「随分と愛されているようだな、リヴァイ。」
「……は?」


エレン達を先に古城に戻らせ本部に残っていた俺もそろそろ戻ろうかと思っている時に、エルヴィンがいきなり兵団とは何の関係もない話をふってきやがった。


「ナマエが言っていたよ。」
「……何をだ」
「リヴァイが好きだと、ハッキリとな。」
「……、」


ナマエが、こいつに?
思わず眉根が寄る。ナマエはエルヴィンとは自分から好んで話したりはしないはずだが。しかもそんな内容なら尚更。


「真っ直ぐな目をしていた」
「…お前にそんな事を言うなんてアイツらしくねぇな。大体なぜそんな話になる?」
「この前少し飲んだ時にな。」
「、は……」


この前飲んだ時に、だと?何でナマエがこいつとそんな事になるんだ。そんなの聞いた事がない。


「いや…飲んだというか俺の酒をナマエに飲まれたと言った方が正しいかもしれないが」
「……いつの間に仲良くなったんだ、お前らは。」
「仲良くはない。相変わらずさ、ナマエは。」
「……。」


別にナマエが誰と仲良くしようがそれはアイツの勝手だが、今まで素っ気なくしていた相手とそんなふうになるのは嫌ではないが気になりはする。
無駄口を叩くエルヴィンに別れを告げさっさと部屋を出て、ナマエの部屋に足を向かわせた。
そして部屋に着きドアを開けるとそこにアイツの姿はなく、しかし窓が開いている事に気がついた。


「……(上か)。」


そこから顔を出し、上を見る。ここから屋根に上れる事を確認してそのまま上ってみると案の定そこにナマエは居た。


「っうわ、ビックリした……何してんの…」


少し上がると一人星空を見上げるナマエがそこには居た。こいつはこうやって星空を見るのが好きだ。
それに近づき、隣に腰を下ろす。


「お前こそ何してんだ」
「…星を見てますが。」


言われ、見上げると雲ひとつない星空。


「……綺麗だな」
「うん」


チラリとナマエを見ると目が合う。


「ていうか、まだこっち居たんだ。」
「ああ。もう戻るが」
「…そっか。」


そんな事を話しながらも頭の中ではエルヴィンが言っていた言葉が浮かぶ。そして口を開いた。


「……エルヴィンと飲んだらしいな。」
「…え、聞いたの?」
「ああ…」
「……何でアイツわざわざリヴァイに…。」
「別にいいんだが……らしくないな。」
「………」


そう言うと、膝を抱え込んだ。


「…別に…飲んだっていうか…そんなんじゃないけど…報告書を渡しに行ったらアイツが一人で酒飲んでたから、貰っただけなんだけど。」
「……そうか」


何か心境の変化でもあったのか、それともエルヴィンと酒を飲むくらいに寂しかったのか。何なのか分からねぇが。


「何かあったら、ちゃんと言えよ。」
「…え?」
「何でもいい。寂しいとか、会いたいとか、全て叶えてやれるわけじゃねぇが出来る限りはお前のしたいようにする事は出来る。」
「……」
「…お前は見かけによらず寂しがりだからな。」
「な…何、それ。」
「…エルヴィンのとこに行くくらいなら、俺のところに来い。」
「な…それは……違うって。別に寂しかったからアイツのとこに行ったわけじゃ……いや確かにあの日はリヴァイに会いたくて寂しいと思ってはいたけど…でも違う。ただ気分転換の為に部屋を出たってだけだから。」
「…本当か」
「うん。そしたらアイツが一人寂しく酒飲んでたから……可哀想に思って。ちょっと付き合ってあげたっていうか…。じゃなきゃエルヴィンと飲むわけないでしょ?わざわざアイツと…」
「…そう、か。」
「うん。……でも、ありがと。ちゃんと言うよ、寂しい時は……いやそんな事言ったらわりといつでも会いたいんだけどね。」
「お前は本当に俺が好きだな」
「今だってこうして話せて嬉しいし。」
「…それは俺も同じだが」
「ふ…リヴァイは本当に私が好きだね。」


こいつとずっと一緒に居られるもんならそれは俺も幸せだろう。だがお互いやる事があるし一日を終える場所も今は違う。どうしても、昔ずっと側で過ごしていた時期があったから、こうして少しでも離れていると距離を感じてしまうんだろう。


「でもさ…私も、リヴァイが本当に好きだから……それがリヴァイの重荷になってしまいそうで…少し、怖いよ。」


夜風に当たりながら、静かにそう言うナマエ。


「私はいつでもリヴァイに会いたい。リヴァイと居たい。…でも、それを無理やりリヴァイに押し付けて…負担にはしたくない。」
「…負担とか、そんな余計な事は考えるな。」
「…余計じゃないし……」
「俺は、お前の想いならそれがどんなに重くても受け止める。負担とも思わない。だから気にするな。」
「……。」
「お前は考えすぎなんだよ。俺もお前が好きだと言っているだろうが。むしろ想われている方が嬉しい。負担になるわけねぇだろ」
「そりゃ…そうかもしれないけど…。でも」
「会いたくなるのなら会いに来い。というかもっと来い。何で古城に来ない?夜ならいつでも会えるだろうが。」
「…だって、夜でもリヴァイ仕事してるじゃん。」
「そんなもん関係あるか。」
「いやあるでしょ」
「そんなに構ってはやれないが側に居るだけでも違うだろう。」
「……」


今まで溜め込んでいた分、少しも我慢してほしくないというのが俺の本心だ。出来る限りナマエの思うようにしてやりたい。それに俺の方こそ少しでも側に居たいっていうのもある。


「…なぁ、ナマエ」


それでも今はずっと一緒に過ごす事は無理だが、でも、いつか。


「…ん、」


いつか、また昔のように居られたら。同じ家に帰れるようになれたら。

それは何よりも、幸せだろう。




「結婚するか。」




そんな未来を想像しながら星空を見上げたままそう言う。
その言葉に何も言わないナマエを見ると、突然の事に目を丸くしながら固まっていた。しかも少し待っても黙ったままで、どうやら返事をするのも忘れているようだからもう一度口を開いた。


「結婚、するか。」


今度は目を真っ直ぐ見て言ってやる。するとハッとしたように空気を吸い込んだ。


「っリヴァイ……、なに、言って……」
「今すぐってわけじゃねぇが、このクソみてぇな世界が平和になったら結婚でもするか。」
「…な…え、」
「そうだな…ガキでも作って、この世界には巨人が居たという話をしてやろう。ガキは二人くらいか…いや、何人居てもいいが…俺とお前の子となると性格が心配ではあるが多い方が賑やかでそれもいいだろう。」
「ちょ…待って…リヴァイ、何、を…」
「だから、結婚って言ってんだろうが。何回言わせるんだよ。」
「ケ……ッコン、て……は…?」
「…責任をとれと言ったのはお前だぞ?それとも嫌なのか?まぁお前に拒否権はないがな。」


こいつが寂しくならないようにするには、どうすればいいのか。その結論がこれだ。今までに比べたら今のこの状況でも十分幸せだが結婚でもすればこいつも少しは安心するんじゃないか。
俺にとっては少し前から考えていた事だが、ナマエからすればいきなりの事に、かなり混乱しているみたいで全く俺の言葉を受け入れられていない。


「え、わたし…今、もしかして…プロポーズ、されてる、の?」
「……そういう事になるな。」
「え……まじで?」
「マジだ。」
「………ナンデ?」
「何でって何だよ。」
「だって……こんな、いきなり……そんな、」
「混乱しているのは分かったが、一応返事がほしいんだが。」
「は………返事?」


このままだと屋根から転がり落ちてもおかしくないくらいに戸惑っている。


「俺と結婚、してぇだろ?」
「…………っしたい!!」


もう一度だけ聞くと、少しの間をおいてそう叫んだナマエは前のめりになりながら激しく頷いた。


「いい返事だな。」


そしてナマエの頬を撫で、立ち上がる。


「じゃあ、俺は古城に戻る。」
「…はっ!?え、このタイミングで?!」
「…別に今すぐするってわけでもねぇんだからいいだろ。」
「いやいやいや!おかしいでしょ!何でそんないつも通りな感じで…!」
「はっ…、いつも通りなわけあるか。」


普段よりも速く脈打つ心臓。これがいつも通りなわけがない。これでも少しは緊張している。
らしくなくなかなか心臓が落ち着かねぇから、早々と屋根から下りナマエの部屋に戻る。するとナマエもすぐ追いかけてきた。


「ちょっ、ちょっと 待って…!」
「……何だよ。」
「っ、」


振り返るとナマエが思い切り抱きついてきて、後ろに少しよろけたがそれを受け止める。


「っリヴァイ、ありがとう、昔から、いつもっ本当に、好き、だよ 」
「……ああ。俺も、同じだ。」
「うわ、なにこれ、どうしよう、わたし、本当、今死んでもいいってくらい、幸せ、かもっ…、」
「死ぬなバカ。幸せを持続させろよ。終わらすな」
「…うん、そうだね、死ねないね。生きなきゃ。二人の分も、生きなきゃ。…幸せに、なっても…いい、のかなぁ 」
「……いいんじゃないか。アイツらも…お前が幸せになっている方が喜ぶと思うぞ。」
「そう、かな 」
「まぁ…俺が言えた事じゃねぇが…」
「……ううん。きっとリヴァイも、そうだよ。いっしょに、幸せになろう」


きつく抱きついてくるナマエを俺も抱き締める。


「ふ……リヴァイ、心臓がドキドキいってるよ」
「……うるせぇ。」


そしてこのまま離したくなくなり、そのままベッドに倒れ込んで古城に戻る前にナマエとこの幸せを噛み締めた。


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