「…私も、本部に行かなきゃ。」
「あぁ…そうだな。」
「なんか熱も下がったっぽいし、さすがに帰らないとね。」
「…俺のおかげか。」
「…いや、病人が相手なら普通はもっと優しくするものだと思うんだけど。」
「優しく?それで満足できるのかてめぇは」
「……さぁ、どうだろうね。」


朝から優雅に紅茶を飲みながらするような話じゃない。絶対。
リヴァイが書類整理しているのを淹れてもらった紅茶を啜りながら眺めていた。そしていつまでもここには居られない事を思い出す。ここ何日かずっとこっちに居たからさすがにそろそろ本部に顔を出さなければ。というか普通に帰るだけなんだけど。

紅茶を飲み干し、カップを置く。


「…さて、そろそろ行くかな。」
「何だ、俺らと一緒に出るんじゃねぇのか」
「うん。だってリヴァイは班員たちと向かうんでしょ?なんか気まずいし。」
「何でだよ」
「いや…だって…みんなリヴァイに憧れてる兵士じゃん。それなのにそんな憧れの兵士長と体交えたとか気まずくて仕方ない。申し訳ないっていうか」
「…考えすぎにも程があるぞお前。」


いや…でもほら…ね?ぺトラとかさ。尊敬の眼差しでリヴァイの事見てるし。なんか、ね。あるじゃん。よく分かんないけど。
とにかくそういう事で、さっそくジャケットを着る。カップを片そうとするとそのままでいいと言われた。


「…あ、私の服も持って行くか…」
「別に置いておいても構わんが。」
「…それって、どういう意味ですかね」
「そのままの意味だ。」
「どんだけ来てほしいんだよ…。いいよ持って帰る。」
「そうか…」
「…どうせまた来た時はリヴァイの服借りればいい話だし。」
「…それもそうだな。」


昔はこんなあからさまな会話をしてなかったのになぁ。お互いちゃんと好きだったけど、いろんな事をあまり言葉にしてなかったし。今考えてみれば地下に居た頃の私達ってけっこう冷めてたのかな。というより人として冷めてたのか。
そういえばそもそも私達、お互いに「好き」って一度も言った事ないんだよね。地下の頃はなんかこう、雰囲気っていうか…お互い求め合ってるのが口にしなくてもちゃんと分かってたし確実に惹かれ合ってたから、わざわざ言わなかった。だからちゃんと「好き」って言った事ない。ていうか今も言ってないよね。

私リヴァイに言葉としてちゃんと伝えた事ない。


「……、」


別にそんなの言わなくても絶対分かってるし、めっちゃ今更だけど。


「ナマエ、熱が下がったとはいえ病み上がりなんだから無理はするなよ。」


でも、今、ちゃんと言っておきたい。


「…オイ、聞いてんのか?」
「……。」


ドキドキと鼓動を打ち始める心臓に、落ち着けと言い聞かせる。そして息を吸い込みリヴァイを見る。


「…リヴァイ。」
「あ?」


見つめると、ちゃんと見つめ返してくれる。


「………、」
「……何だよ。」


ちゃんと目を逸らさずに見ていてくれる。


「あのさ…私、ちゃんと、言った事なかったけど……私…さ」


それだけなのに胸が締めつけられる。心地よく。


「ずっと…昔も、今も、…これからも、リヴァイが好き。…愛してる。」


その言葉は思っていたよりも自然に、息をするように言葉になった。
私の胸は満足したように落ち着いてくる。だけどそれを聞いて面を食らったような顔をするリヴァイに、だんだんとまた恥ずかしくなってくる。何も言わないリヴァイ。私は沈黙に耐え切れなくなって背中を向けそそくさと部屋を出ようとした。


「じゃ、じゃあそういう事で。先に出ます。」


(ていうかそもそも愛してるって何!?)
好きって言おうとしただけなのに。自分で言っておきながら超恥ずかしくなってきた。やばい。

ドアノブを握りさっさと出て行こうとドアを開くと、私の後ろから手が伸びてきてバタンと閉められた。


「な、ちょ…」
「……言い逃げはよくねぇ。」


耳元で声がして振り向くといきなり唇を押し付けられた。


「んっ、」


そして考える暇もなく何度も何度も角度を変えてキスをしてくるリヴァイ。そのうち少し苦しくなってきて酸素を求めて口を開いてもうまく吸い込めず、それでも気持ちのいいキスに私はとろけそうになる。

少しすると唇が離れ、やっとリヴァイの顔が見えた。


「…ナマエ」
「…な、に」


どことなく、紅茶の味がするキスだった。
体中がリヴァイで満たされて、愛しくて、離れたくなくなる。


「…愛してる。」


返ってきたその言葉は私の胸いっぱいに広がりこれでもかってくらいキラキラと輝く。

ちゃんと分かってた。だけど言葉にするとこんなにも心強い。こんなにも愛しい。生きてるって、実感する。
そうだ、私がリヴァイを好きになった理由はそれだった。明日もまた会いたいと思えたこと。それだけで、何にもなかった私の日々に意味をくれた。生きてると思えた。そしてリヴァイも私を想ってくれている。どこに居たって、それだけで私は幸せになれる。リヴァイさえ居ればそれでいい。それだけでいい。それだけで生きていける。


「…ねぇ、リヴァイ。…する?」


ついに気持ちが抑えられなくなり、雰囲気に呑まれ朝からそんな事を言ってしまった。

リヴァイは口角を上げる。


「しねぇよバカ。さっさと本部に帰れ。」


そしてバッサリと断った。


「な……」
「俺もお前も仕事が溜まってるだろうが。そんな事をしてる暇はない。」
「……き、昨日っ、我慢できないとか言ってたのはどこの誰だったっけ?!」
「昨日は昨日。今日は今日だ。」


いきなり切り捨てられ、しかも平然とカップを片付け始める。


「………、」


な、なにそれ。なんか私だけ盛り上がってるみたいじゃん!?


「…ム、ムカつく……。」
「心配しなくてもまたちゃんと可愛がってやる。」
「……ム、ムカつく…!」


さっきの甘い雰囲気どこ行った。


「早く行かねぇと俺らと出る事になるぞ。いいのか」
「……っはいはい!!気まずいからね!!兵士長があんな強引に濃厚なキスしてきたとか部下に知られたくないもんね!!」
「気持ち良さそうにしてた奴がよく言う。」
「くッ…!」


もういい。ムカつくし恥ずかしい。ムカ恥ずい。とにかく出て行こう。帰ろう。本部へ帰ろう。今すぐ。
自分の荷物を持って、ドアを開けた。


「お世話になりました!!」


そして振り返り叫び、バタンと音を立ててドアを閉める。


「(ムカつくー!)」


思わずドアを睨む。
その中では静かになった部屋でリヴァイがため息を吐いてベッドに座り込んでいた。


「クソッ……何なんだアイツ…煽ってくるんじゃねぇよ…」


そんな事を呟いてるなんてつゆ知らず、私は廊下をズンズンと進んでいった。





「あっ、ナマエさんっ?」
「……二ファ、」


何日かぶりに愛馬に揺られ本部に着くと、二ファが駆け寄ってきた。


「もう大丈夫なんですか?」
「うん。世話かけたね」
「いえ、良かったです。」
「今度飲み連れてくからさ。」


ポンと頭を撫でて、ひらひらと手を振る。


「えっあ、は、はいっ!」
「ん。じゃあ」
「………?(な、なんかナマエさん、機嫌がいい?頭撫でられたのなんか初めて…)」
「(あーでも飲み行ってリヴァイとのこと聞かれたらどうしよう)」


二ファに別れを告げとりあえずエルヴィンのとこへ向かう。それからハンジのとこにも行って。…新兵たちはどうしてるだろう。別に変わりないか。あとモブリットにも会っておこう。

実際ここを離れてから大して経っていないのになんだかとても久しぶりに感じる本部に、現実に戻ってきたような気持ちになる。リヴァイとの時間がどこか夢のような、そんなふうに思えてるのかもしれない。
そんな事を思いながら足を進めていると団長室の前に着いた。ノックをして、開ける。


「戻りましたー。」
「…ナマエか。」
「じゃ。」


ドアを半分開けそこから顔を出し報告をしてすぐに閉めようとすると、止められた。


「待て。何だそのぞんざいな挨拶は。」
「……他に話す事ねぇし…。」
「まぁ入れ。」
「……なんで」
「体調はどうなんだ?」
「……。」


仕方なく中へ入りドアを閉める。なんとなく、いつも以上にあまり話したくないんだけど。


「ご覧の通りです。」
「そうか。リヴァイとは仲良くできたのか?」
「っなぇ、…!?」


書類に目を通しながら込み入った事を聞いてくるエルヴィン。思わず変な声が出た。


「…仲良くできたようだな。」
「はぁ?!な、仲良くってなんだ!!」
「二人で過ごしたのは久しぶりだったんじゃないのか?」
「…な…何でてめぇにそんなこと…」
「どことなく雰囲気が変わったように見える。」
「……!っき、気持ち悪ぃこと言うんじゃねぇ!ジロジロ見んな!!」
「…ふっ」
「オイ笑うなハゲ!!」
「まぁ良かったじゃないか。」
「だから何が!!」
「もう行っていいぞ。面白い反応が見れて良かった。」
「……て、てめぇ…殺すぞ…」


黒い感情が渦巻く。
いやマジで…マジで殺そうかコイツ。人の反応を見て楽しんでやがる。あの時の殺意をもう一度向けてやろうか。地下から出てきた時の気持ちを……。

震える拳を握り締め、なんとか気持ちを落ち着かせる。


「いい性格してんなマジで……」
「それはナマエも同じじゃないか?」
「一緒にすんなっ!!」


これ以上コイツと話してたらストレスで死ぬ。背中を向け、リヴァイの時以上に思い切りドアを閉める。


「チッ…、クッソ…!」


ムカ恥ずい!!何なの本当!!何で一瞬で見透かされてんの!?ムカつく!私ってそんなに分かりやすいの!?


「(あーもうイライラする……)」


でも、エルヴィンには見抜かれてしまうような気がどこかでしてた。だから顔出してすぐ出ようと思ったのに。ちくしょう。ムカつく。何なんだ。


「あれっナマエじゃないか?!戻ってきてたのー!?もう大丈夫なのぉ!?」


すると向こうからメガネをかけた奴が走ってきて、それに気づくと私もそれに向かって走り出した。


「おっ、なに!?ナマエも私に会いたかったの!?いやだな素直でかわいい!さぁ、私の胸に飛び込んでおい……デェッ?!?」


そして(腹いせに)挨拶代わりの飛び蹴りをお見舞いしてやった。それをモロに食らいぶっ倒れるハンジ。


「…な…、なん、で……?」
「これくらい元気ってこと。」
「……言葉だけでよくない?」


ハンジを見下ろし、ため息を吐く。
もう誰にも見透かされないようにしなければ。何がどうなって見抜かれるのか分からないけど。


「でもテンション高いね。リヴァイと何かあった?」
「メガネ潰すぞ。」
「ええっ?!」


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