。


「さぁて、じゃあ、紅茶でも淹れよっか?」


ナマエはお茶を淹れる準備をし始めた。

それを見ながら、リヴァイはふと、いつかナマエが言っていた“どうせなら後悔のない人生を送りたい”というその言葉を、なぜか思い出した。


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