「リヴァイさんも入りますか?」
「……」


お風呂から出て、座っているリヴァイさんに話しかけると振り向いて私を見る。


「あとでいい。」
「そうですか?」
「ああ…」
「……。」


なんとなくテンションが低いような気がするリヴァイさん。いやまぁあんな事があったあとに普通の感じで居られてもそれはそれでアレだけれども。

帰宅早々リヴァイさんは走り回って汗をかいてしまった私を見て、先にお風呂に入ってこいと言った。確かにそのままにするのも気持ち悪かったので素直に頷き、洗濯物を取り込んでシーツをベッドに投げてからお風呂に入った。


「…そういえば、リヴァイさんお昼は何作ったんですか?」
「ただの野菜スープだ。」
「スープですか。それと?」
「……それだけだが。」
「っえ、それだけ?スープだけ?ですか?」
「ああ。」
「少なくないですか?それでお腹いっぱいになるんですか?」
「俺の世界では基本的に三食それとパンだけだった」
「え、あ、そう…なんですか…」


なんと。もしかしてリヴァイさんの世界はあまり裕福ではなかったのだろうか。
だけど巨人と戦うっていうのにそれだけで体力はもつのか?ていうか今更だがそもそも巨人と戦うってどんな世界だ。そんなのが襲ってきて人間は勝てるのだろうか。立体起動装置を使うって言っていたけど。それで太刀打ちできるものなの?

リヴァイさんの世界は言葉だけではあまり想像が出来ない。


「…お前の分も、作っておいたんだが」


そんな事を考えているとリヴァイさんはボソっと呟いた。


「……え?私の分?…スープを、ですか?」
「…ああ。」
「っえ、まじですか?」
「ああ。」
「え、うそ、嬉しい。食べたい。是非食べたい。」
「……」


なんですって。
その言葉に驚きそそくさとキッチンへ行くとナベがそのまま置いてあり、フタを開けるとスープが入っていた。


「わ、ほんとだ!マジだ!うわぁ、すごい!」
「……別にただのスープなんだが」
「おいしそうです!よっしゃじゃあオムライスもちゃっちゃと作っちゃいますね!待ってて下さい!」
「………。」


リヴァイさんが私の分も作ってくれたなんて嬉しいではないか。
早く食べたいのでそれからササっと作り上げ、テーブルに運んだ。


「リヴァイさんもスープいりますか?」
「いらねぇ」
「いらないんですか?」
「…お前が作ったやつだけでいい。」
「でも少し残りますよ?」
「いらん。」
「そうですか……まぁいいや。じゃあ私が全部食べちゃいます。せっかくなので」
「…無理に全部食わなくていい。」
「無理じゃないですよ。頂きます。」


サラダと、オムライス。それと私はリヴァイさんのスープ。いただきますをして、それを口に運ぶ。


「……。」
「……え、おいしい。おいしいじゃないですかリヴァイさん」
「…そうか。」
「味付けちゃんと出来たんですね!すごいです」
「お前が作るものより薄味だがな。」
「塩辛いよりはいいじゃないですか。おいしいですよ。」
「……」
「…そういえば、男の人の手料理食べたの初めてかも。」
「こんなもん、野菜切って鍋にぶち込むだけじゃねぇか。手料理と呼ぶほどのものでもない。誰でも出来る。」
「ぶち込むって。いや、そんな事ないですよ。そんな事言ったら何だってぶち込むだけですし。」


確かに薄味ではあるが、ちゃんとした野菜スープだ。なんとなくの説明をしたとはいえ知らない調味料で作ったという事が純粋にすごい。リヴァイさんって実はスペック高いのかな。

それからリヴァイさんはオムライスとサラダを完食し、私もちゃんと全部食した。食器はリヴァイさんが片付けてくれて、その後は思い出したように今日買ってきたものを取り出しリヴァイさんと確認し始めた。


「あとこれが部屋着で、こっちは外出用の服です。それと靴も一足だけ買ってきました。安いのですけど。あとは他も適当に……あ、あとこれ。三角巾です。」
「……有り難いが、いろいろと買いすぎじゃねぇか?」
「そうですか?そんな事ないと思いますけど…必要最低限のものですよ。」
「……」
「あ、おパンツもちゃんと買ってきましたよ。」
「………。」


それでも一通り買うとなるとそこそこしたが、必要なものなのだから仕方ない。私は普段からそんなに使わないのでお金はわりと残っているのだ。趣味がないと友達と遊ぶ時くらいしか使わない。


「…あ、そうだリヴァイさん」


そこでふとある事を思い出す。
三角巾を取り出しているところ申し訳ないのだが、これは言っておかなければ。


「何だ」
「あの…言っておきたい事がありました。話をむし返すようで悪いんですけど…」
「……」
「えっと…リヴァイさん、今日家の鍵開けたまま出て行ったでしょう?」
「…あぁ」
「開けっぱなしで居なくなるのは、やめてもらいたいです。まぁ鍵は私が持ってるのしかないので閉めようもなかったんでしょうけど…開けたままだと危ないです。泥棒にでも入られたら困ります…あと電気も使わない時は消してもらえると有り難いです。点けっぱなしだと電気代が勿体無いので」
「……分かった。」
「…お願いします。」


これからの為にもこういう事はちゃんと伝えておかないと。
きっとリヴァイさんも大人だし分かってくれるだろう。


「…ナマエ」
「っえ、…あ、はい?」


ふいに、また名前を呼ばれる。二回目。
リヴァイさんを見つめた。


「…てか、私の名前覚えてたんですね」
「まぁ、そりゃあな…」
「良かったです。…何ですか?」


それを嬉しく思いながらも何だろうかと耳を傾ける。


「…お前は、俺みたいなよく分からん人間を家に招き入れる馬鹿だと思っていたが…やはり、普通じゃない。」
「え?」
「お前は“今”だけじゃなく“これから”の事も視野に入れて考えてやがる。何より会ってから大して経ってもいねぇのに自分が迷うくらいに探し回るなんて、俺ならしない。」
「…そうですか?」
「お前みたいな人間は、そう居ないだろう。誰かの為に真っ直ぐ動けるような馬鹿は。」
「……」
「あの日お前に会っていなかったら俺はあのままどうなっていたか分からねぇ。まぁ確実にいい状況にはなっていないだろうな。俺が今こうして正気を保っていられるのも、お前が馬鹿だったおかげという事だ。」
「…馬鹿、ね」
「そもそもこの世界で俺に話しかけた人間はお前だけだ。他のヤツらは俺が声をかけても逃げるか不審者を見るような目を向けるかのどっちかだった。」
「そりゃあ…リヴァイさん完全なる不審者でしたし。不審者でしかなかったですし。」
「そうだ。それが普通の反応なんだよ。なのにてめぇはわざわざ声をかけてきやがった。頭がおかしいとしか思えんが、それに俺は救われた。」
「……。」


この人は、もしかして人を貶しながらじゃないと話せない病気なのだろうか?

それともこれはツンデレというものなのか?いや違うか。というか30代のツンデレなんて見たくないしな。「べ、別にお前の為にスープ多めに作ったわけじゃねぇんだからな!」とか言われてもコワイし。何だろう、あまのじゃく?ただのひねくれ者?…分からないけど、でもリヴァイさんが何を思っているのかは分かる。


「しかし頭がおかしいのは俺も同じだ。この世界で、壁だ巨人だと言っているのは俺くらいだろう。だが、それでも、お前は俺の話を信じた。つまりお前は俺と同じくらい…いや俺以上に異常な人間という事だ。」
「異常、ですか。」
「そうだ。俺とお前は異常者同士ってわけだ。」
「…なるほど…、分かりました…分かりましたよ。リヴァイさんが私を頭のおかしいやつだと思っていることは十分分かりましたし、リヴァイさんも異常な人だと改めて分かりました。」
「……」
「だからつまり…これからも異常者同士、仲良くしましょう、という…そういう事、ですよね?」
「……ああ、そうだ…そういう事だ」


どんだけ回りくどいねん!とツッコミを入れたくなるくらいの凄まじい回りくどさだ。だけど、きっと彼はここに居れる事に感謝しているという事なのだろう。

そしてリヴァイさんの口から簡単に言えないのなら、私の方から言ってしまおう。それは私だって思っている事なのだから。


「リヴァイさん。これからも、よろしくお願いしますね。」
「……ああ…。」


これからもよろしくね、と。つまり、そういう事なのだろう。


回りくどいわ!


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