「暇ですねー、リヴァイ兵士長。」 私は話しかける。執務室で忙しそうなリヴァイ兵士長に。 「…俺が暇じゃねぇのに副官のお前が暇だなんて事があるのか?」 「あるんですねぇ…」 「ねぇよ。手伝え。」 リヴァイ兵士長の副官を任されている私は、いつも側でお手伝いという名の仕事をしている。 兵士長はあまり睡眠もとらずに仕事をこなし、一息入れるという事もたまに疎かにする。疲れが溜まっている彼をしっかり休ませてあげるのも私の務めと思っているのだが、なかなか休憩をとらない。なのでどうすれば休ませてあげられるのだろうといつも試行錯誤している。 「しりとりしませんか?」 「しねぇよ。」 「しりとりをしましょう。」 「決定するな。」 「しりとりの“り”からです。では私から。“リヴァイ兵士長”」 「勝手に始めるんじゃねぇ。」 「ほら、兵士長の番です。“う”です。」 「………」 「ほらほら」 「……“初陣”。」 「えーっと…って、終わらせないで下さい。それともルールが分からないんですか?」 「嫌がらせだ。」 「じゃあ次はしりとりの“し”からにします。リヴァイ兵士長からどうぞ。」 「続くのかよ。」 「早くして下さい。」 「じゃあ、“試験”。」 「だから終わらせないで下さいって。もういいです次は私からです。“進撃”」 「“巨人”。」 「…“リンゴ”」 「“誤算”。」 「“ローゼ”」 「“前線”。」 「“刈り上げ”」 「“下山”。」 「“駆逐”」 「“クイーン”。」 「“五臓六腑”」 「“プラン”。」 「“立体機動装置”」 「“調査兵団”。」 それからこの無情なやりとりが数分続き、勝っているはずの私は敗北の気分を味わい続けた。そしてだんだん暴れたくなってきたのでやめた。よくもこう終わらせる言葉がスラスラと出てくるものだ。そこだけは感心した。 「リヴァイ兵士長はしりとりを終わらすエキスパートなんですか?」 「そんなエキスパート居てたまるか」 「これから兵士長を紹介する時はしりとりを終わらすエキスパートだという事を付け加えておきますね。」 「やめろ。メモすんな。」 「リヴァイ兵士長は私の上司であり、更にしりとりを終わらすエキスパートです。彼はすぐにしりとりを終わらす事が出来ます。その為に常日頃から並々ならぬ努力を…」 「してねぇよ。ナマエ、そろそろ黙れ。」 「あ、そういえばこの前街へ出掛けた時に」 「黙る気は一切ないんだな、お前。」 「スカーフとハンカチを見つけたんですが、それがとても良い生地で作られたものらしく兵士長に似合いそうだったのでプレゼントしようと思い購入しました。部屋にあるのであとで取ってきますね。」 「……何でだよ。」 「とても良いスカーフらしいです。」 「高かったんじゃねぇのか」 「プレゼントするものに対して値段を聞くのは不躾だと思うのですが。」 「そうじゃねぇ。それならお前が使え。」 「気に入らないのですか?柄つきですよ」 「無地じゃねぇのかよ。」 「冗談です。白い無地のものですよ。」 「…わざわざ俺にそんなもん買わんでいい。お前の金はお前が必要なものに使え。」 「私のお金は私のしたいように使います。よって、兵士長に口を出される筋合いはありません。」 「お前は俺の副官だが、そこまでしなくていい。」 「別に立場上そうしているわけではありません。それに、そのスカーフを私が身に着けたとして…兵士長とペアルックみたいになるのはご免です。」 「……嫌だってのか」 「そうですね……嫌です。」 「じゃあ誰となら良いんだよ」 「そうですね……モブリットさん、とかでしょうか。」 「何でだよ。何でだ。」 「私は副官として彼を尊敬しています。彼の分隊長へのツッコミスキルはとても高いです。尊敬に値します。」 「そこかよ。」 「私もあんなふうに兵士長にツッコミをいれたいんですが…」 「そんな事より仕事をしてもらいたいんだが。」 「身長がワイルドすぎます!…とか、どうでしょう」 「とりあえずちょっとこっち来い。」 それを断り、紅茶を淹れてきますと言って逃げた。 こうして無駄口をたたきながらも兵士長は書類からあまり目を離さない。ツッコミの提案をした時は鋭い眼光が私を貫いていたけれど。どうにか休ませたくて意識を仕事から切り離そうとしているのに全く意味がない。むしろ逆効果のような気もする。 紅茶を淹れて机にカップを置くと、チラリとそれを見た。 「…お前も飲め。」 「私は結構です。」 すると書類を手放し、息を吐きながら背もたれに寄りかかる兵士長。 「分かった。少し休憩するから、お前も飲め。」 「…はい。」 ようやく休ませる事に成功した。 リヴァイ兵士長はカップを持って席を立ちソファまで移動する。そしてその前にあるテーブルにカップを置いた。他に場所がないので私もその隣に腰を下ろし自分の紅茶を淹れる。 特に会話はなく黙っていると、兵士長が口を開いた。 「お前は、何か欲しいものとかないのか。」 「欲しいものですか?」 「…ああ。」 「スカーフのお礼なら別にいいんですよ?私が勝手にした事ですし。」 「ならお前に何を買おうがそれも俺の勝手だろ。」 「…そうですね。しかし欲しいものが特にない場合はどうすればいいのでしょう」 「何かあるだろ。何でもいい。」 「何でもと言われると逆に…」 「……」 「…あ、じゃあ、今見たら茶葉がもうすぐなくなりそうだったので、それを。」 「それは経費で落とせ。」 「…じゃあ……新しい掃除道具を。」 「だから違う。そういう事じゃない。」 「…しかし、本当にないんですが。」 「ないと言うのなら俺と同じスカーフを買ってやる。そしてそれを必ず身に着けろ。」 「他のものを考えておきますのでもう少し時間を下さい。」 「……そんなに嫌なのか」 「嫌ですよ。そんなのつけていたら私がリヴァイ兵士長に感化されているみたいじゃないですか。」 「別にいいと思うんだが」 「全然よくないです。」 「チッ…」 「逆になぜ兵士長は私とペアルックしたいんですか」 「したくねぇよ。ただ拒否されると腹が立つ。」 「したくないのならいいじゃないですか…」 「お前こそそんなに嫌がらなくてもいいだろ」 「嫌ですよ。」 「真顔で何度も言うな」 「だって裏で変な噂でも立てられたら嫌じゃないですか。」 「何がだ?」 「オソロイなんて、まるで恋人同士みたいじゃないですか。そんなふうに思われては困ります。(立場的に)」 「…それは困るな。」 「そうでしょう。」 「俺としてはお前とそんな関係になっても構わないんだが、そんなあからさまにアピールするのは避けたい。」 「そうでしょう……ん?」 聞き流しそうになるくらい唐突なその言葉が引っかかり思わず隣を見ると、シレっと紅茶を啜る兵士長。 「何だ?」 「いや…今、私と恋仲になってもいいみたいな…そんな告白まがいな言葉が聞こえたので。」 「確かに言ったが。」 「……リヴァイ兵士長、私のこと好きなんですか?」 「嫌いじゃない。」 「というと?」 「正直、好きなのかと言われるとよく分からんが、しかしお前が相手というのは悪くないと思う。」 「…なんですかそれ。とても微妙な気持ちになりました。」 「お前は俺の事をどう思っている」 「兵士長をですか……。嫌いではないです。」 「そうか。」 「…なので、もし兵士長の貰い手が居なかった場合は最終的に私が引き取ってあげてもいいですよ。」 「…えらく上からだな。」 「はい。でもまぁそれまでは副官としてずっと側に居たいです。」 「…そうか。そうだな。」 「はい。」 休憩中にいきなりこんな話になってしまったが多分これからも今以上の関係にはならない。少なくとも、この世界が今よりまともになるまでは。それまでは私達もずっと兵士長とその副官の関係のままだろう。 「…そろそろ仕事に戻るか。」 リヴァイ兵士長はカップを置く。 「はい。」 とりあえず今は目の前の仕事をこなす為に今日も私は彼のお手伝いをする。そして今日の仕事が終わったら部屋からスカーフとハンカチを持ってきてそれを兵士長に渡し、私も欲しいものを考えよう。 |