「あ、スウェット着れたんですね。良かったです。でも出てくるの早いですよ。ちゃんと温まったんですか」
「……」


あれからリヴァイさんと家に帰り、まず私からお風呂に入った。先に入って下さいと言ったのに聞いてくれずタオルとホットミルクを置いてから仕方なく先に入った。早めに出てそれからリヴァイさんにはお風呂の使い方から説明してあげて、湯船にしっかりと浸かるよう言った(のにわりとすぐ出てきやがったけど)。服はとりあえず私のを貸したけど、着ていたもの以外にないのなら買いに行った方がいいのかもしれない。


「あれから何か分かりましたか?」
「…何も分かってねぇ。」
「そうですか…」


夕飯を食べながら話を聞く。リヴァイさんを探しに出ていたので作る時間がなく彼がお風呂に入っている間に作った簡単なものだけど。リヴァイさんはジッと見てから食べ始め、また悪くないと言ってくれた。ちなみにお箸は使えないらしい。


「そもそもリヴァイさんはここに来る直前に、何か変わった事とかしてなかったんですか?」
「それを思い出そうとすると頭が痛んでそれどころではなくなる。」
「えっ何それ大丈夫ですか」
「知らねぇよ。どうにかしろ。」
「えっ私が?無理っす」
「……とにかく気がついたらこの世界に居た。以上だ。」
「以上なんですか……これはマジで全く戻る方法が分からないですね。」
「そうだな。」
「でもまぁ…私は一人暮らしですし、帰れるまでずっと居てもらって構いませんよ。」
「……」
「そういえばリヴァイさんっていくつなんですか?ちなみに私は22歳です。」
「……お前とは一回りほど離れているな。」
「え、一回り……?てことは……10代?」
「てめぇ殴るぞ。なぜ下にいく」
「冗談ですよ。」
「全く笑えない。クソみてぇな冗談言うな。」
「え、でもリヴァイさんって30代なんですか?うっそ」
「嘘じゃねぇ」
「えええマジですか?童顔ですね。小柄だし若く見えます。(それに口が悪いし)」
「小柄は余計だ。」
「30には見えません。そんなに年上に見えなかったので10歳くらいかと思っちゃいました。身長いくつですか?」
「お前、ナメてんだろクソガキ。」
「ちなみに私は162センチです。」
「………。」
「リヴァイさんも私とあまり変わらなそうですけど」
「そうだな。変わらない。同じようなもんだ。」
「それともリヴァイさんの世界ではみんなそれくらいなんですか?」
「………」
「……あっ」
「……。」
「そういうわけじゃないんですね、すみません。そんな睨まないで下さいよやだなぁ」


リヴァイさんはわりと年上だった。でも日本のおじさんとは見た目も中身も違うみたいだ。
それから空気を変える為に家にある物の説明を始めた。冷蔵庫とかテレビとかそれはもう全ての物の使い方を彼に教えた。だけどリヴァイさんは何よりも掃除機やクイックルハンディの話をした時の食いつきがすごく良く、それからはあまり話を聞いてくれずに勝手に掃除を始めた。何も出来ずそれを静かにただ見守る家主。私である。


「オイ、掃除機とやらをやってみたい。」
「え?駄目ですよ。もう夜だし…」
「なぜだ。別にいいだろう。何がいけないんだ。」
「音もうるさいし…下とか隣の人に迷惑になります。」
「……」
「…そんなガッカリしないで下さいよ。明日やりましょう?ね?」
「…分かった。なら、クイックルを続ける。」
「はい。クイックルはリヴァイさんに任せます。」
「任せておけ……埃一つ残さねぇ。駆逐する。」
「駆逐って。(リヴァイさんはすごい掃除好きなんだなぁ)」


それからリヴァイ(掃除が大好き)さんは家中の埃を本当に駆逐してしまった。しかも途中で三角巾とマスクを要求され、引き出しにあった使い捨てのマスクだけを渡すとこの家には三角巾もないのかと怒られた。解せぬ。


「…こんなもんだろ。」
「あ、終わりましたかー?ご苦労様です。」


楽しそうだったので掃除は任せ、一人でテレビを見ているとようやく終えたらしい。満足そうにしている。


「この世界の掃除道具は素晴らしい。持って帰りたい。」
「それは良かったです。持って帰ってもいいですよ。」
「あとこのマスクはかなり身につけやすい。この発想はなかなかだ。」
「そうですか。今日からリヴァイさんをお掃除担当に任命します。」
「…当然だ、任せろ。それよりお前は毎日ちゃんと掃除をしているのか?どう過ごせばあんなに埃を見逃せるんだ。」
「いやそこまで?確かに毎日はしてないですけど…リヴァイさんは掃除が趣味なんですね。お風呂のあとに掃除するだなんて嫌じゃないんですか?」
「とりあえず明日は三角巾を買いに行くぞ。」
「三角巾そんなに大事か…?小学生みたいじゃないですか」
「何でもいい。必要なんだよ。」
「意外にも繊細なんですね。でも明日は私バイトなので、帰りに私が買ってきますよ。」
「バイト?何だそれは」
「仕事です。私は雑貨屋で働いているんです。」
「仕事か…という事はお前は明日家に居ないのか?」
「そうですね。留守番を頼みます。」


私はいわゆるフリーターをしている。高校を卒業してから大学には行かず、だけど就職もせずにバイトをして過ごす毎日だ。勉強はあまり好きじゃなく、だけど就職するのも面倒に思えてこの道を選んだ。お金を貯めてとりあえず一人暮らしを始めて、なんとなく過ごしてきた。きっとそのうち彼氏が出来て結婚して、子供が出来て。そんな感じで生きていくのかなという未来を適当に思い描いていた。
だけど彼氏との同棲より先に異世界の掃除が大好きな30代と一緒に暮らす事になるとは思わなかった。これはもしかして犯罪なのか?


「……お前、無用心にも程があるぞ。」
「…え?」


私はもしかして犯罪行為を?と思っていると彼はそう言った。


「普通、こんな人間を残して家を出るか?何が留守番を頼むだ。何か盗られるとか荒らされるとか、思わねぇのか?」


リヴァイさんはさすがいい歳した大人だ。それは至極正論だ。いや、多分私だってそんな事は分かっている。だけど。


「何家中クイックルさせてんだ。危機感を感じたりしねぇのかてめぇは。」
「いやそれはリヴァイさんが勝手に…」
「お人好しを通り過ぎてただの馬鹿だぞ。」
「そりゃあそうかもしれませんが…ならリヴァイさんこそ、私がどんな人かなんて分からないじゃないですか。」
「あ?」
「それこそ私が殺人鬼かもしれないじゃないですか。いい顔しといて、リヴァイさんが寝ている間に殺しちゃうかもしれないじゃないですか?」
「ふざけるな。お前みたいなガキに殺られるほど落ちぶれちゃいねぇよ。お前なんぞ片手で終わりだ。こうしてこうだ。」
「私こうしてこうされちゃうんですか…でも確かに普段巨人と戦ってるくらいですもんね。私なんか瞬殺ですかね。」
「当然だ。…それにお前は、そういう奴には…見えねぇ。」
「……つまり、そういう事ですよ。」
「は?」
「私もリヴァイさんは悪い人には見えません。…そういう事です。」


リヴァイさんは十分不審者だし、言ってる事はファンタジーだし、30代のわりに言葉遣いが悪い上に目つきも悪いが、悪い人には見えないのだ。


「…お前いつか、痛い目みるぞ。」
「そうなる前にちゃんと見極めますよ。」
「どうだかな…」


きっとこれは犯罪行為ではない。騙されて家に侵入されたわけでもない。異世界の人間を匿っているわけでもない。私はただ人助けをしているだけだ。親にも友達にも誰にも言えないが、真っ当な事をしているのだ。そう、これは。


「捨て猫を拾ったようなもん…って痛ッ?!」
「オイ、今なんて言った?殴るぞ。」
「いや今おもっきり殴りましたよね!?」


30代のファンタジスタに頭を殴られたが、きっとこれからも仲良くやっていけるはずだ。


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