「それにしても、あからさまだとは思わねぇか。」 ナマエ、と言って、隣に座るナマエに視線を向けるリヴァイ。 その視線から逃れるようにナマエは顔を少し逸らした。 ナマエが最後にリヴァイの部屋を訪れてから数日後。あれからぱったりと仕事以外では顔を見せなくなったナマエに、あからさまだとリヴァイは言う。 来なくなったからといって気にするなというのは無理があり、リヴァイは仕事を終えてからナマエの部屋へと訪れ、二人でソファに座り、そして口を開いたのだった。 「俺は別にお前が迷惑だったわけじゃないんだが」 その言葉を聞いてナマエは控えめにふっと笑い、そんなのは分かってるよ、と言った。 「でも……だって、おかしいでしょ。リヴァイは無事だったのに、いつまでも怖がってるなんて。」 ナマエは隠すことなくその気持ちを言葉にする。 彼女は未だにあの時の恐怖を持て余していた。あれからずっと拭えないでいるのだ。 誰かを失う覚悟はしていたはずだった。しかしそれはこんなにも脆く、簡単にナマエを動揺させる。ナマエは自身の弱さに呆れていた。 「おかしいなんてことは、ねぇよ。」 「そうかな」 ふうと小さくため息を漏らすナマエを見て、リヴァイはゆるりと視線を逸らす。 「……どうすればいい」 「……え?」 「どうすれば、お前の不安を拭うことができる」 たとえそれがどうしようもないことだったとしても、もし彼女が不安がっているのならリヴァイはそれを少しでも拭い去ってやりたいと思う。 リヴァイの問いに、ナマエは、うーん…と言って目を伏せる。 「でも……私が強くなるしかないんだよね。どんな時でもあまり動揺しないように、心をもっと強く持たなくちゃ。」 それが命取りになることをナマエは十分に理解していた。 ごめんね、と言って彼女は寂しそうに笑う。その顔を見て、リヴァイの気持ちは余計に強くなる。 彼が彼女にしてやれることはそんなに多くないが、それでも、心を尽くすつもりではいる。 リヴァイはそっと口を開いた。 「分かった……なら、約束をしよう」 「やくそく?」 仲間を失う恐怖は誰の中にでもあるものだ。それを簡単に消し去ることは出来ないかもしれない。死なない確証なんて誰にもない。それでも──。 「俺はお前を残して死なねぇ。今ここで約束する」 その根拠のない言葉に、ナマエは思わず言葉が出なかった。何と言えばいいのかも分からず、ただリヴァイを見つめ、彼の思いを聞く。 「俺には調査兵として生きる理由がそれなりにある…死んでいった部下達の為、人類が生き残る為、自身の為。今となってはいろいろあるが……その中に、俺の生きる理由の中に、お前との約束も加える。俺はお前の為に、お前が悲しまねぇように、その為に生きる。簡単には死なねぇ。絶対に生きて帰る。」 それで少しは安心できるか?と、リヴァイは言った。 ナマエは知っていた。 “約束”や“絶対”などは、果たされないことが多い。少なくとも壁外ではそうだった。どんなに約束をしたとしても、生きて帰れない人はいる。 ──それでも。どうしてだろう。リヴァイの言葉は、気持ちは、とても力強くナマエの心を打つ。 絶対に生きて帰る。 その言葉はナマエの不安定だった気持ちを落ち着かせる。 「……すごく、安心するよ」 いろんな感情が交ざって、うまく言葉に出来ない。しかし彼の思いに応えようとナマエは絞り出すようにそう言った。 リヴァイはそれを聞いて、一瞬表情を和らげる。 「その代わり、お前も約束しろよ。」 「え…?」 「お前も、簡単に死んだりするんじゃねえぞ」 分かったか、と言ってリヴァイはナマエの心臓に拳を当てる。 ナマエが彼を失うことに怯えているように、それはリヴァイにとっても同じだった。 簡単に死ぬな、と、その言葉を貰って、ナマエは気持ちを引き締める。 何としてでも生きなければならない。 「……分かった。私も、約束する。どんな時でも、諦めない。抗って、戦って、ボロボロになっても、生きる。ちゃんとリヴァイのところに生きて戻ってくるよ」 彼女の瞳はもう怯えてはいなかった。それが彼の為になるなら、尚更だ。 「……ああ。約束だ」 お前の、あなたの、心臓に誓う。 |