「……へーちょー、あの、こんな時間にすみません」
「…どうした?」


12月25日。

日付が変わると、私は兵長の部屋へと訪れた。


「……、」
「…入るか?」
「……はい」


どうしよう。なんだか、恥ずかしくて。口ごもってしまう。

部屋の中へと入れてくれた兵長はまだ制服を身に纏っていて、すでに部屋着に着替えている私は少し申し訳ないような気分になった。


「 あの、兵長」


それでも、きゅっとその制服を遠慮がちに掴み、息を吸いながら顔を上げると私よりも背の高い兵長はこっちを見下ろしていて、必然的に目が合う。


「あ……あの……、今日……お誕生日、ですよね」
「……あぁ……そう、だったか」
「一番に、言いたくて……。その、おめでとう、ございます」


自分の誕生日を忘れていたのか思い出したように返事をする兵長に、お祝いの言葉を伝えた。

すると私を見ていたその目は次第に優しく細まり、頭を撫でられた。


「ありがとな。」


その顔と声に胸がきゅーっと締まって、思わずぎゅっと抱きついた。


「……っへいちょう、生まれてきてくれて…ありがとうございます」


いつもいつも、自分の気持ちを伝えるのが下手くそな私はあまり兵長に「好き」だと伝えたことがない。下手というか、どうにも恥ずかしくて言えなくなってしまうのだ。

でも、今日は。今日くらいは。

兵長の誕生日だから。ちゃんと、「おめでとう」と、「ありがとう」と、「だいすき」を伝えたい。

それでも今こうして自分から兵長に抱きついてること自体に心臓がドキドキと高鳴っていくばかりでなかなか落ち着いてくれないのだけれど。


「……だいすき、です」


自ずと抱きついている腕に力が更に入り、緊張しながらも勇気を振り絞ってちゃんと想いを伝えれば兵長はなかなか返事をくれなかった。


「………。」


ぎゅっと閉じていた目をゆっくりと開けて、おずおずと顔を上げてみるとそこにはほんの少しだけ頬の赤い兵長がいた。


「ぁれ……兵長、顔、あか……わっ?!」


思わずそれを口に出してしまい、するとそれに気づいた兵長が咄嗟に私の頭に手をやり、胸板に顔を押し付けられた。


「見るんじゃねぇ、」
「 うぶぶ、っ」


ぐりぐりと押し付けられてうまく喋れなくなる。だけどすぐ側に感じる兵長の鼓動がドキドキと高鳴っていることに気がついた。
それに気づくと私の鼓動も更に速まり、思考回路がおかしくなってしまいそうになる。

もうなんだかよく分からないけど涙腺が緩んできて、だけどぐっと我慢した。すると少ししてから抱き締められていた力が弱まり、兵長を見ればそのまま頬を包み込まれ、顔が近づいてくる。私ははっとして吸い込まれるようにゆっくりと目を閉じた。

静まり返っている部屋の中で唇が触れた瞬間、ぎゅっと自分の手を握り締めた。まだキスをするにも緊張する私はいつしかそれに慣れる日がくるのだろうか。


「……あ、へいちょう…そういえば私、プレゼント用意してない……」


気持ちを伝えることだけでいっぱいいっぱいだった私はプレゼントのことを考えていなかった。それをこんなタイミングで思い出し、だけど兵長はふっと表情を緩めた。


「もう、貰ってる。」
「え……何を、ですか」


何もあげてない。そう思っていれば兵長はまた触れるくらいのキスをひとつしてきた。


「…こんなに幸せな誕生日は初めてだ。お前がいる事と、お前の気持ちと、それだけで十分だ」



今日は…今日くらいは。

私が兵長のことをたくさんの愛でいっぱいにしようと思っていたのに。

そんな素敵なことを言ってくれて、私の方までとろけそうなくらい幸せな気持ちになってしまった。


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