青い空、白い雲。そして輝く太陽。

それらを見上げながら彼女は一人原っぱの上に寝転でいる。何も考えずに頭を空っぽに出来るこの時間が、好きなのだ。

訓練をサボって日向ぼっこをしているナマエは遠くの方で他の調査兵が訓練をしている音を微かに聞きながら、それを子守唄のようにして目を閉じかける。
しかし眠りそうになっているとそこに近づいてくる足音が聞こえ始め、ナマエはふと彼の存在を頭に思い浮かべる。一定の速度で近づいてくるそれは彼女の頭上まで来ると歩みを止め、そして彼の影がナマエを覆った。

閉じかけていたまぶたを開くと見慣れた顔がナマエを見下ろしていて、視線が交わる。


「お前の班員が探してたぞ」
「…ぶんたいちょーは旅に出ましたって伝えといて」


慣れているのだろう、リヴァイはナマエの返答に表情を変えることなくひとつ瞬きをした。


「お前の頭ん中はいつも旅に出てるじゃねぇか」
「はは、言えてる。」


リヴァイは若干呆れた様子で片手を腰に当て、ナマエは気にすることなく彼の言葉を肯定する。
さわさわとそよ風が吹いて、ナマエは自身の隣をぽんぽんと軽く叩いた。


「リヴァイも一緒にどう?気持ちいいよ」
「仕事中なんだが」
「うん、私もだよ」
「堂々と言ってんじゃねぇよ。」


だってこんなに天気がいい日に訓練や仕事ばかりしていられる?答えはノーだ。
ナマエは目の下の隈がいつもよりも少しひどいリヴァイを見て、空を指差す。


「でもほら、きれいだよ。」


リヴァイはつられるように上を見て、言われるまま空をじっと見つめた。青くて広い空が彼の瞳の中にも広がる。


「なんかさぁ、もう、全部どうでもよくなってこない?」


頭も心も空っぽにして太陽の光を全身に浴び、風に揺れる草木の音を聞いてゆっくりと深呼吸をする。それだけでひどく心は落ち着き、気持ちをリセットすることが出来る。

リヴァイにもそんな気分を少しでも味わってもらいたくて二人で空を見上げるけれど、どうだろう。彼の目にはどんなふうにこの空が映るのだろう。少しでも気持ちが軽くなればいいと、彼女はそっと思う。

そんなことを密かに思いながら空を見上げていればさっきよりも強い風が吹き、二人の髪を少し乱暴に揺らした。秋の風は気持ちいいけれど、少し肌寒い。ナマエは思わずくしゃみをする。


「…風邪引くぞ。」


小さなくしゃみを聞いて再び彼女を見下ろしたリヴァイはそう言って、するとナマエは緩やかな笑顔を返す。


「うーん、日差しはあったかいんだけどねぇ」
「サボっている上にそのせいで風邪なんか引きやがったらさすがに班員も失望するぞ」
「はは。そうだね、気をつけるよ」


リヴァイの言葉はいつも文句や嫌味のようでいてそうでない。ナマエにはそんなふうに聞こえている。


「もう少ししたら戻るよ。ありがとう」


礼を言って両手を頭の後ろで組む。きっとリヴァイは仕事に戻るのだろう。ナマエはあと少し休んだら戻ることにして、まぶたを閉じる。
そうして再び自然の音に耳を傾かせようとすれば、唐突に上からジャケットが降ってきた。ナマエの顔にそれが直撃し思わず声が出る。


「あんまり長いこと寝るなよ。」


被さったそれを手で持ち上げるとすでにリヴァイはそこには居らず、ナマエは咄嗟に上体を起こして振り向く。すると歩いて行く彼の後姿が見えた。


「──…、」


礼を言おうと口を開きかけるが、やっぱりやめる。
なんとなく、あとでいいような気がしたからだ。どんどん歩いて行くリヴァイの姿を見ながら口元を緩め、彼の体温が残るそのジャケットを握る。

それからまた寝転び、リヴァイのジャケットを体に掛けて両手を頭の後ろで組み今度こそ目を閉じた。

今日はずっと穏やかな天気が続きそうだ──とナマエは漠然とそう思った。


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