「ハンジ」
「…あ、リヴァイ。」


ナマエが倒れた昨日、古城に戻る前に様子を見に行ったが静かに眠っているナマエの姿を見て声をかける事もせずそのまま戻った。そして次の日の朝、本部に来てハンジを見つけ声をかけた。ナマエの様子を聞こうと思えば、ちょっと…と真面目な顔で俺を壁際まで手招く。


「…何だ。何かあったのか?」
「いや…なんというか…、ナマエ…がさ。」


ナマエの事で何か言いにくそうにしているハンジに眉根を寄せる。何だってんだ。


「あの子、マジでリヴァイが好きっぽい。」
「……。」


内緒話でもしているかのように口元に手を添えて真面目な顔でそう言うメガネに、とりあえず蹴りをいれておく。不安にさせるんじゃねぇよ。


「ふざけんな。」
「いやそうじゃなくて…ナマエの様子が少しおかしかったんだ。好きすぎて不安になる事ってあるだろう?多分そんな感じ。」
「あ?」
「だから、ナマエはリヴァイの事が好きすぎて不安になったっぽい。」
「…何か言ってたのか」
「うん。リヴァイを失うのが怖いんだよ。ナマエは。」
「……」


アイツはイザベルとファーランの事がトラウマになっている。俺がもし居なくなればナマエはその時どうなるんだろうか。

…いや、それを言うならむしろ俺よりも、ナマエの方こそ。


「…ハンジ」
「ん?」
「お前は…知っているんだろ」
「…何を?」
「アイツが…ナマエが、ファーランやイザベルの事を引きずっている事をだ。」
「……うん。知ってるよ。」
「壁外に出た時…巨人と戦う時、アイツはどうなんだ」


俺は知らない。ナマエが壁外で何を感じ何を思っているのか。しかし壁の外に出れば余計に思い出してしまう事もあるだろう。


「そうだね…。毎回、ってわけじゃないんだ。ただ雨が降ったりすると…ひどいかな。巨人と戦う時は普通、だよ。わりと冷静。まぁ私もずっとナマエを見ていられるわけじゃないけど…」
「…ひどい、っていうのは」
「うーん…なんていうか…顔色が悪くて息が上がったりとか…ひどい時は吐き気がすることもたまにあるみたいで。フラッシュバックしちゃうらしい。」
「オイ、そんな時に巨人と出くわしたらどうなるんだよ。」
「その時はちゃんと戦ってるよ。私も見ていて落ち着かないし心配しているんだけど、こればっかりはどうにも…それでも調査兵をしているのはナマエの意思だし。」
「……それにしても危険だろ。そんな状態で、」
「でも、そんな状態でもナマエはこうして調査兵団に居る。リヴァイの側に居る。それがナマエにとっての幸せなんだよ。だから、それは否定しないでやってほしい。」
「……」
「確かに危なっかしいよ…見ていられない時もある…でも、ナマエはそれ以上にリヴァイと居たいんだよ。分かるだろ?」


俺がナマエを大事に想っているように、好きなように、同じくらいアイツも俺を想っている。それは分かる。側に居たい気持ちも同じだ。だからナマエが調査兵を続けている理由も分かった。受け入れた。
だが、そんな不安定な状態で壁外に出ているなんて、危険すぎる。正直もう行ってほしくないとまで思う。俺よりもアイツの方が危ねぇじゃねぇか。こっちだってナマエを失ったらどうなるか分からない。


「……」


だが、ハンジの言う通りそれでもここに居る事を選んだのはナマエだ。それに俺が口を出すのは、違う。ナマエが俺の側に居たいという理由で選んだ道を、俺が否定するのは。


「…ナマエは、…アイツは、器用じゃない。」


ナマエはそんなことを望んでいない。
分かってはいるが、それで心配な気持ちが全てなくなるという事はありえない。


「俺らが地下で立体機動装置を手に入れた時も、アイツはなかなか上達しなかった。」
「そうなの?」
「ファーランがずっとついて練習してたが…自分のものにするまでかなり時間がかかった。コツを掴んでからは早いんだがそれまでが長い。不器用で、何でもそつなくこなせるタイプじゃない。」
「…うん」
「今までは考えないようにしてたがアイツはそこまで強くねぇ。巨人相手にどこまでやれてるのか俺には分からないが、やはり不安は残る。」
「…そうだね。ナマエは確かにそこまで強いわけじゃないけど、でも、リヴァイに対する想いはかなり強い。それで生きてこられたんじゃないかな?帰りたい場所があるっていうのは心強いものだよ。」
「…かもな。」
「リヴァイが誰よりも気にかけるのは分かるし私も心配だけど、大丈夫だと思う。」
「そう、か」
「巨人と戦う力はちゃんと持ってる。ナマエは立派な兵士だ。」
「…ああ。」


ナマエがいくら俺を心配したって俺は調査兵団を辞めない。それと同じだ。俺がいくらナマエを心配してもアイツは俺の側から離れない。その気持ちは変わらない。
誰よりも側で、共に生きるという事に意味があるのだろう。


「…忙しいのは分かるけど、一度顔を出しに行ってもらえないかな。リヴァイの顔を見るだけで安心するかもしれないし。」
「…ああ、分かった。」
「うん。じゃあ、そういう事で。よろしくね。」


ハンジは俺の肩を軽く叩き、片手を上げ背中を向けた。


「……ハンジ、」
「…ん?」


それを呼び止め、振り向いた瞳と目を合わせる。
話を聞いて思った事がある。それを今伝えておこう。


「…礼を言う。今までアイツの事を支えてもらって、感謝している。」


話を聞く限りナマエはハンジにかなり世話になっているはずだ。いろいろと面倒を見てくれているんだろう。壁外でも、壁内でも。


「……、リヴァイまでそんなこと言うんだね」
「…何がだ。」
「いや…。別に私は、ナマエの仲間として普通に接しているだけだよ?それにその言い方だとこれからはもう用無しみたいじゃないか。」
「ああ。これからは俺がナマエを支える。もうお前は踏み込んでこなくていい。」
「ちょ、ひどいな…。言っておくけど、私はリヴァイよりもナマエの事を知っているんだからね?そこんとこ分かってる?」
「あぁ?何だと?」
「だってそうじゃないか。私はリヴァイがいろいろと知る前から話を聞いていたし。側に居たし。弱いところだって私には見せていたし。何より私の班を選んだのはナマエだし。」
「……黙れ、削ぐぞ。」
「ふは、図星だね、リヴァイ。」
「うるせぇ。それとこれとは別だろうが。ナマエはお前の事をメガネの人くらいにしか思ってないはずだ。」
「認識うすっ!」


対抗していろいろ言ってくるメガネを無視し、歩き出す。とりあえず昼過ぎくらいにナマエの様子を見に行ってみるか。





「マジであれから一回も来てくれなかったね、この薄情者が。」
「…だから言っただろうが。」


今度こそずっと安静に過ごしすっかり体調は良くなった。もう倒れる事もないだろう。昨日から仕事にも戻り、今日はエレンとの実験をする事になってリヴァイとも数日ぶりに顔を合わせた。


「忙しいとか言ってもちょっとくらいは来てくれると思ってたのに。」
「お前にばかり構ってられねぇんだよ。」
「新兵とか、モブリットとか、班員とか、来てくれたよ。」
「新兵と俺の忙しさを比べるな。それに俺だって気にしていたに決まってんだろうが。」
「大体リヴァイが古城でちゃんと看病してくれなかったから…」
「俺のせいにするんじゃねぇよ。お前が勝手に叫び散らしてたからだろ。」
「それはリヴァイが変な事したからでしょうが。」
「してねぇよ。着替えさせたりしただけだ。大体お前が勝手に俺の部屋に来て勝手に自分に熱を移したんだろうが。」
「私は心配して古城まで行ったってのに、リヴァイは本部に来ているにも関わらず顔を出さないなんて薄情だよ。」

「………。」
「あの、お二人さん?いちゃつくのは良いけどエレンが困っているからそこらへんでやめてもらえるかな?」
「「いちゃついてねーよ。」」
「………。」


ハンジに止められ、後ろを見ると何とも言えない顔をしたエレンがそこに居た。全く気にしていなかった。


「まったくもう。上司の聞きたくもない話を聞かされて嫌だねぇ、エレン?」
「えっあっ、い、いえ!お二人はそういう関係だったんですね!理解しました!」
「何を理解したんだお前は。いや…だが確かにこんな事を話している場合じゃねぇ。久しぶりにナマエの顔が見れた事の喜びはあとにしてエレン、早く巨人になれ。」
「うん、そうだね。エレン、よろしく。」
「は、はぁ…」
「こんな気持ちのまま巨人化させられるエレンの気持ちを君達はもう少し考えてあげて」


それからは気持ちを切り替えて実験を始める事にした。リヴァイにまたヘマするんじゃねぇぞと言われたが、次は危なくなったらエレンを削ぐと返しまたエレンは苦笑いをしていた。

リヴァイと言い合うのは何だかんだで楽しくて、これからもこんな感じが続けばいいなと思った。そう願った。


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