「ハンジよ」
「ん?なに?」
「ナマエと付き合い始めて今日で三ヶ月になる。」
「……あ、そうなんだ。」
「それなのにアイツは、いつまでも俺にデレない。なぜだと思う?」
「知らないよ。」
「俺の事が好きなのかさえ分からなくなってきた。」
「わりとどうでもいいかも、その話。」


ナマエと付き合って三ヶ月が経った。あっという間だった。アイツに告白してからもう三ヶ月も経ったのか。今でも鮮明に思い出す。俺が好きだと告げた時のアイツの顔。無表情だった。


「そもそもナマエは本当に俺の事が好きなのか?不安だ。」
「人類最強のそんな話はあまり聞きたくないんだけど?」


ナマエは感情を表に出す事があまりない。いや、皆無だと言っても過言じゃないくらいだ。何を考えているのかよく分からない。だが俺はそんなアイツに惚れた。ゾッコンだ。だから告白したというのに、「俺と付き合え」というその言葉にナマエは無表情で頷くだけだった。


「アイツは無表情すぎる。もっといろんな顔が見たい。」
「確かにナマエはいっつも同じ顔してるよね。リヴァイに言われたくないと思うけど。」
「少しでも違った顔が見たくていろいろしてはいるんだが」
「え、何してるの?」
「抱き締めたり、キスをしてみたり、胸を揉んでみたり」
「……あ、そう。」
「まぁベッドで抱いた時はさすがに無表情ではなかったが。」
「そこまでは聞きたくねぇよ…」
「あれはすっげぇ興奮した。クソ萌えた。」
「クソどうでもいいよ。」


しかしベッドの上以外では変わらず無表情だ。たまにはデレてほしい。


「…あ、ほらリヴァイ。愛しのナマエちゃんだよ」
「何だと、どこだ!」
「ほらあそこ。」


ハンジが指差す方を見ると、そこには無表情で歩くナマエが居た。そして俺に気づいたらしく目が合うとこっちにその足を進めだす。そんな些細な行動でも嬉しく思ってしまう。


「…兵士長、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「ハンジ分隊長も、おはようございます。」
「(リヴァイはなぜ冷静なふりを…)ん、おはよう。元気?」
「はい。」


今日も元気に無表情だ。


「ねぇナマエってさ、リヴァイのどこが好きなの?」
「……兵士長の好きなところ、ですか」


ハンジはいきなりナマエに問いかける。唐突すぎて焦るが、しかしそれはかなり気になっているので黙ったまま耳を傾ける。
するとナマエはチラリと俺を見た。


「………よく、分かりません。」


そして絶望した。


「え、わ、分からないの?ナマエ本当にリヴァイのこと好きなの?」
「…好きなのは本当です。理由はよく分かりませんが。」


ハンジに殴りかかろうとしていると、ナマエは俺を「好き」だと言った。本人の口からそれが聞けた事に俺の胸は躍りだす。この際理由なんてなくたっていい。


「そっか…」
「オイメガネ、何を当たり前のことを聞いている?」
「……あぁ、うん。ソウダヨネ。」



とは言え。それからもナマエは自分から俺に何かを求めるわけでもなく、淡々と日々が過ぎていった。相変わらずベッドの上以外では無表情のままだ。



「ハンジよ。」
「なに?」
「ナマエが相変わらず抱いてる時以外は無表情。」
「…だから聞きたくないって。夜の話は。」
「まだ巨人と戦っている時の方が少しは表情がある気がする。俺は巨人以下なのか?」
「知らないよ」
「寂しいとかそういう事も一切言わないんだぞ?」
「そもそもリヴァイが構いすぎてそんな感情ないんじゃない?」
「バカ言え。前に一度、寂しいって思ってほしくて忙しいふりをして数日会わないでいた時もナマエは何も言ってこなかった。」
「何をしてるの?君は」
「むしろ俺が耐えられなくなって久しぶりに会った夜はめちゃくちゃ抱いた。」
「ねぇわざと?抱いた話はもういいよ本当。」


ナマエは自分から何も言わない。好きとか、会いたいとか、何一つ言わない。だがキスをすれば普通に受け入れるし抱き締めればそのまま俺の背中に腕を回してくる。嫌がってはいないはずだが、それにしても淡白なのも事実だ。





「ナマエ、今日は俺の部屋で寝ろ。」
「…分かりました。」


そう言えば、夜になると俺の部屋に来る。嫌そうな顔もしないが、嬉しそうな顔もしない。


「そういえば今日ハンジ分隊長と話をしたんですが、私はいつも同じ顔をしていると言われました。」
「…ハンジに?」


こうして部屋に二人で居ると、ずっと黙っているわけでもなく普通に自分から話し出すこともあるのだが。


「意識しているわけではないんですが…そんなに変わらないでしょうか」
「…表情が豊かな方ではない事は確かだな。」
「そうですか?」
「ああ。」
「……。」
「…何だ、気にしているのか?ハンジは明日ぶん殴っておく。」
「いえ、大丈夫です。…でも私、感情を出すのが得意ではなくて…もしかしたら兵士長にも、何も伝わっていないんじゃないかと思いまして」
「…伝わっていない?何がだ?」


するとナマエは少し伏し目になった。


「…私、ちゃんと兵士長のことが好きなんです。理由はよく分かりませんが…とても惹かれています。とても素敵な人だと思っています。私を好きでいてくれる事も、いつも感じています。…それが嬉しいんです。」
「………。」


俺は夢か幻でも見ているのか?何だ、この可愛すぎる生物は。これが自分の女だなんて信じられない。俺はなんて幸せ者なんだ。


「…リヴァイさん、」


しかも名前で呼ばれた。嬉しすぎてぶっ倒れそう。


「私の気持ち、伝わってますか?考えてみたら私…今まで何も言った事ないなって、気づいて…」
「……今伝わった。だから気にするな。」
「…リヴァイさんは優しいです。だから、好きです。」


そして微かに、頬を緩めた。その初めて見る顔に心臓が止まりそうになる。


「…あ、考えてみたら、分かりました。私、リヴァイさんのそういうところが好きなんですね。」


そうか、これが、“デレ”か。ついにナマエは俺にデレたのか。


「リヴァイさん、気づいてますか?私、未だにリヴァイさんに抱き締められたりするとドキドキするんですよ。…おかしいですかね?」
「全くおかしくない。むしろ大歓迎だ。」


俺はいつもナマエの表情ばかり気にしてそんな事には気づかなかった。


「私の気持ちを全部見せられたらいいんですけど…いつでもリヴァイさんのことを考えているんですよ。」
「……それは俺も、同じだ。」
「…嬉しいです。これからはちゃんと、思ってること言いますね。」
「ああ……そうしてくれると有り難い。」
「じゃあさっそく一つ、聞いてもいいですか?」
「何だ?一つと言わず何でも聞け。」
「ありがとうございます……リヴァイさんは、ハンジ分隊長と仲が良いんですか?」
「…は?ハンジ?」
「はい。……なんか、よく二人で話しているところを見かけるので…」
「……。」
「……あ、いえ、その。別に、いいんですよ?仲が良いのはイイことですし…」
「……。」
「ただ…よく一緒に居るなぁ…って思っただけなんですけど…。」
「……お前もしかして、妬いているのか?」
「っ、な、違い、ますよ。何言ってるんですか……」
「……。」


思わず天を仰ぎそうになる。
地下から出てきて良かった。俺がした選択は間違っていなかった。ほんのり頬を染めるナマエを見て、心の底からそう思う。


「…ナマエ、」
「…はい…?」
「ハンジはあれはただの奇行種だ。気にするな。」
「奇行種…?」
「そうだ。何より俺はお前以外の女は全て巨人以下だと思っている。」
「…何言ってるんですか、リヴァイさん。」


呆れたようにそう言って、でも…と付け足す。


「嬉しいと思ってしまっている私も、大概ですかね。」
「………。」



その夜はナマエをめちゃくちゃ抱いた。

そしてそれからのナマエは少しずつ思っている事を口に出すようになり、今まで以上に順調に交際を進めていた。無表情だった顔も、ナマエが想いを言葉にすればするほど様々な表情を見ることが出来た。感無量だった。



「あ、リヴァイ。ちょっといい?」
「黙れ、近づくな。俺にはナマエが居る。」
「は?何言ってんの?」
「ナマエはああ見えてヤキモチ妬きなんだ……金輪際、仕事以外で俺に話しかけるんじゃねぇ。分かったらさっさと消えろこのメガネ野郎。」
「……そうですか。でも仕事のことで話があるんだけど。」


今日はナマエに掃除道具を見に行くと伝えれば一緒に行きたいと言ってきたので、食いぎみでそれに賛成をしこれから二人で街に出る予定だ。


「ねぇリヴァイ、聞いてる?」


それが楽しみで仕方ない。何なら私服で行くという手もあるな。見慣れた兵服よりそっちの方が興奮する。考えてみればナマエの私服なんて見た事がない。あるとしても寝る時の部屋着くらいだ。あぁそうだ。今度休みの日にでも街へ出かけよう。なかなか休みがとれずにいるが、ナマエの為だったら一日くらい休みを貰ってもいいだろう。…ナマエの私服か。スカートとか履くんだろうか。


「おーい。」
「悪くない。」
「え?何が?」
「……あ?何だハンジ、まだ居たのか」
「いやだから仕事の話があるって言ってるじゃん。」
「やはりナマエにはスカートが似合うと思う。」
「しかもいきなり何の話だよ。」


ナマエのスカート姿を想像しながら歩き出す。


「……全然聞いちゃいねぇ…。」


そして通りがかったナマエが俺を見て、微かに口元を緩めたのを俺は見逃さなかった。


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