「リヴァイ、これ良かったら使って」
「……何だ?」
「スカーフ。」


仕事を終えたナマエはリヴァイの部屋を訪れ、プレゼント用に包まれているそれを渡した。受け取ったリヴァイはそれに視線を向けたのち、顔を上げてナマエを見る。


「いきなりどうした」
「リヴァイにはいろいろと世話になったから、そのお礼?」
「……礼、か。世話した覚えはねぇけどな」
「はは、でも、日頃の感謝を込めて他の人にも渡してるんだ。」
「そうなのか」
「うん。そんなに大勢じゃないけど……班員の子とか、あと何人かくらいにね」


だからあまり見せびらかさないでね、とナマエは冗談っぽく笑う。
わざわざ物を貰うほど何かをしたつもりはリヴァイにはなかったが、素直に受け取ることにする。
イスに座ったまま対応しているリヴァイはそのままプレゼントを机へと置いて、用の済んだナマエは、じゃあ、と言って部屋を出て行こうとした。

するとリヴァイが咄嗟に口を開く。


「──ナマエ、」


ふいに名前を呼ばれてナマエは思わず足を止め、顔をまたリヴァイへと向けて小首を傾げる。
しかし引き止めたにも関わらずリヴァイは次に何を言うのかを決めてなかった。目が合ったまま沈黙が続きそうになり、大した考えもないまま口を開く。


「何か、飲んでいくか」


その言葉にナマエはきょとんと目をまん丸くさせ、リヴァイを見つめる。何か用でもあるのかと思えばそういうわけでもなさそうで、部屋は一瞬静まり返ったがナマエはそれを気にすることなくふっと表情を緩め、思うままに彼の誘いに頷いた。




「そういえばリヴァイ、私の熱、伝染ったりしなかった?」


酒か紅茶かという二択にナマエは紅茶と答え、リヴァイがそれを用意して二人で飲んでいる。そして思い出したようにナマエはリヴァイへ問いかけた。


「あぁ、何ともねぇよ」
「本当?よかった」


朝まで看ててもらったナマエはそのあとの数日間リヴァイの様子を密かに窺っていた。伝染っているような様子はなかったが隠そうと思えば彼は隠せるだろうとナマエは考えていた。
一応本人に確認すれば、そんなにヤワじゃねえよ、と返ってくる。まったくリヴァイらしいと彼女はそっと思う。


「でもリヴァイも暇じゃないのに、悪かったなぁと思ってさ」
「あれくらいどうってことねぇ。気にするな」
「……ん、ありがと。でも熱とか久々に出したから本当助かったよ。体調管理はしっかりしないとダメだね」
「……疲れが溜まってたんだろ」


お前もいろいろあったからな…と言ってリヴァイは紅茶を啜る。
いろいろ。
確かに、最近はいろいろと考えさせられる出来事が多かった。ナマエはカップをソーサーに戻し、背もたれに背中を預ける。


「うん。人は人に支えられて生きてるんだなって改めて思ったよ」


悲しいこともあったけれど、そんな中でも仲間がいてくれる温かさにも気づかされた。今回親しい人へプレゼントを渡そうと考えたのもそれがきっかけだ。感謝の気持ちをちゃんと表そうと思った。

それを聞くとリヴァイは貰った包みに視線を落とし納得する。


「感謝の気持ちとかそういうのもそうだけど、思ってることとか、伝えておきたいことはちゃんと普段から伝えておかないとなぁって。どうせなら後悔のない人生を送りたいよ」


調査兵をしているからにはいつ仲間を失うか分からないし自身もいつ命を落とすかも分からない。そんなことはもう当たり前すぎることで、普段から少なくとも意識はしていたが今回父親が亡くなったことで改めて強く思わされた。
いつ、どこで、誰が、どうなるかは分からない。

後悔のない人生を送りたいと言うナマエの言葉にリヴァイは、そうだな、と返事をした。


「──あ、そうだリヴァイ。知ってた?いま雪降ってるんだよ」
「雪?」


背もたれに預けていた背中をパッと離し立ち上がるとナマエは窓の側へと寄り、リヴァイはそんな彼女を目で追う。そこから覗くように外を見渡せば空からゆっくりと降ってくる雪が見える。それは少し積もってきていた。雪は世界を白く染め上げていく。


「…私、雪って好きだなぁ。」


景色が白く染まっていくのがなんだかキレイで、ナマエはそれが好きだった。
リヴァイは立ち上がり、ナマエの側へ行く。


「…寒ぃし積もると雪かきが面倒だろ」
「まぁーそれはそうだけど。でもキレイじゃない?」


窓のまん前に立って雪を眺めるナマエの斜め後ろに立ち、窓枠に曲げた腕を押し当てて彼女と同じようにリヴァイは窓を覗き込んだ。面倒だと言う彼の言葉に振り向けば、すぐ側で目が合う。少し見上げてリヴァイを見るナマエと少し見下ろしてナマエを見るリヴァイの姿が窓ガラスに映り込む。
互いに思わず言葉が出なくなり、二人は黙って見つめ合った。
彼の瞳にナマエが映り、彼女の瞳にリヴァイが映る。瞬きをひとつして、そうして何事もなかったように二人はゆるりと目を逸らし再び窓の外に視線を向けた。

雪は変わらず降り続けていて、ゆっくりと落ちていくそれを見ていると次第に気持ちは落ち着いていく。
ナマエはそっと思いを口にした。


「……また次の冬も、こうやって一緒に雪が見れたらいいね」


静かな部屋にナマエの落ち着いた声が響き、リヴァイは少し間を置いてから、ああ、と返した。
するとまたナマエはリヴァイを見て微笑み、リヴァイもつられるように彼女を見ると、ナマエの気持ちに同調するように僅かに表情を緩める。

そうして雪は少しずつ積もっていった。


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