「私、昔からこの身長が嫌でした。兵士なのに小さくて、調査兵団でやっていけないんじゃないかって言われた事もありました。」
「……」
「子供の時は近所の子にチビってからかわれたりして、本当に嫌だったんです。」
「……」
「でも…だけど……やっと、分かったんです!私がこんなにやたらと小さいのは、リヴァイ兵長と出会う為だったんだって!この身長でよかったって、初めて思えたんです!つまり私は兵長がだいすき!なので私と付き合ってください!付き合うべき!」
「……俺はお前の為にこのサイズ感なわけじゃねぇ。よってお前とは何の関係もない。付き合いもしない。分かったら帰れ。」
「何でですか!?ツンデレですかそれは!?絶対お似合いですよ私たち!身長的にも!」
「俺は今とてつもなくお前にイラついている。お似合いなわけがない。」


この、俺から見てもクソチビな部下はいつもこうして俺に付き纏う。小さいくせに巨人を討伐するのが上手く俺の班に入れたはいいが、最初は静かだったくせに慣れてくるとだんだんと本性を現してきやがった。そう、こいつはただのアホだった。脳みそまで小さいらしい。

そして俺の部屋に来て俺をイラつかせるような告白をしてきた。


「だって兵長、自分より大きい人と付き合えますか?男として嫌じゃないですか?女性兵士ってなんだかんだ兵長より大きい人が多かったりするじゃないですか。あとは同じくらいとか。だったら私と付き合うのが一番だと思うんですよね。それに兵長も私のこと好きでしょう?」


真顔で俺の気にしている事に対して土足で踏み込んでくる。踏みつけてくる。殴りたい。


「…お前はただの部下だ。付き合う気はない。そしてこれはこれから先も変わんねぇ。」
「何でですか!?」
「お前の事をただのチビな部下だとしか思っていないからだ。」
「何でですか!?」
「お前の事を何とも思っていないからだ。」
「何でですか!?」
「…だから、」
「何でですか!?」
「てめぇ何回聞けば気が済むんだよ。もういい、さっさと自分の部屋に帰れ。そして二度と俺の部屋に近づくな。」


何度説明しても全く解ってもらえない。何なんだ、コイツは。作戦を教える時や壁外での伝達の時はすぐに理解するくせになぜ今こうも頭が悪くなる?


「嫌です!納得する答えが返ってくるまでこの部屋から出ません!!」
「そうか。なら俺が出て行く。」


このまま話していても意味がない事を早々に悟り、椅子にドカリと座ったナマエをスルーしジャケットを手に取り自分の部屋から出る。無理やりつまみ出してもドアの前で一晩中騒ぎかねない。俺がここを離れる方が賢明だと判断した。そしてなぜか追いかけて来ないナマエは、本当にあの場から動かないつもりなのか。

とにかく俺はその晩、執務室で過ごした。



「……何で普通に寝てんだよ。」


そして次の日、部屋に帰ってきてみればナマエは俺のベッドでスヤスヤと寝ていた。本当に部屋から出なかったのか。そうか、バカなのか。


「……。」


しかしこうしていると可愛く見えてくるような気がするのは気のせいではないだろう。コイツは見た目だけは可愛らしい。最初の印象も、静かで小さい物分りの良い部下だったのに。
なのに今はただの面倒で騒がしい部下だ。訓練中や壁外に出た時、仕事中は今もわりと普通なのにそれ以外になると途端にうるさくなる。纏わりついてくる。仮にも本当に俺に惚れてるのだとしたら、あんな告白の仕方はないと思う。


「ん……あれ…?………ヘイチョウっ!?戻ってきてたんですか!?一緒に寝ます!?」
「寝ねぇよ。自分の部屋に帰れ。」


目が覚めたらしくまた騒がしくなった。寝起きですぐこれかよ。朝からこのテンションは正直キツイ。いや朝じゃなくてもキツイが。


「何でですか!?」
「…お前は何でいつも何も分からねぇんだよ。」
「え、だって私は兵長と寝たいのに…なのに兵長は帰れと言うんですもん。理解不能です。」
「俺はお前の頭が理解不能だ。」
「私はリヴァイ兵長とお付き合いがしたいんです。ただそれだけなのですよ?たったそれだけの事なのに、兵長は叶えてくれないんですか?」
「オイ。俺の心が狭いみてぇに言うんじゃねぇよ。」
「兵長は私を自分の班に入れておいて、それなのに放置プレイだなんて…正直言って悪趣味ですよ!」
「いやそういうプレイをしているつもりは全くないんだが。」
「えっ」
「…え?お前そういうプレイだと思ってたの?」
「違うんですか!?じゃあどうして私をリヴァイ班に!?」
「普通に見込みがあるからだが。」
「私を側に置いておきたいとかそういうアレじゃなくて!?」
「そういうアレじゃない。」
「えっじゃあ兵長は私のこと好きじゃないんですか!?」
「最初からそう言っている。」


そう言うとナマエはこの世の終わりみたいな顔をする。可哀想とも思わないが。むしろさっさと出て行ってほしい。


「そ、そん、な……じゃあ…付き合ってくれないんですか…?」
「だからそう言っているだろうが。」
「……っじゃあ、どうして私の身長はこんなに小さいんですかっ!?」
「知らねぇよ。遺伝とかじゃねぇの」
「兵長と出会う為じゃなかったんですか!?」
「違う。」
「じゃ、じゃあっ……私は、どうすればいいんですかっ!」
「自分の部屋に帰ればいい。」


徹底的に突き放す態度をとっていると、さすがにへこんだのかナマエは静かになりやっと部屋から出て行った。
静かになった部屋でため息を吐き、これで付き纏うのをやめてくれればいいと思った。

それから数週間、ナマエは休憩中も仕事が終わったあとでも今までみたいに俺に付き纏うことはなくなり、最初の印象の静かなナマエに戻った。これで面倒事もなくなった。あの騒がしさがなければ、やはり物分りの良い扱いやすい部下だ。


なのに、どうしてこんなにも何かが物足りないのだろうか………





という事は全くなく、すこぶる元気に毎日を過ごしていた。



「いや何でですかおかしいでしょ!?!」
「………。」


ようやく平穏を取り戻していた俺の日常にまたヒビが入る音が聞こえる。


「そこは寂しくなっちゃう展開でしょ!!」
「…何がだ。というか入ってくるな。部屋に帰れ。」
「嫌ですよ!ていうかしょぼくれている私を見て何も思わなかったんですか!?」
「あ、お前しょぼくれてたの?」
「どう見てもそうだったじゃないですか!元気もなかったし!」
「知らなかった。」
「兵長は上司として普通に接しながらも元気がない私を見て心の中で気にかけていたんじゃなかったんですか!?」
「いや全く。むしろ静かで良かったぞ。」
「普通こういう時って押してダメなら引いてみろ作戦に引っかかるものでしょうよ!意味が分かりませんっ!」
「俺も意味が分からない。ずっとしょぼくれてれば良かったのに。」
「それひどくないですか!?」
「…ああ、俺はひどい人間なんだ。だからお前ももっと他のいい男を見つけろ。」
「無理ですよー!身長的にもリヴァイ兵長しか居ないんですって!」
「知るか。それに生憎だが俺はこれから急激な成長期を迎える予定だ。諦めろ。」
「それは絶対ないですよ!!いくつですか兵長!!」
「とにかくお前とどうこうするつもりはない。」
「しましょうよ!!あれこれしましょうよ!!」
「まっぴらご免だ。」
「……兵長、ひどいですこんなにも愛を叫んでいるのに…」
「お前のそれは本当に愛なのか?」
「そんな人だとは思いませんでしたよ!」
「俺もお前がこんなにも面倒な奴だとは思ってなかった。」
「えっじゃあ巡り巡ってお似合いじゃないですか?私たち。」
「一体どんな巡り方だ、それは。」


ため息しか出ない。諦めたのだとばかり思っていたのに。


「……お前も、もっと普通に同期辺りと恋でもしたらどうだ。それに他にもたくさん男は居るだろう?お前黙ってたらわりとモテるんじゃねぇか?見た目だけは良いからな。」
「えっ……」


そう言うとナマエは小さく声を漏らし、頬を染めて俯いた。

何この反応。見たことない。


「……。」
「…そんな、ことない、です…。それに私はリヴァイ兵長がいいんです…他の人にモテても意味がありません……」


え、何その照れながらの上目遣い。


「私は…別に身長だけで兵長のことが好きなわけじゃないんですよ…?兵長の班に入れてもらって、私はずっと側で見てきました。兵長の戦いも、部下への思いやりも、覚悟も…ぜんぶぜんぶ、見てきたんです。それに兵長は覚えてないかもしれませんが…班に入りたての頃、私が身長の事で落ち込んでいた時に、そんなもん関係ねぇって、言ってくれました。兵長に言われるとめちゃくちゃ説得力があったし、とても勇気付けられました。それから私は、リヴァイ兵長のことが好きになったんですよ」
「………。」


……だから、何だ?この、唐突に訪れた真剣な雰囲気は…。しかも至極真っ当な気持ちで俺のこと好いてくれてるじゃねぇか。だったら最初からそう言えば良かったんじゃ?今までの暴走ぶりは何だったんだ?

そして俺の胸はなぜ少しトキメいてんだ?


「……だから私は兵長と付き合いたい!兵長も私を好きになるべき!」


真っ直ぐな目で、俺を見てくる。

そうか。こいつの言っている事はめちゃくちゃなところも大分あるが、いやめちゃくちゃでしかないが、それでもわりと普通に俺に恋しているのか。


「身長もぴったりなんですから!見上げるのはそろそろ疲れたでしょう?私だったらいくらでも見下せますよ?」
「……お前の気持ちは分かった。」
「え?!じゃあ…!」
「ただ今の俺はまだお前をクソチビで耳障りな部下としか思ってねぇ。」
「えぇ……」
「だが、許可してやる。」
「へ……何をですか?」
「お前が俺を振り向かす為に努力することをだ。」
「……ん?」
「良かったな、頑張れ。」
「え?……えっと…それはつまり……あれですか?出来るものならこの俺様を骨抜きにしてみやがれこのチビ野郎、っていう事ですか?」
「誰だよそれ。…でもまぁそういう事だ。ただ、必ずナマエを好きになるとは限らねぇがな。」
「………」


少しだけ興味が出た。だから諦めの悪い部下に、これからも付き纏うことを許可してやる。

するとナマエは嬉しそうに笑い、目を輝かせた。


「っ分かりました!じゃあこれからも毎日こうやって愛を届けにきますね!」
「毎日はやめろ。…あと俺の身長のことを言うのもやめろ。」


なんだかんだで兵士としてはこいつを信頼している。壁外でも冷静な判断が出来るし切り替えも早い。やれと言う事もちゃんとこなす。仕事中はしっかりしているという事はただの頭の悪い部下ってだけなわけじゃないはず。
今まではナマエのことだけが理解不能だったが、こんな事を思っている自分も十分理解不能だ。

そしてそれから俺はナマエの愛の告白を受けながらたまに許可した事を後悔したり、たまに可愛い事を言うナマエにトキメいたりして、過ごしていくのだった。


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