軽く化粧をして、シーツを干し、支度を進める。そんな中大変な事に気がついた。 「リヴァイさん、どうしよう」 「何だ」 「リヴァイさんのお昼ごはん考えてなかったです」 「……。そうか。」 「どうしよう」 「…適当に済ます。」 「いやどうやって?即席のもの今ちょうど切らしてますよ…」 「…別に一食ぐらい抜いても死なねぇよ。」 「いやいやいや」 「気にするな。」 「気にします。どうしよう。…リヴァイさん、料理とか出来ますか?」 「…それくらい出来なくてどうする」 「え、出来るんですか?」 「当然だ。」 「へぇ…意外です。だったらキッチンの使い方教えるんで自分で作ってみますか?使い勝手違うと思うのでちょっと怖い気もしますが。」 「…お前がいいなら、それでも構わんが。」 「じゃあ…ちょっと来て下さい。」 「……」 それからキッチンの使い方や調味料の事を一通り教えるとリヴァイさんは順応力が高いようで、一度の説明で理解しているみたいだった。 「出来そうですか?」 「多分な。」 「火傷だけ気をつけて下さいね。あと火の消し忘れとかも。」 「ああ。」 「包丁で指とか切らないようにして下さいね。」 「…ガキじゃねぇんだぞ。」 「でもなんか心配で…。あ、野菜とかは冷蔵庫に入ってるんで好きなように使って下さい。」 「…分かった。」 「質問はありますか?」 「ない。」 「包丁を使う時は、こっちの手は猫の手ですよ。こう、切らないように…」 「包丁くらい向こうでも普通に使ってたんだが。」 「………」 「……何だ」 「本当に大丈夫ですか?」 「だから、大丈夫だ。」 リヴァイさん本当に料理とか出来るんだろうか。なんか想像出来ないんだけど。 「………、」 「…大丈夫と言っているだろうが。てめぇは早く仕事に行け。」 心配の眼差しで見つめていると強引に背中を押された。 そういえば忘れていたけどリヴァイさんはいい歳した大人だったっけ。それなら料理くらい普通に出来る、か…。 うん、そうだよね。きっと大丈夫だ。 「もし指を切ったらあそこに救急箱が…」 「うるせぇな切らねぇよ。いいからさっさと出て行け。」 「ひどい、私の家なのに邪魔者扱いですか?」 「遅刻したらどうする。」 「なんか不安になってきた…。爆発とかさせないで下さいよ?」 「どう調理すれば爆発するんだよ。逆に聞きたい」 大丈夫と言い張るリヴァイさんに急かされ、カバンを持つ。 「…多分、というか絶対に暇だと思うんで、掃除でもしてて待ってて下さいね。あと食べたお皿は水につけておいて下さいね。」 「分かった。」 「ないと思いますけどもし誰か来ても開けないで下さいね。」 「ああ。」 「あと火の消し忘れだけは本当に…」 「忘れねぇよ。ほら行ってこい。」 心配しながらもクツを履き、リヴァイさんと向き合う。 「…じゃあ、行ってきますね。」 「ああ。」 「そんなに遅くはならないんで。」 「ああ。」 「買い物もすぐ終わらせて帰ってきます。」 「無駄に急がんでもいい。」 「……いい子で待ってて下さいね?」 「…殴ればさっさと行くのか?」 「うわ、暴力反対っ… じゃあ行ってきます!」 殴られるのは嫌なので、それ以上は何も言わず軽く手を振り玄関を閉めた。 私の家なのに、なんとも変な感じだ。 「…(大丈夫かなぁ)」 不安は残るが、仕方ない。 鍵をしっかりと閉めて歩き出した。 ◇ 「……やっと行ったか。」 やたらとうるさい心配性を無事見送り、部屋へと戻る。 「…(何しよう)」 しかしやる事がない。 アイツは掃除でもしてろと言っていたが掃除機もやったしクイックルもやった。さすがにまだ埃もゴミも落ちてはいない。…だがまぁもう少ししたら一応一通り掃除しておくか。細かいところはまだやっていないしな。 黙って突っ立っていると窓に目が行き、なんとなくベランダに出て風に当たる。 確かここは5階と言っていた。ここから遠くを見つめてもやはり壁は見えない。分かってはいるが確実に違う世界だ。本当に信じがたい話だが。アイツもよく初対面でこんな話を信じたもんだ。しかも家に連れ込むとは。 「……」 下を見ると、アイツが歩いているのが見えた。頬杖をつき目で追っているとアイツの方も俺の存在に気づいたようで、こっちを見上げた。 若干の気まずさを感じながらもそのまま見下ろしていると、手を振ってきやがる。 「…前見て歩け。」 仕方なく軽く振り返してやると、笑ったように見えた。 「……、」 それに思わず胸がくすぐったくなり、手を握り下ろして早々と中へ戻る。 「チッ…」 平和すぎる。何なんだこの世界は。巨人が存在せず、人類の敵は居ない。 どうして俺はこんな世界に居るんだ?夢でも見ているのか?訳が分からない。記憶を辿ろうとすれば頭が痛みやがる。どんな世界で、あの世界で何が起きているのかはちゃんと覚えているのに、ここへ来る直前の事を思い出そうとすると頭痛に襲われる。一体どうすればいいんだ。俺はあの世界に戻れるのか?向こうの連中は、どうなっているんだ。 何をどうすればいいのかも分からずため息が出る。ため息しか出ない。 とりあえずソファに座り、テレビとやらに視線をやった。 ◇ 「(…リヴァイさん大丈夫かなぁ)」 あれからいつも通りにバイトをこなし、お昼になるとコンビニで買ったお弁当を食べながらリヴァイさんはちゃんとお昼食べれているのだろうかと心配しながら昼休憩をとる。 指とか切ってないだろうか。火傷は。料理自体は。火の消し忘れは。暇疲れはしていないだろうか。 気になって仕方がない。それにさすがの私も知り合ったばかりの人間が自分の家に一人で居るという事実はあまり落ち着かないものだ。見られて恥ずかしいものとかはないはずだけど。下着以外は。……リヴァイさんはそういう事しないと思うけれど。でも落ち着かないなぁ。大丈夫かなぁ。いろんな意味で。 家を出てから脳内がほとんどリヴァイさんで占領されている。 バイトを終わらせ、必要なものを買い、早く帰ろう。ごはんを頬張りながら一人頷き、お茶を流し込んだ。 それからは時間が過ぎるのがとても遅く感じたがようやくバイトを終わらせ、買い物を済ませようと急ぎ足でお店に向かう。適当にリヴァイさんに似合いそうな服を選び、生活に必要とされるものを(三角巾も忘れずに)買い、今日の晩ご飯の材料を買って家路につく。今日はオムライスにしよう。 さっさと買い物を終わらせたが何気に大荷物になってしまった。家からバイト先までそんなに遠くないので徒歩なのだが、車で移動したい気分。さっさと帰りたいし荷物重い。 それに相手と連絡をとる手段がない事がこんなにも不便だとは。もしメールや電話が出来ればここまで気にする事もなかっただろうに。こんなに急ぎ足で帰る事もなかったかもしれない。 「ハァ……疲れた……。」 体力のない私は少し息切れしながら玄関へと辿り着いた。そして、そこで私は次の展開に驚くはめになる。 「え……あれ…?鍵、開いて、る……?」 なぜか閉めたはずの鍵が開いている。 おかしく思いながらも中へ入ると、そこに居るはずのリヴァイさんの姿が消えていたのだった。 |