「リヴァイ兵長おはようございます!好きです!」
「ああ。」


今日は朝からリヴァイ兵長に想いを伝えられた。幸せだ。兵長は私をチラリとも見ずに返事だけしてそのまま歩いて行く。私はその後姿に小さく手を振りながら幸せを噛みしめる。


「おっ前…またやってんのかよ…ナマエ」
「あ、ジャン!聞いてー今ね、兵長に…」
「見てたよ。つーかあんだけ大声出してたら嫌でも聞こえるっつーの。」
「本当?えへへ恥ずかしいなあ」
「嘘つけ。」


後ろからジャンに話しかけられ、振り向くと呆れ顔が見えた。


「よくめげずに言い続けられるな。しかもあんな反応なのによ。」
「最初は睨まれたりしてたんだよ?なのに今はあの対応。燃えるね!」
「意味が分からねぇ。お前頭大丈夫か?」
「兵長も私を受け入れ始めたって事だと思うんだよね」
「お前に対するスルースキルを身に付けたって感じだけどな」


私はリヴァイ兵長が好きで、いつも見かける度にその想いを伝えている。最初は兵長も舌打ちをしたり睨んできたりしていたのだが、最近はそれすらもせずにただ私の言葉を受け入れてくれている。どんな反応でも兵長だったら何でもいい!


「怖いな。」
「怖くないよ!愛だよ!」
「こえぇよ。」
「じゃあジャンも考えてみてよ」
「何を」
「ミカサにあしらわれる感じを想像してみてよ!」
「………。」
「……ね?」
「…おぉ…確かに悪くないな…。」
「ほら!」
「ていうかジャンは実際にあしらわれてると思うぞ。というか視野にすら入ってない感じか。」
「あ、ライナー おはよう」
「あぁ、おはよう。」
「ライナーてめぇ!何言ってやがる!そんな事はないはずだ!」
「そうだね、視野には入ってるはずだよ!まぁ完全無視もそれはそれで燃えるけどね!」
「いや燃えるのか?」
「だってライナーも想像してみてよ。クリスタに無視されるってことだよ?」
「あぁ、それはそれで燃えるな。」
「ほらね!」
「即答かよ。」


ライナーまで話に参加してきて、そのまま食堂に行く事になった。三人で朝食をとりながら愛について語る。


「いや別に愛については語ってねぇけどな。」
「違うの?」
「とりあえずどうすれば振り向いてもらえるか、だな。物理的にも気持ち的にも。」
「私的には振り向いてもらえなくても、存在を否定されなかったらそれでいい」
「心広すぎだろ。」
「ナマエの場合あのリヴァイ兵長だからな。なかなか難しそうだ。」
「はっ、ライナー。自分は簡単だとでも?」
「そうは言ってないが同期の方が可能性は高いはずだ。そうだろ?そう思うだろ?」
「でも攻略が難しい方がやっぱ燃えるよね。」
「お前もうどんな状況でも良いんだろ。」
「うん!」
「いい笑顔だな…とにかく、面白そうだから協力するぞ、ナマエ。」
「えっ本当に?ライナー優しい!どこかのジャン・キルシュタインとは大違い!」
「どこかのってそれもう俺しか居ねぇじゃねぇか。もうちょっとぼかせ。」
「ナマエ的には兵長とどうなりたいんだ?」
「そうだね……私は、兵長と一緒に…」
「一緒に?」
「お茶を飲めるくらいに仲を深めたい。」
「目標低いな。」
「それでいいのか?つまり友達になりたいって事か?」
「と、友達だなんてそんなおこがましいよ…」
「…まぁ相手は兵士長だからな」
「でも最終的に恋人になりたい。」
「マジでこいつおこがましいな。関係一気に深めんなよ。」
「なるほど、とりあえずお茶を飲めるくらいの仲になりそれから恋人になりたいという事か。」
「そうそう!そんな感じ!」
「理解がいいなライナー、お前…」


それから、そもそも相手にされてないのが問題という事でまず「リヴァイ兵長と仲良くなるにはどうすればいいか」という議題で盛り上がった。私は基本的に今のままでも十分幸せなのだが一緒にお茶を出来るくらいになれたらそれはそれで天にも昇る気分なので真剣に話し合った。
そしてその結果、とりあえずむやみに想いを伝えるのは禁止された。軽く思われてしまうからだとか。兵長に会ったら気持ちが抑えられない私としては難しい話だが、しかしそれを乗り越える事で兵長とお茶が出来るのであれば。

という事でさっそく実行する事に。


「あ、リヴァイ兵長!」


訓練後に愛しの兵長の姿を発見し、駆け寄る。相変わらず兵長は振り向かない。


「お疲れ様です!」
「ああ。」
「………(えっと…)」


いつもはここで好きですと言うのだが、それを言わないとなると何を言えば?言葉が何も出てこずそのまま兵長に歩調を合わせ歩く。すると兵長がチラリと私を見た。


「…何だ。」
「っえ、あ、えっと、今日はいい天気でしたね!」
「そうだな。」
「日向ぼっことかしたいですね!」
「そんな事をしている暇があったら体を動かせ。」
「分かりました日向ぼっこは一生しません!」
「…そこまでは言ってねぇだろ。」


最近は反応の薄さに興奮してそのまま背中を見送るだけだったがこうして話を振ると普通に答えてくれるのか。放置されるのもいいけどやっぱり会話が出来るのって嬉しい!


「えへへ!」
「…何ニヤついてんだ。気持ち悪ぃ」
「私、兵長とお話出来て嬉しいです!」
「……」


とても冷めた目で見られるが、それがたまらない。視界に入れてもらえるだけで幸せなのだ。しかしあまり話していてもお仕事の邪魔になってしまう。それはいけない。


「では兵長、さようなら!」
「……。」


ぺこりと頭を下げて兵長から離れ、会話出来た喜びからスキップで戻る私だった。





「そもそも、ナマエは何でリヴァイ兵長の事が好きなんだ?」
「え、何今更な事聞いてんのさ!」


ジャンはパンをかじりながら聞いてくる。最近ジャンとライナーの三人で食事をとる事が多い。もちろん兵長との事を話しながら。
あれからずっと告白は避けながらしかし兵長を見かければ必ず駆け寄っている。その度に兵長は私の相手をしてくれるようになった。


「そういえば俺も知らないな。」
「そうなの?」
「リヴァイ兵長ってなんとなく近寄りがたい雰囲気あるけどな。」
「そうかな?でも私一目惚れだよ?」
「え…そ、そうなのか?」
「マジかよ。」
「マジだよ!でもね、最初はそこまでじゃなかったの。うわーかっこいーって思って、遠くから見つめてるだけだった。でもそのうちそれだけじゃ満足出来なくなって話しかけたの。」
「お前恐ろしいな。兵士長だぞ相手は。」
「なんて言ったんだ?」


高鳴る胸を抑え私は兵長の前に立ち、声を掛けた。もちろん名前も、人類最強の兵士と言われている事も知ってた。というかそれくらいしか情報がなかった。一個旅団並みの戦力があるというリヴァイ兵長に、私は言った。


「“ものすごくタイプです!かっこいいですね!”って。」
「………」
「………」


すると兵長は眉間にシワを寄せてとても不機嫌そうに私を睨んだ。そして「何だ、てめぇは」と言ったのだ。


「その目を見た時に、あぁもうこの人しか居ないって…思ったの。」
「…強烈だな。」
「とりあえずナマエがマジで気持ち悪いって事だけは理解した。」
「それから自己紹介をして、私の気持ちを言い続けていたわけなのだけど。」
「リヴァイ兵長、気の毒だな。」
「でもまぁ、嫌がられてはいないんじゃないか?たぶん」
「私もそう思う!だって最近ちゃんと返事してくれるもん。」
「この変態を嫌がらない人類なんて存在するのか?」
「な、ジャンにそんなふうに言われたくない!」
「何でだよ。俺はお前と違ってまともだぞ。」
「ジャンなんてベッドの上で理想の女の子の絵とか描いて一人で興奮してるくせに。」
「!?お、お前、なぜそれを…っ!?」
「え、本当なのか?」
「うわ、適当に言ったんだけどマジなの?どん引きー」
「な、…っんなワケねぇだろ冗談だよ!!!」
「あやしー。きもちわるーい。」
「てめぇに言われたくねぇよこの変態!!」
「まぁジャンの趣味はともかく、最近は兵長に愛の告白をしてないわけだけど」
「聞けよ!!!冗談だからな!?」
「それで何か変わった事はあるか?」
「会話が出来るようになったくらいかな」
「無視か?オイてめぇら」
「ちょっとジャンうるさい。」
「そうだぞジャン。そんなに気にする事でもないだろ。」
「いや気にするだろ。」
「それより、そろそろ兵長をお茶に誘おうと思うのだけれど。」
「おぉ、いいんじゃないか?」
「いいのか?!早くないか?こういうのはもっとちゃんとした手順を踏んでだな…」
「手順なら踏んだよ!もう誘うしかない!」
「ああ。ナマエならいけるはずだ。頑張れ。」
「ライナーお前適当なこと言うなよ…いやでもまぁ…ナマエだし断られてもそれはそれで喜ぶのかもしれねぇな。」
「いや、それを断られたら私立ち直れない。」
「何でだよっ!?今までの情熱はどうした!?」
「だってお誘い断られるとかショックじゃん…」
「だったら今までの反応はどうしてショックじゃなかったんだよ?」
「よく分からんが頑張れ。」
「オイ適当に応援するんじゃねぇ!ナマエが立ち直れなくなったらどうすんだ!」
「…お前何気にちゃんと考えてるよな…ジャン。」
「断られたら私たぶん調査兵団辞める。」
「そこまでなのかよ!?しかも兵士としての志ねぇなお前!!」
「安心しろ、ナマエ。もし断られても俺達が全力で慰める。」
「本当?」
「ああ。」
「そんなんでいいのか?」
「ただ慰めるだけじゃない。全力で、だ。」
「ありがとう、心強いよ!じゃあ私ちょっと誘ってくる!!」
「えっ今から?!ちょ、マジで大丈夫か?!」
「大丈夫ーーー!もしダメだったら慰めてーーー!」


二人の後押しをもらい、兵長に向かって走り出す。
最近はちゃんと会話だって出来てたし嫌がるような顔もしてなかったし、こりゃあ絶対お茶してくれるはずだよ。お茶しながらアハハウフフって笑い合えるはずだよ。楽しみだなあ!

少しするとその姿を見つける事に成功し、名前を呼びながら駆け寄った。相変わらず足を止めたり私を見てくれたりという反応はないけれど聞こえてはいるはずだ。


「おはようございます!」
「ああ。」
「さっそくなんですけど兵長にお話があります!」
「…何だ。手短に話せ。」
「はい!一緒にお茶を飲みませんか?」
「は?」
「兵長とお茶がしたいんです!」
「……」
「どうでしょう?」
「………。」


歩調を緩めない兵長は私を一度見て、また目を逸らす。そして口を開いた。


「今俺は忙しい。そんな暇はない。」





「あ、帰ってきたぞ。」
「本当かっ?!様子は!」


兵長の言葉を受け、私は二人の元へ戻ってきた。


「ナマエ、どうだったんだ?」
「お前めちゃくちゃテンション低くねぇか?!ダメだったのか?!」
「………」


ライナーとジャンは心配そうに私に駆け寄る。


「兵長……忙しいからお茶してる暇ないって」


そう言うと二人の顔が曇る。


「そ、そうか…」
「マジか…」
「…うん。」
「えっと…で、でもほら。その…これからだろ?これからもっと関係を深めていけばいい話だ!」
「(ライナーの野郎、全然全力で慰められてねぇじゃねぇか!)」
「…うん、そうだよね!兵長だって忙しいんだから仕方ないよね!まぁ別に断られたわけじゃないしまた誘うよー!」
「そ、そうそう断られたわけじゃねぇんだから…って何だと?」
「え?だって単純に忙しくて時間がとれないって事でしょ?だったら時間が出来たらお茶してくれるって事じゃん?イコール断られたわけじゃないって事じゃん?先延ばしってだけでしょ?」
「……」
「……」


やっぱリヴァイ兵長くらいになるとなかなかそんな時間もとれないんだよ。でもそんな兵長も仕事が出来る男って感じでかっこいい。今は無理でもいつか出来るって事なんだろうし。それまで待っていればいいだけの話!


「…お前、前向きだな。」
「いいんじゃないか…ナマエらしくて。」
「え?っていうかそろそろ仲良くなれたはずだし、もう告白再開してもいいかなあ?」
「だからはえぇよ!!少しは懲りろ!」
「いいんじゃないか?」
「てめぇライナー面白がってるだけだろ!?止めろよ!」
「最近ぜんぜん好きって伝えてないし…やっぱこういうのは伝えたい時に伝えないと。」
「だからって挨拶がてら伝えるのはどうかと思うぞ」



それからまた私は兵長を見かける度に想いを伝えるという日々を始めた。相変わらず兵長の反応は薄いけど、継続は力なり。続けていたらきっと兵長も応えてくれるはず!お茶だってできるはず!いや楽しみだなあ!



「兵長!好きです!」
「ああ。」
「私の事どう思ってますか?」
「騒がしいやつだと思っている。」
「兵長を見かけるだけで私の胸は超騒ぎますからね!」
「そうか。」
「好きです!」
「もう聞いた。」
「え、一日一回までだったんですか?!」



「…兵長、あれでよくキレねぇよな。」
「さすが人類最強の兵士だな。それとも実は満更でもないとか?」
「っえ、あれを?そりゃねぇだろ…」


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