私は昨日久しぶりの休日を実家で過ごし久しぶりに家族といろいろ話した。そして母親にまだ彼氏はできないのかと聞かれ、できたよと返せばとても驚かれた。そりゃそうだ。私は昔からそういう話があまりなかった。疎いというか。でもそんな私にもようやく恋人というものが出来た。まだ一年も経っていないが多分これからもずっと付き合っていけると思う。


「という事で楽しく家族で過ごした。」
「そりゃ良かったな」
「お相手の人の顔が見てみたいわーとか言ってたよ。」
「そうか。そのうちな。」
「でもこの仏頂面を見たらどんな反応するんだろう…」


もしかしたらリヴァイのこと聞いた事くらいはあるかもしれない。“人類最強の兵士”と呼ばれるくらいの人だし。


「え、ていうかリヴァイうちの親と会ってもいいの?」
「別に構わんが。」
「いいんだ……」
「それまでお前が生きていたらな。」
「ちょっ、変な事言わないでもらえる?……って、なにこれ?」
「……」


冗談にならない、と思っていると不意にソファに転がっているプレゼントのような箱が目に入ってきた。


「貰ったの?何個もあるけど」
「…ああ。」
「え、なんで?」
「何でもいいだろう。」
「……誰から?」
「お前には関係ない。」


聞くと、ピシャリと言い放たれる。それが気に障り眉根が寄る。


「関係ないって何よ。」
「言葉の通りだが。」
「随分と可愛らしい包装だけど」
「だったら何だ」
「何だじゃないでしょ。」


何だこの反抗的な態度は。こんなの男から貰うわけないし、誕生日でもないのにいくつも貰う事ってあるのか?しかもこんな大胆に置いているわりに教えてくれないって何よ。喧嘩売ってるのかな?


「これ女から貰ったんでしょ?何で?」
「だから、お前には関係ない。」
「関係ないって事ないでしょ!それとも言えないような事なの?」
「……。」
「……な、何よ」


リヴァイは気に食わない視線で私を見たあとにため息を吐き、「そんなに気になるなら自分で考えろ」と言ってそれ以上は何を言っても聞いてくれなかった。無視だった。さすがにムカついて「もういいよこのアンポンタン!」と言って部屋を飛び出した。
一体何だっていうんだ。昨日私が居ない間に何をしたんだよあの男は。
ムカムカしながら廊下を歩いていると、ふいに女の子たちの話し声が聞こえてきた。そして何気なく耳に入ってきたその内容に私は驚愕するのだった。





「私は最低の女です……」
「…どうしたの」


食堂でおでこをテーブルに押し付けうな垂れる私。その向かいには今さっき引っ捕まえたナナバの姿。


「最低なんです………」
「何だっていうのさ」
「……ナナバ、昨日が何の日だったか知ってる?」
「え?……あぁ、もしかしてバレンタインのこと?」
「知ってたんなら何で教えてくれなかったの!??」
「は?」
「ちゃんと教えてよ!!」
「…いや知らないよ」


ガバッと顔を上げ思わずナナバに八つ当たり。
そう、昨日はただの私の休暇ではなく世間的にはバレンタインデーだったらしいのだ。好きな人にチョコを渡すとかいうイベントだ。さっき廊下で女の子たちは「兵長、バレンタインのチョコ貰ってくれたけどお返しとかってくれるのかなぁ〜?」とか言って楽しそうにキャッキャしていた。その話に出てくる“兵長”というのはリヴァイの事で。そのリヴァイは私の恋人なはずで。なのに、それなのに私は。


「どうせ私は久しぶりの休暇に浮かれてそんな事はすっかり忘れていたよ!リヴァイという男が居ながらも全く覚えていなかったよ!そうさ、私はひどい女なのさ!」
「…そういうの気にしなさそうだけどね。リヴァイも。」
「違うそうじゃないんだよナナバ!確かにリヴァイは気にしてなさそうだけれども、だからって完全に忘れている女もどうかと思う!しかも他の子から貰ったチョコを見たのにも関わらずちっとも思い出さずに、なにこれ?とか言ってちょっとウザイ女になってしまった事が最低なんだよ!!分かる!?」
「あぁ…そう…」
「うわあああ最低だよ私ぃいいいい」
「まぁ落ち着きなって」
「しかもけっこうな数貰ってたのがまたムカつくううううう」
「…リヴァイ何気に女子から人気あるからね。しかもナマエと付き合ってること大っぴらにしてないし。そりゃあ貰うだろうさ。」
「ていうか私から以外のチョコなんか受け取るなよおおおおお」
「まぁどっちにしろ本命のナマエからは貰えないんだけどね。」
「……。ねぇナナバ、ちょっとは慰めてくれていいんだよ?」
「なぜ?」


いや確かに忘れてた私が悪いんだけども。でも少しくらい慰めてくれてもいいじゃない…。
またテーブルに突っ伏し、自己嫌悪に陥る。


「どうしようリヴァイ怒ったかな……」
「さぁ…」
「これで愛想尽かされたらどうする?!」
「そこまでの話?」
「ヤバイよどうしよう!」
「そんなに気になるなら普通に謝ればいいんじゃないかな」
「それで許してくれなかったら?!」
「いや許すと思うけど…」
「分からないじゃない!!お前には関係ないとか言われたしー!うわあああ」
「(めんどくさいなぁ…)」


きっと怒ってる。絶対怒ってる。そんな感じだったし。どうしたらいいんだ。


「きっと他の子から貰ったチョコを頬張りながら、お前は俺の女を語る資格はない。とか言われるんだよー!」
「何それ嫌だな…」
「と、とにかく、今日仕事が終わったらチョコを買いに行く。そして土下座!」
「いや自分の女の土下座姿なんて見たくないと思う。」
「今日ならまだ売れ残ったチョコが置いてあるはず!」
「しかも売れ残りをあげるんだ」
「し、仕方ないじゃん…!」


背に腹は変えられない。それしかない。めっちゃ気まずいけどそれしかない。とりあえず今日はどうにか早めに仕事を終わらせよう。それしかない!


「とりあえずそれまではリヴァイに会わないよう最善の注意を払って……」
「いや何で?さっさと謝ればいいんじゃない?」
「むりむり!!気まずいもん!!手ぶらで謝るなんて!!」
「……気にしすぎだと思うけどなぁ私は」
「だってリヴァイだよ?!めちゃめちゃ嫌味とか言われたらどうするの?!」
「いやいや……って、ナマエ」
「え?なに?」
「噂をすれば、ってやつだね。」
「…ん?」


そう言ってナナバは私の後ろの方を指差す。振り返ると少し離れたところにリヴァイの姿。


「(キャーーーー!!?)」


思わず頭を抱えしゃがみ込み、気づかれないように息を潜める。しかし考えている暇はない。こうなったらもう走って逃げるしかない!そう判断し私は呆れ顔のナナバに別れを告げ走り出した。

それからというもの、なぜかこういう時に限ってリヴァイとすれ違いそうになる事が多く私は一日中逃げてばかりだった。そりゃあもう逃げた。しかしそんな中でも仕事をいつもより早く切り上げ、それからチョコを買いに街へ走った。そして何とか半額になっているバレンタイン用(お酒入り)のチョコを買う事が出来た。しかし良かったけど半額って。値下げされてるチョコって。売れ残りだからって半額にしないでほしい。なんだか愛も半分みたいじゃん。

そ、そんなわけないけどね!リヴァイへの愛は無限大だよ!たとえ半額でも愛はかなり込められてるから!いや本当に……


そんな言い訳みたいな事を思いながら私はリヴァイの部屋の前に立つのだった。


「……さて。」


仕事と逃げるのに必死でどんなふうに渡そうか考えてなかった。ここはやはり土下座しながら渡すべきだろうか…それとも軽めにゴメンね☆と謝った方が向こうも、次からは気をつけるんだゾ☆みたいな感じになるんだろうか。

うん。それはないな。落ち着け私。冷静になれ。こういうのは真摯に向き合えばきっと大丈夫なはずだ。そう、ちゃんと謝ればいいんだよ。時間だってそれなりに経ってるんだしリヴァイももうそこまでは怒ってないだろうし。
よしよし。とりあえず入ろう。入ってそれから相手の様子を窺いつつ実行に移せばいい。


「(よし。任務を開始する。)」


ドアを軽くノックをし、返事が聞こえ静かにドアノブを握る。


「し、失礼しまぁ〜す……」


恐る恐るドアを開け顔を覗かせると、リヴァイは私を見た瞬間に眉間にシワを寄せた。


「…あ?」


そしてドアを閉めようかと思うくらいの威圧感が私を貫き思わず体に力が入る。彼は誰がどう見ても、どの角度から見ても分かるくらい、かなり怒ってらっしゃる。


「あ、あの……(やべぇこれクッソ怒ってんじゃん!)」
「…入るなら入れ。ドアを閉めろ。このグズが」
「は、はい。すみません。申し訳ありません。」


謝りながらすぐさま中に入り直ちにドアを閉める。違う、こんな事で謝りにきたんじゃない。ていうかリヴァイさん、何で朝よりもご機嫌ナナメなんでしょうか。身に纏ってらっしゃる空気がとてつもなく重いです。ぴりぴりしてる。怖い。少しでも何か間違えれば蹴りが飛んできそうだ。

怖くてドアを閉めたまま振り向けずにいると、低い声が聞こえてくる。


「何してんだよ。」
「はい、すみません」
「何しに来たんだ?邪魔なんだが。」
「ごめんなさいすみません」
「…用があるならとっとと言え。そして消えろ。」


ちょっと待って何この人なんかマジで切れてない?言葉がキツイよ。キツすぎるよ。リヴァイにこんなふうに言われるの初めてな私は今にも泣き出しそうだよ。

だけどここで逃げたら多分きっかけをなくしてしまう。気づいたのならせめて今日渡さなければ。


「あの…えっと、チョコを…チョコをごめんなさい。昨日のアレで、遅れたんですけど申し訳ないです渡しに来ました。どうか受け取ってすみません下さい。」
「…あ?」


片言の言語でおずおずとチョコの入った箱を差し出す。といってもドアの前に居る私と机で仕事をしているリヴァイの距離は離れているのだが。もの凄い形相の彼にこれ以上近づく勇気が私にはない。


「……いらねぇ。」


いっその事このままぶん投げて逃げてしまいたい、と思っていると聞こえてきた言葉に思わず素に戻った。


「え?」
「いらないと言っている。」


リヴァイは視線を下に落とし私からの半額のチョコをいらないと言った。そして沈黙。私は状況を理解するのに少し時間がかかった。
彼は受け取ってくれないと言ったのだ。それがけっこうショックで、体の力が抜けていく。


「な、なん、で」
「…そんなもん自分で考えろ。」
「………忘れてた、から…?」


いろいろと想像はしていたけどまさか本当にいらないと言われるなんて。何で?半額だから?今更もう遅いの?貰ってもくれないの?
リヴァイは黙ってしまう。静か過ぎる部屋に私の気持ちもどんどん重くなっていく。


「た…確かに、遅れたけど…せっかく、買ってきたのに…」


他の子のチョコは貰ってるのに私のは貰ってくれないんだ。忘れてたから。一日遅れたから。売れ残りのチョコだから。

地面に埋まりそうなくらいに気持ちが沈んで、手に力が入らずチョコを落としてしまった。


「……、」


それを視界の隅に置いたまま俯いていると、泣きたくなってくる。すると少ししてからリヴァイがそれを拾ったのが見えた。


「こんなもんどうでもいい。」


顔を上げリヴァイを見れば止めを刺される。


「ど、どうでもいいって…」
「俺が気に食わないのは、お前が一日中俺から逃げていた事だ。」
「……へ…?」


逃げてた?


「いちいちいちいち逃げやがって…何のつもりだ?」
「え?…まさか、バレてた?」
「当たり前だろうが。気づかない方がおかしい。」
「ま…まじか…」


どうやら逃げていたのがバレていたらしい。それは余計に気まずい。
居た堪れなくなっていると私の半額チョコで頭を軽く叩かれた。


「俺だって昨日部下から貰うまでこんなもん忘れていた。お前から貰えなくても別に気にもしていなかった。…だが、今日あれを見ても全く思い出さないお前を見ていると、なぜか腹が立った。」
「……」
「だけどな、それ以上に俺を見た瞬間に逃げまくるてめぇは死ぬほどムカついた。」
「し、死ぬほど…」
「なのに今こうして平然と俺の前に立ちやがって。」


いや全く平然ではないんですけど。そう思いながらも申し訳ない気持ちがまた出てきた。


「ご、ごめん」
「何で逃げてたんだよ。朝の事でか?」
「え……いや、単純に気まずくて…チョコ買うまでそっとしておこうかと…」
「…は?それだけか?」
「う、うん。別に深い理由はないけど…」
「……それだけの理由でお前は今日一日俺の機嫌を損なっていたのか?」
「…だって…だって、気まずかったんですもの!仕方ないじゃない!」
「仕方なくねぇよ。避けられる俺の気持ちを少しでも考えたのか、てめぇは」
「……私的には気づかれていないものだと…。」
「んなわけねぇだろうが。」
「……ごめんなさい。」


謝り、ここでリヴァイの立場になって少し考えてみる。
バレンタインのチョコは貰えず、他の人からのチョコを見ても全く気づかず、責められ、挙句の果てに一日中避けるような態度。

うん。こりゃへこむわ。


「いやマジ申し訳ない…」
「…チッ」


舌打ちをし、だけど目の前で私のチョコを開封し始めるリヴァイ。そしてそれを一粒口に放り込んだ。


「た、食べてくれるんだ……」
「…その為に渡しにきたんじゃねぇのか」
「そうだけど…」
「そもそも俺はお前から以外のものはいらない。」
「え…だって、貰ってたじゃん…。」
「あれは渡されたから受け取ったまでだ。部下からのものを無下には出来ないだろう」


自分の部下が自分の為に気持ちを込めて渡してきたものを拒否するほど冷たい人間ではない。分かってる。リヴァイはそういう人だ。ちゃんと分かってる。


「まぁ…今考えてみればお前への当てつけもあったかもしれんが。」
「ちょ」


リヴァイはそういう人でもあった。それも分かってた。


「それより…これのお返しは今夜でいいか?」
「はい?」


私のチョコをもうひとつ投げ込みそう言うリヴァイ。意味が分からず聞き返すと微かに甘い香りを纏いながら耳元に近づいてきた。


「立ち上がれないほど甘ったるい夜にしてやる。」
「……!」


そしてそう囁いた。
こんな事を(恐らく)ドヤ顔で言ってくる彼に、いろいろと思う事はあったが胸は正直に高鳴った。


「……っお、お返しはホワイトデーって決まってるでしょ…っ」
「バカ言え。それまで生きてるか分かんねぇだろう」
「だから冗談にならないってそれ!!」


そして私はチョコの次においしく食べられるのだった。


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